「噂の性悪女樫サクラナ」
「よく勉強ができるから話題にしているだけよ。
いやあね。
ところで、
何かご用?」
「あのー。
初めて会ってこんなこと頼むのもなんですが…」
吉野がもじもじしていると、
樫サクラナはいらいらしたように、
「あんた男でしょ。
はっきりしなさいよ」
と
言った。
「実は、
僕の友人が樫さんの大ファンで
写真が欲しいと言っているんだけど」
樫はそれを聞くと疑うようなまなざしで、
「あんたが欲しいんじゃないの?」
と
ストレートに問い詰めた。
吉野は樫のそんな態度にむっとして、
「なんでおれがおまえの写真なんか
欲しがらなきゃいけないんだ。
冗談じゃない」
と
突然言葉を荒げて、
樫を睨みつけた。
樫も負けてはいなかった。
「あんたも素直じゃないわね。
素直に言えば幾らでもあげるのに」
と言って、
切れ長の目をつりあげて睨み返した。
「サクラナ失礼よ。
吉野君が嘘をいうわけないでしょ」
と
弘子が樫をたしなめたが、
樫は二人を睨みつけると黙って
その場を離れてしまった。
「御免なさい。
サクラナはいつもああなの。
そんなに悪い子じゃないんだけど。
自信過剰気味で気が強くて
すぐ思ったことを言ってしまうの」
「いや、僕のほうも怒ってしまって。
それにこんなこと頼まれて
軽率に引き受けたのがいけなかった。
御免ね。
彼女にもあやまっておいて」
そう言うと、
吉野は肩を落として引き上げていった。