最終回「氷解」
沈黙は続いていた。
彼女は、
「まあまあね。
素人ならこんなもんよ」
と言ったきり、
他に感想がないのか
という僕の質問に答えなかったので、
僕もずっと黙っていた。
そうして、
沈黙はなおも続いた。
彼女はうつむいたまま、
空になったアイスコーヒーのグラスの底に残る
小さな氷をストローでつついていた。
僕はそんな彼女をただ見つめていた。
そのうち、
彼女の手元のグラスの氷は溶けて
ただの水になった。
彼女は、
ストローを持った手をとめると
顔をゆっくりとあげ、
僕の目をじっと見つめながら言った。
「それじゃあ、
あの小説の感想、
はっきり言わせてもらうわね」
「ああ」
「はっきり言って、
つまらなかったわ」
「つまらなかった?
どこがだよ?」
「終りが。
あの終わり方が、
すごく。
つまらなかった。
やっぱり……」
彼女はそう言いかけると、
また、
うつむいた。
「やっぱり?」
彼女はうつむいたまま囁くように呟いた。
「やっぱり……
最後には、
二人は結ばれなくちゃ……」
そう呟いて頬を赤く染めたサクラナの姿は、
ウィンドウから射しこむ真夏の熱い日射しよりも
ずっと眩しかった。
(完)