「再会とマフラー」
「すいません。
姉が失礼なことしまして。
姉は病気なものですから。
ねーちゃん、
これはこの人のよ。
いくら気にいってもだめよ」
『ねーちゃん、
ねーちゃん、ねえ……』
このとき吉野の脳裏をある恐ろしい考えがよぎった。
『まさか。そんなばかな』
吉野はそう思いつつも、その考えを捨てられず、
おそるおそるマフラーを引っ張る白髪の女を見た。
顔全体を見る勇気はなかったので、
ちらっと、
その女の右の目の下だけを見た。
そこには、小さな黒子があった。
『そんな……』
吉野の胸は張り裂けんばかりであったがそれを必死で押さえ、
サクラナと思い込んでいた女の方に顔を向けた。
そうして、
素早く身に着けていたマフラーを外すと、
それを彼女に差し出し、
「これをこちらのご婦人にあげて下さい。それじゃ……」
と言いながら、
マフラーを放り投げるようにして彼女に渡すと、
すぐに、
彼女たちが来た方向へ逃げるように走り出した。
例の白髪事件を思い浮かべながら、
吉野はあの白髪の女を哀れんだ。
『おれが、もし、あのとき、誤解さえしなければ……。
おれがついていれさえすれば……』
吉野がそんな思いに囚われて走っていると、
突然、
『きいーっ』
といういやな音がし、
ほぼ同時に頭部に衝撃がはしった。