斜陽の消えた凪の日
あれは、そろそろ夏が季節から降りようとする頃の夜だった。その日の僕は、珍しく頭が冴えていてよく眠れなかった。まるで脳が、まだ働ける と無理をして起きているような感覚だった。それに耐えかねなくなった僕は、ボロアパートの金属扉を緩い力で押し、外に出た。二階から見える星空は、一等星がかろうじて見えるような、満点の星空と言うには、一味も二味も物足りなかった。少しふらつきながら、寝静まった町を歩いてみた。僕の暮らしている町は、都会でもなく、田舎でもない、いわゆるベッドタウンのような、雰囲気であった。僕はそんな少し時代に置いてかれたようなこの町が割と気に入っている。色褪せながらも規則正しく動く床屋のポール、よく猫が塀に登っているお屋敷、未だにブラウン管のテレビの修理ができる電気屋。そんなものが今は止まっている。いつ建てられたのかわからないような街灯と、常に光り続ける自販機が、今歩いている僕の頼りだった。しばらくぼんやり歩いていると、ふと目の前に踏切が視界に入ってきた。「あぁ、今から来る電車にこれまでの不満や、憎しみ、辛いことを電車が引いてくれたらええな」と自分でも訳がわからないことを思いながら電車が来るのを待った。それから9秒程だろうか、見慣れたJRのデザインの列車が僕の前を全速力で横切った。来ていたダボダボの服は、あまりにも速かった風の影響か右左に揺れていた。「あぁ、悩み事、さっきの電車にぶつけとけばよかったな」そう思いながら僕は帰ることにした。なんだかスッキリとした気分になったからだ。空の星は、2等星もくっきり見えていた。




