「再会と忘却」
地図で見ると、
サクラナのいる場所は
左の道を真っ直ぐいったところにある。
十字路を左に曲がると、
そこはやや急な登り坂になっていて
前方は約数十メートルくらいしか見えない。
道幅は今来た道より少し狭くなっていたが、
左右には先程見た家よりは
大きな民家が立ち並んでいて車や人通りはなかった。
『静かでいいところだな。
こういうところに、お金に困った人間は住みそうもないな』
吉野はそう呟くと、
少し早足で歩き出した。
吉野としては、
××駅で降りてからここまで歩いてくるうちに、
辺りの様子からサクラナが貧困な生活をしていて、
下手すれば落ちるところまで落ちているのではないか
という仮説が成り立たないことを確信するようになった。
そのため、
吉野にはサクラナが昔のように
魅力的な存在であることも十分予想されていた。
その結果、
最悪、
由美を捨てることにもなりかねないこともわかっていたが、
ここまでくるとそんなことは
どうでもよいことに思われた。
このときはただサクラナに会いたい
という気持ちだけが吉野を支配していたのである。
約100メートルぐらい歩くと、
前方約10メートル先から道が消えているのが分かった。
『あそこが上り坂の頂上か。』
吉野はそう呟くと、
さらに早足で一気に坂道を登った。吉 野が坂の上までくると、
今度は前方は上りよりも少しなだらかな下り坂となっていた。
『もうすぐかな?』
吉野は胸の鼓動が高鳴るのを押さえようとして
そこで立ち止まり深く息をすると、
おもむろに持っていた鞄の中か
古ぼけた赤いマフラーを取りだし、
首に巻いた。
実際、秋もまだ早く、
マフラーをするには早い時期であったが、
吉野はある意図を持って、
あえて身に付けたのである。