「サクラナ詣」
吉野は口実を作っては
A組へ彼女を見に行ったのである。
普通、ぱっと見の美しい女性ほど
よく観察するとあらが目立つものだが、
彼女は違った。
整った目鼻立ち、つやつやした肌、
スカートの下に突き出た細い脚、
微笑んだときにのぞく白い歯と
どれをとってもすきはなかった。
もし、
けちをつけるとするならば、
やや吊り上がった切れ長の目に対してであろうが、
吉野にはそのきつい視線がかえって気高く見えて
とても魅力的に感じられた。
だが、
彼女に声をかける勇気はなかった。
そのため、
半年以上過ぎても、
吉野が彼女と話をする機会はなかった。
しかし、
吉野のサクラナに対する思いが
静まることはなかった。
むしろ、サクラナが遠い存在であればあるほど
吉野のサクラナに対する思いは深まっていった。
中学1年の3学期になると、
吉野はクラス替えを楽しみにするようになった。
吉野の学年は全部で5組もあり、
吉野とサクラナが同じクラスになる確率は20%しかなかったが、
吉野はその20%の確率に望みをかけた。
3月になると吉野は近くの神社に毎日通って
サクラナと同じクラスになることを祈った。
床の間の仏壇に手を合わせたりもした。
4月になり、クラス分けの発表があった。
吉野はA組のところにサクラナの名前を見つけた。
しかし、
吉野の名前はそこにはなかった。
吉野はがっかりもしたが、それ以上に悔しかった。
神も仏もあったもんじゃない、
吉野はそう思うとそれ以来神仏を信じるのはやめた。
結局、
吉野はまたもE組であった。
新しい学年になっても、
吉野のサクラナ詣は続いた。
この時も吉野はただサクラナを見ているだけで、
声をかけることは出来なかった。