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おまけ

「……まったく。あの馬鹿弟子は、罠の張り直しすら忘れてイチャついているのか」


深い森の入り口。

 木々の影に同化するように立つ黒い外套の男――『師匠』は、舌打ちをしながら漆黒の短剣の血振るいをした。

 彼の足元には、黒装束に身を包んだ怪しい男たちの死体が五つ、音もなく転がっている。彼らは教会の残党で、異端審問を終わらせたリゼットたちに復讐を企てて森へ侵入しようとした者たちだ。


リゼットが本気で大鎌を振るえば、こんな有象無象など数秒で肉塊に変わる。

 だが、今の彼女は『死神』ではなく、ただの『恋する乙女』だ。愛する聖女とのお茶の時間を、こんな下劣な血の匂いで邪魔させるわけにはいかない。


「右腕が使い物にならなくなったというのに、人使いの荒いことだ。……まあ、私が勝手にやっていることだがな」


師匠は左手一本で短剣を器用に回し、鞘に納めた。

 その時、彼の研ぎ澄まされた聴覚が、森の奥――リゼットとルミナが暮らす隠れ家の方角から、微かな声を引き拾った。


『あーん、してください、リゼットさん』

『あ、あーん……っ。ルミナ、やっぱり自分で……』

『だーめです! さっき魔竜を倒してきてくれたご褒美なんですから!』


……平和すぎる。

 かつて感情を完璧に殺し、氷のように冷たかった自分の最高傑作が、今やイチゴのタルトを口に運ばれて顔を真っ赤にしているのだ。


「……毒気を抜かれるにも程がある」


師匠は呆れたようにため息をついたが、その口元には、彼自身も気づいていないほど穏やかで、歪な親心が滲んだ笑みが浮かんでいた。


「ガサッ……!」


感傷に浸る間もなく、背後の茂みが揺れた。

 どうやら残党は五人だけではなかったらしい。追加で現れた三人の暗殺者が、殺気を放って師匠に襲いかかる。


「ちっ……。お茶の時間が終わる前に、さっさと片付けるか。あの娘の幸せな食卓に、ハエ一匹近づけさせるものか」


最凶の暗殺者は、再び闇に溶け込むように姿を消し、静かなる『お掃除』を再開するのだった。

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