「愛しい由美」
しかし、
吉野は、
そういう由美をとても愛しく感じた。
あの事故に遭うまでは、
由美をただの要領のいい事務的な女
としか見ていなかった。
しかし、
由美の病院での看病振りや
今日の話しぶりから
吉野は今までの彼女に対する自分の認識が誤っていることに
気がついた。
吉野には由美が奥の深い女のように思われた。
あの“サクラナ”と同じように。
『もしかすると、
由美は自分がまだサクラナに惚れていたことも
彼女に会いに行ったことも勘ずいていたのかもしれない。
だから、
何故あの日自分があんな場所で事故に遭ったのかを聞かないんだ。
……でも、何故、おれを追及しないんだ……?
もしかすると、
今日、突然、こんな話をしたことと何か関係があるのかもしれない……?
それに
……由美ほどの美人がどうして見合いなんかする気になったのだろう……?』
吉野はそう考えると、
由美をもっともっと知りたくなった。
このとき、
吉野の心の中には、
もうサクラナはいなかった。
もちろん、
あの白髪の女が
果たして本当にサクラナであったかどうかを
確かめる気もなかった。
(完?)