「チクリ魔処刑計画とサクラナ」
次の日の昼休みも知恵の処刑の話でもちきりだった。
吉野は昨日まではどちらかといえば怒りより
零点にされたショックの方が強く復讐にさほど積極的ではなかったが、
話し合いの中で過去の知恵の行状が思い出されてくるうち、
段々と怒りが増してきた。
特に、一番損をしたのが自分であることを考えると
むしょうに腹が立って知恵が憎たらしくなってきた。
そこへ、
弘子が、
「聞いた?チクリンったら角川先生だけじゃなく他の先生の所にも行って、
康夫君たちのことをチクリ捲っているらしいわ」
との情報をもって入ってきた。
ここで、
ついに吉野の怒りは爆発した。
吉野は、
「畜生、あのチンチクリン、ぶん殴ってやる」
と大声をあげると、
自分の席をはなれ教室のドアのほうへ走った。
「行け」
という歓声が上がった。
と同時に、
比較的温厚な吉野が逆上したのに驚いたのか、
「いやー」
という女子の悲鳴に近い声が教室に走った。
そして、
吉野がドアの近くまで走り寄ったとき、
ドアの前でサクラナが両手を広げて立っていた。
サクラナは、
「どけ」
と言う吉野の言葉に少しも動じることなく、
かえって、
「女の子を殴るなんて最低よ。
もとはと言えばあんたが悪いんでしょ」
と言って、
吉野を睨みつけた。
この時の睨みは
前に写真を貰いに行った時とは
比べものにならないほどきついものだった。
しかも、
サクラナの言うことに一部のすきもなかったので
吉野は睨み返すには返したが、
すぐに視線をそらしてしまった。
吉野の完全な負けであった。
それを悟ったのか、
吉野をけしかけるものはもはやいなかった。
吉野は、
「くそっ」
と捨て台詞を吐くと、
ばつの悪そうな顔をして自分の席に戻った。