「送り狼?」
確かにサクラナのいう通り時間的には
まだ7時を過ぎたばかりでそう心配する時間ではなかったが、
吉野としてはサクラナを送りたかったので、
吉野は送ることを固執した。
吉野の言い方が強かったためか
サクラナはそれ以上断らなかった。
帰り道では吉野が前を歩き
サクラナは吉野の後を少し距離を置いてついて来た。
駅の西側に続く道は車二台がやっと通れるぐらいの道幅で
その両側には小さな商店が軒を並べて連なっていた。
右脇にある焼き鳥屋からは白っぽい煙りが出ていて、
香ばしいにおいがあたりを漂よっていた。
いかにも下町の商店街という風情であった。
もっとも、
商店の半分ぐらいはもう閉まっていたが、
人通りはまだ多く、
吉野はだれか知った奴に出会うのではないか
と少し不安であった。
二人はその中で人目を気にしながら
その日見た映画の話しなどをして少し急ぎ足で歩いた。
商店街のはずれにくると、
その左側に細い道があり××銀座と呼ばれる小規模な飲み屋街
となっているのがわかった。
サクラナの話しでは
彼女の家はその飲み屋街の一画にあるという。
二人はその細い道を進んだが、
この頃から会話も少なくなり、
サクラナの家が視界に入る頃には
二人とも黙りこむようになっていた。
そうするうちに、
二人はサクラナの家の前に来た。
そこは飲み屋街の一番奥にあり、
見るからに寂しそうな所だった。
サクラナは、
右側の木造で
今にも壊れそうな2階建の小さな建物を指して、
恥ずかしそうに、
「ここの2階があたしの家」
と言った。