おまけその2
王都から少し離れた、活気ある交易の街。
今日は、日用品や食材の買い出しのために、ルミナと一緒に二人でお出かけをする日だ。
「わぁ……! リゼットさん、見てください! あそこの果物、すごく美味しそうです!」
「走ると危ないぞ、ルミナ。……はぐれないように、ちゃんと手を繋いで」
私はルミナの小さな手をしっかりと握りしめ、人混みの中を歩いていた。
平和な街並み。すれ違う人々。誰も私たちを追ってこないし、命を狙ってくることもない。これが普通の『日常』というやつなのだと、改めて実感する。
しかし、私には一つだけ、大きな不満があった。
「お嬢ちゃんたち、見ない顔だね! その綺麗な銀髪の嬢ちゃん、あんまりにも可愛いから、このリンゴおまけしとくよ!」
「えっ、本当ですか!? ありがとうございます、おじさん!」
果物屋の親父が、ルミナの天使のような笑顔に見惚れて、鼻の下を伸ばしながらリンゴを余分に袋に入れている。
……腹立たしい。
「あ、あの! すみません、落としましたよ!」
「おっと、すまねえ……って、うおっ!? 君、すげえ可愛いな! よかったらこの後、お茶でも――」
すれ違いざまに落とし物を拾ってあげた若い冒険者が、ルミナの顔を見て顔を真っ赤にし、あろうことかナンパなどというふざけた真似をしてきた。
……殺そう。
「……ルミナ。ちょっと、私の背中の大鎌を取ってくれるか。街のゴミ掃除の時間だ」
「リゼットさん!? だめですよ、街中でそんな物騒なこと言っちゃ! ほら、冒険者さん気絶しちゃったじゃないですか!」
私が全身からドス黒い殺気を放った瞬間、若い冒険者は白目を剥いてその場に倒れ伏した。果物屋の親父もガタガタと震えながら店番の裏に隠れている。
「だって……お前が誰にでもニコニコするから。その笑顔は、私だけのものなのに」
私はルミナの手をギュッと強く握りしめ、少しだけ拗ねたように唇を尖らせた。
すると、ルミナは困ったように微笑んだ後、周囲の目など気にする様子もなく、私の首に腕を回して抱きついてきたのだ。
「ル、ルミナ……っ? みんな、見てるぞ……」
「いいんです。……私、リゼットさんのこういうところ、すごく好きですよ」
ルミナは背伸びをして、私の耳元でわざと甘ったるい声で囁いた。
「私の心も、体も、笑顔も……ぜーんぶ、リゼットさんだけのものですから。安心してくださいね?」
「〜〜〜〜ッ!!」
一瞬で頭の先まで沸騰した私は、もはや殺気どころか立っているのがやっとの状態になってしまった。
究極のお人好しで純粋な聖女様は、時に最強の死神すらも一撃でノックアウトする、恐ろしい小悪魔なのだと思い知らされた、そんな買い出しの日の出来事だった。




