表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ収集員の俺、壊れた廃材だけで異世界拠点を作ることにした  作者: 泣く子はビネガー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第八話「風呂を完成させる。仕切りと排水とシャワーと、できれば石鹸も」

 松脂が乾いた翌朝、錬は桶を確認した。


 内側を指で触れる。べたつきが消えている。二度塗りの効果が出ていた。水を少し入れて、底と側面に漏れがないか確認する。


 問題なし。


 桶は使える。


 ただ、まだ足りないものがある。


 錬は古新聞を広げて、消し炭で書き始めた。


 仕切り。シャワー。排水。石鹸。


 四項目。


 優先度の高い順に並べると、仕切りが最初だ。風呂に仕切りがなければ、ティルネが使えない。


【「また設計図か。」】


「ああ」


【「今日は何を作る。」】


「全部だ」


【「全部って。」】


「仕切りとシャワーと排水と石鹸だ」


 少し間があった。


【「一日でか。」】


「できるところまでやる」



 ティルネが起きてきたのは、錬が設計図を書き終えた頃だった。


 小屋から出てきて、欠伸を一つして、錬の手元を覗き込んだ。


「……おはようございます。また設計図ですか」


「ああ」


「今日は何を」


「風呂の続きだ。仕切りを作る」


「仕切り……あ」


 ティルネが、少し顔を赤くした。


「そうですね。仕切りがないと、その……」


「使えない」


「……はい」


「わかっていた。材料を確認してから作る順番にした」


 ティルネが、錬を見た。


「……最初から考えていたんですか」


「当然だ」


【「当然だってよ。」】


「うるさい」


「え——」


「K2だ」



「K2、仕切りの材料を出してくれ。ベニヤ板か合板、あとロープがあれば」


【「ちょっと待て。」】


 圧縮板が動いた。


 出てきたのは、ベニヤ板が二枚。一枚は端が欠けているが、使える面積は十分だ。それから廃パイプが数本、古いカーテン生地が丸まって、最後に番線の束。


【「カーテン生地は頼んでなかったが、俺が判断して出した。どうだ。」】


「助かる」


 ベニヤ板を骨格にして、カーテン生地を張る。四方を囲った小さな個室を、桶の周りに作る。入り口は垂らしたカーテンで塞ぐ。引けば開く。シンプルだ。


 ティルネが材料を眺めながら言った。


「……手伝えることはありますか」


「板を押さえてくれ」


 二人で作業した。


 板を立てて、番線で固定する。ティルネが押さえて、錬が締める。角の補強材を入れる。カーテン生地を張る。


 一時間ほどで、個室ができた。


 ティルネが中に入ってみた。桶が中に収まって、外からは見えない。入り口のカーテンを閉めると、完全に視界が遮れる。


「……ちゃんと囲まれてますね」


「当然だ」


「廃材なのに」


「計算通りだ」


 ティルネが出てきて、また少し顔を赤くした。


「……あの、フワレン」


「なに」


「昨日のことは、もう、気にしていませんので」


 錬は工具を片付けながら、少し間を置いた。


「そうか」


「はい」


「……そうか」


【「二回言ったぞ。」】


「黙れ」


「え——」


「K2だ」


 ティルネが、くすりと笑った。



 次はシャワーだ。


 シャワーと言っても、仕組みは単純だ。高い位置に水を溜めた容器を置いて、下にホースを繋ぐ。重力で水が流れる。先端に穴をたくさん開ければ、水が霧状に出る。


 問題は、高い位置に容器を固定する台だ。


「K2、大きめの容器が来るか。バケツ以上の大きさで」


【「ちょっと待て。」】


 出てきたのは、蓋付きのポリタンクだった。二十リットルは入る。蓋に穴を開けてホースを繋げばいい。


 錬は仕切りの外壁に棚受けを付けた。そこにポリタンクを乗せる。高さは錬の頭より少し上。そこから下に向かってホースを伸ばす。


 ホースの先端に細い穴をいくつも開けた。千枚通しがないので、加熱した鉄の棒で開ける。


 ティルネが、その作業を横で見ていた。


「……何をしているんですか」


「穴を開けている」


「なぜ溶かすんですか」


「千枚通しがない。熱で溶かした方が綺麗に開く」


「そういうものですか」


「そういうものだ」


 穴が八つ開いた。均等な間隔で。


 ポリタンクに川の水を入れて、蓋を閉める。ホースを繋ぐ。先端を下に向ける。


 水が出た。


 八つの穴から、細い水流が同時に流れ落ちる。


 ティルネが、目を丸くした。


「……水が、穴から出てきた」


「シャワーだ。上から水を浴びる仕組みだ」


「こんなものが作れるんですね」


「穴を開けただけだ」


「でも……」


「水は高いところから低いところに流れる。穴があれば出る。当然だ」


 ティルネが、シャワーから落ちる水を手で受けた。


 細い水流が、掌を叩く。


「……気持ちよさそうですね」


「そのために作った」


【「フワレン、今日は素直だな。」】


「うるさい」



 排水の問題は、少し手間がかかった。


 風呂で使った水をどこに流すか。そのまま地面に流すと、拠点の足元がぬかるむ。水はけの悪い場所なら、水が溜まって衛生問題になる。


