「現実と今のサクラナ」
「吉野くん、聞いているの?」
吉野は弘子の声を聞いて我に返った。
弘子は腕の時計を見た。
「いけない、もうこんな時間」
弘子とシーバルに来てから一時間半が過ぎていた。
「出ようか。ここは俺が出す」
吉野はそういうと伝票を掴み席を立った。
吉野たちはシーバルを出ると駅に向かった。
吉野はサクラナの消息を聞きたいと思っていたが
なかなかそのきっかけが掴めない。
サクラナにこだわっているだけに聞きにくかったのである。
『ここで聞かないと
サクラナの消息を知る機会がなくなるかもしれない』
吉野は覚悟を決めると、
「ねえ、
そういえばサクラナどうしてる?」
吉野は
急に閃いたかのようなふりをして弘子に尋ねた。
弘子は吉野の顔をじっと見つめながら、
吉野の質問には答えず、
「会いたいの?」
と逆に吉野に尋ねた。
「いや、
別にただあいつ、
どうしているかと思っただけさ」
「そう。
会わないほうがいいと思うわ」
弘子はそう言ってから話を別の話題に切り替えた。
そのうち、
二人は某駅の改札の所まできた。
「おれはJ・R。伊東は?」
「私は地下鉄。それじゃ……。
あっ。ちょっと、待って」
弘子は何か思い出したように、
ハンドバックからメモ帳を取りだして
携帯電話を見ながら何か書き写した。
弘子は作業を終えると、吉野の所まで戻り、そのメモを差し出し、
「多分、
サクラナ、ここにいるはずよ。
じゃあ。また」
と言うと、
そそくさとその場を去った。
弘子がくれたメモには、
都内のある場所の住所が記されていた。
そこは吉野が行ったことのない場所だった。
ここにサクラナがいるのか。
それにしても、
何故、
弘子はサクラナに会わないほうが良いと言ったのだろう……?、
吉野は疑問に思った。