「由美の話2」
「それじゃ、
逆にいやだと思うんじゃない?」
「最後まで、聞いてよ。
続きがあるのよ。
私たち、その後、食事に行ったのよ。
洒落たフランス料理店でけっこう雰囲気も良かったの。
でも、あなた、
その店で私と話をしながら、
手とか足をぼりぼり掻いていたのよ。
いやだったわ。
そうでしょ。
私、
『この人風呂も入っていないのかな。汚いな。』
と思って、
この時、
もうあなたとこれ以上付き合うのやめようかなと思ったわ。
でも、違ったのね。
私、あの時、ふとあなたが掻いていた右手の甲を見たの。
そしたら、
虫に刺されたように赤く腫れているの。
左手の甲もそうなの。
首筋をみたら同じように赤く腫れていたの。
その時、
待ち合わせた場所がやぶ蚊の多い所だったのを思い出したのよ。
それで、
私、すべてわかったわ。
あなたはあのとき、時間通りに、ううん、
正確には約束の時間の10分前に来ていたのよ。
あなたにしてみれば、当然のことだもの。
今なら良くわかるわ。
あなた時間は正確だし、
いつも待ち合わせの10分前には行くようにしているから。
もちろん、
その時は、そこまで、わからなかったわ。
でも、あの時、
『この人、もしかすると、いい人かも。
もう少し付き合ってみようかな』
って思ったの。
本当言って、
私、最初に会ったとき、
あまりいい感じは持っていなかった。
ルックスは今一歩だったし、
ぶっきらぼうで、冷たい感じだったから。
でも、
あなた、大学は一流だし、
仕事は安定してるし給料もまあまあで、
第一、
転勤のない職場だったから
もう一回ぐらい会ってみようかな。
そんなぐらいの気持ちだったの」
と
由美は笑った。