 排水は、浸透枡にする。


「穴を掘る。深さ五十センチ、幅も五十センチ。ここに砂利と砂を層にして詰める。水がゆっくり地面に吸収される仕組みだ」


「また穴を掘るんですか」


「トイレとは別の場所だ。距離を取る」


「なぜ距離を取るんですか」


「トイレの近くに水が流れると、地下で汚染が混じる可能性がある」


「そこまで考えるんですね」


「当然のことだ」


 ティルネと二人で穴を掘った。シャベルを交代で使う。三十分ほどで必要な深さが出た。


 底に大きめの砂利を入れて、次に細かい砂利、最後に砂。その上に板を渡して、人が踏んでも崩れないようにする。板には隙間を開けて、水が通る。


 桶からここまで、ホースで繋いだ。


 試しに水を流す。


 ホースを伝って排水枡に流れ込み、砂利の層にゆっくり吸収されていく。地面に水が広がらない。


「……消えましたね」


「地面に吸収された」


「魔法みたいですね」


「仕組みだ。魔法じゃない」


【「おまえはいつもそう言うな。」】


「事実だからだ」


【「まあそうだが。」】



 石鹸は、午後から取り掛かった。


 材料は二つ。廃油と、草木灰だ。


 廃油は先日処理したものの残りがある。草木灰は焚き火の灰から取れる。毎日焚き火をしているので、灰は十分に溜まっていた。


「石鹸を作る」と錬は言った。


「せっけん……?」


「体や手を洗うものだ。泡が立つ」


「泡が立つもので洗うんですか」


「汚れが落ちやすくなる」


「ゴミから作れるんですか」


「灰と油からできる。昔からある作り方だ」


 ティルネが、焚き火の灰を見た。


「……この灰から?」


「ああ」


「信じられない」


「やってみればわかる」


 まず灰を水に溶かして、アルカリ液を作る。灰の中の炭酸カリウムが水に溶けてアルカリ性になる。これを布でろ過して、固形物を取り除く。


 ティルネが、ろ過した液を覗き込んだ。


「……透明になりましたね」


「アルカリ液だ。強いアルカリだから素手で触るな」


「触ると?」


「肌が溶ける」


 ティルネが、さっと手を引いた。


「……怖いですね」


「だから石鹸を作る。アルカリと油を混ぜると、アルカリが中和されて安全になる」


「混ぜると安全になるんですか」


「化学反応だ。鹸化と言う」


「けんか……」


「気にしなくていい。混ぜると石鹸になる、という事実だけ覚えればいい」


 廃油を温めて、アルカリ液を少しずつ加えながら混ぜ続ける。湯煎で温度を管理する。木の棒でゆっくりと。


 十分ほど混ぜていると、液体がとろみを帯びてきた。


「……変わってきましたね」


「鹸化が進んでいる。もう少しだ」


 さらに混ぜる。


 液体が、ペースト状になってきた。


 型に流し込む。型は段ボールを折って作った。固まるまで一日置く。


「……これで石鹸になるんですか」


「明日には固まる。使えるまでにはもう少しかかるが、弱い石鹸としてなら明日から使える」


「一日で」


「材料が揃えば、作るのは難しくない」


 ティルネが、型に入ったペーストを見つめた。


「……灰と油から石鹸ができる。川の水が飲めるようになる。排水が地面に消える。風呂ができる」


 錬は道具を片付けながら、黙っていた。


「フワレンは、どこで全部覚えたんですか」


「本だ」


「本……?」


「暇なときに読んでいた。サバイバルの本、化学の本、建築の本。ジャンルは選ばなかった」


「なぜそんなに」


 少し間があった。


「……仕事を失いそうだった時期があった。その間に読んだ」


 ティルネは、それ以上聞かなかった。


 錬も、それ以上言わなかった。


【「フワレン。」】


「なに」


【「今日、全部できたな。」】


「仕切りとシャワーと排水と石鹸だ。計画通りだ」


【「計画通りね。」】


「なに」


【「いや、別に。」】


 K2が、何か言いかけてやめた。


 珍しい、と錬は思った。K2が言いかけてやめることは、あまりない。


「言いたいことがあるなら言え」


【「……おまえ、今日ずっとティルネのために動いてたよな。仕切りも、シャワーも、石鹸も。全部。」】


「衛生上の問題だ」


【「そうだな。」】


「そうだ」


【「……まあ、そうだな。」】


 K2は、それ以上何も言わなかった。


 錬も、答えなかった。


 焚き火が揺れている。


 明日、石鹸が固まる。それを確認してから、食料の問題に入る。やることは、まだある。



 夜、風呂が完成したことをティルネに伝えた。


「明日の夕方から使える。湯を沸かすのに少し時間がかかる」


「楽しみですね」


「先に俺が確認する。問題なければお前が使え」


「確認、というのは」


「石鹸も桶も、作ったばかりだ。俺が先に使って問題がなければ渡す」


 ティルネが、少し間を置いた。


「……そういうものですか」


「作ったものは必ず確認する」


「わかりました」


【「……優しいな。」】


「品質管理だ」


【「そうだな。」】


 K2が、珍しく素直に引いた。


 ティルネが、小さく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