「思い込み」
翌日、吉野は約束の時間より
1時間も早く待ち合わせ場所に行った。
吉野は、
元来几帳面な性格で
人と待ち合わせをする場合約束の時間より
10分前に行くことにしていたが、
これ程早く待ち合わせ場所に行ったのは
過去・現在を通じてこれ一度きりであった。
それ程、
この時はサクラナに会うのが待ち遠しかったのである。
約束の時間にあと10分と迫ったとき、
ホームの方にジーンズ姿のサクラナが見えた。
吉野は手を振り上げたが、
サクラナに二人の連れがいることに気がついた。
弘子と康夫である。
この時、
吉野は自分の思い込みに気がついた。
思えば、サクラナの電話は、
デートの誘いにしてはあっけらかんとしてたな。
吉野がそんなことを考えているうちに
3人が吉野の所まで来た。
「早いな。
俺たちの方が早いと思ったのに」
康夫が吉野に声をかけた。
「ひとつ前の電車で来たんだ。
おまえたち一緒に来たのか?」
吉野は嘘をついた。
二人だけのデートと勘違いして
一時間も前に来ていたなんて
とても恥ずかしくて言えなかったからである。
「いや、
××駅でサクラナと弘子にばったり会ったのさ」
「あとは健児くんだけね。
好美は何か予定が入っていて来られないから」
という弘子の言葉で吉野はすべてがわかった。
例の班の連中で卒業を記念してスケートでもしよう
と
弘子あたりが提案したに違いないのである。
吉野は事の次第に少しがっかりしたが、
すぐに、
まあ、
でもサクラナと一緒にいられるのだからよしとしよう、
という気持ちになった。
約束の時間から10分程経つと、
健児が、
「わりい、わりい」
と言いながら駆けて来た。
「よし、みんな揃った。行こう」
康夫はそういうとスケート場の方に向かって
歩き出した。