「サクラナとデート」
○○園でのデートは大成功であった。
楽しかったためかあっという間に時間が過ぎてしまった。
次のデートの約束も
どちらから切り出すでなくすんなり決まった。
この時には吉野はサクラナも自分のことが好きに違いない
と思うようになっていた。
サクラナの方も
きっと吉野の気持ちがわかったに違いないと思っていた。
しかし、
互いに自分の気持ちを言葉に出すことはなかった。
次のデートは**湖でのハイキングであった。
**湖までは電車で2時間半程かかるので
二人は7時30分に**駅で待ち合わせことにした。
吉野の方が先に待ち合わせの場所に着いた。
約束の時間より10分程前だった。
それから、
15分ほどするとサクラナが二つの水筒を肩にかけ、
紙袋とバスケットを重そうに持って現れた。
「御免ね。
これ作ってたら遅くなっちゃった」
と言って、
サクラナは右手を挙げて真っ赤なバスケットを吉野に示した。
「いいよ。
おれも今来たばかりだから。
そこに、何が入っているの?」
「お菓子とお弁当。
朝5時に起きて作ったんだから」
「おまえが作ったの?」
と
吉野がからかうと、
サクラナは怒ったように少しほっぺたをふくらませて言った。
「あっ、信じてない。いいよ。あたし一人で食べるから」
「違うよ。サクラナらしくないからびっくりしただけだよ」
この時、
吉野は初めてサクラナの名を呼んだ。
いつもはサクラナのことをおまえとか樫とか呼んでいたが
この時はなぜか自然にサクラナと言えた。
「あたしって、こう見えても結構家庭的なんだから」
サクラナは偉そうにそう言った。
吉野は、
サクラナの言葉に答えず、
「ほら」
と言ってサクラナに切符を渡し、
それと引き替えに荷物を持つと
さっさとホームの方へ歩き出した。