「不運な出来事」
しかし、
二人にとって最大の不運はその三日後やってきた。
吉野が**駅前の商店街を歩いていたときのことである。
吉野は前方から
サクラナとあの池田が並んで歩いてくるのを
見つけてしまったのである。
吉野は二人に気付くと
すぐそばの路地に隠れてしまった
--もし、
このとき吉野が気軽に声をかけていたら
あんな誤解はしなかったかもしれないが
このときの吉野にそれを期待するのは酷であろうか--。
二人は吉野には気付かず、
楽しそうに話をしながら、
吉野が隠れた路地の横を通り過ぎた。
吉野は動揺した。
サクラナがこともあろうに
あの池田と二人きりで歩いている。
自分が誘ったデートを断って。
しかも、
自分には親戚に会うと嘘まで言って。
このとき、
吉野は
「裏切られた」
と思ってしまった。
吉野にはサクラナを信じる余裕はなかった。
だから、
自分がとんでもない誤解をしていることに
気がつくはずもなかった。
それにしても何故?
サクラナは自分とのデートのとき、
あんなに楽しそうにしていたのに。
何故?
吉野は考えれば考えるほど
サクラナの気持ちがわからなくなった。
もちろん、本当なら、
直接サクラナに会って聞いてみればよいことである。
しかし、
小心ものの吉野にはそんな勇気はなかった。