番外編「狂犬の飼いならし方」
大学三年生の冬。俺は就職活動の合間を縫って、実家に帰省していた。
もちろん、帰る先は蓮の実家だ。今ではすっかり家族同然に扱ってもらっている。
蓮は調理師学校を卒業し、今は市内のレストランで修行中だ。毎日怒られながらも、充実した日々を送っているらしい。
久しぶりに会った蓮は、少し精悍になっていた。厨房での立ち仕事で鍛えられたのか、腕の筋肉が一回り太くなっている。
「おかえり、凪。腹減ったろ?」
深夜、仕事から帰ってきた蓮が、手早く夜食を作ってくれた。
あの日と同じ、クリームシチュー。でも、味は格段に進化していた。
「うわ、美味しい! すごいね蓮くん、プロの味だ」
「へへん、当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」
得意げに鼻を鳴らす蓮は、昔と変わらない子供っぽさを残していて安心する。
食べ終わった後、俺たちはこたつに入ってまったりしていた。
蓮が後ろから俺を抱きしめ、首筋に鼻を埋める。
「……凪、いい匂い」
「ちょ、くすぐったいよ」
「抑制剤、飲んでないのか?」
「うん。蓮くんがいるから、必要ないかなって」
そう。蓮と「番」の契りを結んでから、俺のホルモンバランスは劇的に安定した。もう、あの苦しい薬に頼る必要はない。
蓮は満足げに喉を鳴らし、俺の首筋に甘噛みした。
「お前は俺のもんだ」
「はいはい、わかってますよ」
昔は「狂犬」と恐れられていた男が、今では俺の前でだけ、こんなに甘えん坊の大型犬になってしまう。
俺は蓮の頭を撫でた。硬い髪の感触が心地よい。
「飼いならされちゃったね、蓮くん」
「……うるせえ。飼い主がお前なら、悪くねえよ」
蓮が顔を上げて、俺にキスをする。
シチューの味と、大人の色気が混じったキス。
こたつの中、絡み合う足。
外は雪が降っているけれど、この部屋は常夏のように熱い。
最強のヤンキーを飼いならす方法は簡単だ。
ただ、心からの愛と、温かいシチューがあればいい。
俺たちは互いの体温を確かめ合いながら、幸せな夜に溺れていった。




