「誤解」
「ねえ、もう結婚してるの?
それとも、彼氏でもいるの?」
僕は愚問であることは承知だったが、
ストレートに一番気になることを訊いてみた。
「いやーねえ。
いきなり、へんなこと聞かないでよ……。
いい男さえいれば、あたしだって結婚したいわよ。
ただ、いないのよね。
たまにいても、
相手の方があたしを相手にしないし……」
「おれじゃ、駄目?」
僕は冗談ぽく笑いながら言った。
「絶対に駄目。
二またかけるような男は絶対いやよ」
彼女はきつい調子でそう言った。
僕には、
彼女の言いたいことがすぐにわかった。
でも、
生憎うまい弁解の言葉は持ち合わせていなかったので、
僕はしばらく黙っていた。
その時だ。
あの考えが閃いたのは。
「おれは二またなんかかけてない。
それだけは言っておく」
僕はそう言うと彼女の目をじっと見つめた。
彼女もあのまなざしで僕の目を見た。
しばらくは、睨み合いの形になったが、
彼女の方が先に視線をそらした。
「もういいわ。
その話はやめにしましょ」
僕は話題をかえて、
昔の仲間の近況を彼女に教えてあげた。
それから、
あれこれと話しが続き、
時計を見ると、すでに3時間以上経っていた。
「あっ、もうこんな時間だ。
5時半に、
人と会う約束をしてるんだ。
だから、これで……。
あっ、そうだ、一つ頼みたいことがある。
実は、おれ今小説を書こうと思ってるんだけど
完成したら是非読んでもらいたい。
だから、
送り先の住所を教えてくれよ。
会社のほうでもいいからさ」
「いいよ。
でも、どんな小説書いてるの?
そう言えば、小説家になりたいって言ってたもんね。
好きだった推理小説でも書いてるの?」
「まあ、そんなところさ。
今月中にはきっと完成させるから。
できたらすぐ送るよ。
読み終えたら、
感想でも聞かせてくれよ。
じゃあ……」