7.悪魔
商人の国へ向かった一派と大陸に残った一派に分かれた。
大陸に残った一派はある時期様々な国と勢力から迫害と圧力を受けて、どうしようもないぐらい追い詰められた。
とうとう追い詰められた一派の一部が秘密裏に禁じられた儀式を行った。
藁にも縋る愚かな行為であり正気の沙汰ではない儀式であった。
狂騒染みた行いの後。
当然のように何も現れなかった。
儀式に参加した者たちが深い落胆に陥る中、黒いスーツ姿の男が立っていた。
その男は平等の神の使いと名乗る。
顔は黒いマスクで覆われていた。
男の態度は貴族社会の社交界にいても誰も違和感を覚えないぐらいに洗練された仕草で挨拶をする。だが隠しきれてない、いや隠す気もない超常の雰囲気を纏っていた。
その場にいた誰もが男の言う神の使いなど信じてはいなかった。
だが誰も、それを指摘出来なかった。
自ら儀式を行い求めていながら恐ろしく感じていた。
誰もが凍り付いたかのようであった。
男は伝える。
「約束の民よ。今は忘れたかもしれないが汝らは運命の一族。私は平等の神の使いとして理不尽に追い詰められる民に世界に平等を求めよう」
儀式を決めた集団のリーダーが尋ねた。「助けてくれるのですか?」
男は応じた「汝らが世界に平等を求めるならば。願いの元に理不尽な世界の責め苦から天秤を傾けよう」
儀式に参加した全員からどよめきと歓喜の声が薄暗い屋敷から漏れていく。
しかし歓喜の声も次に発せられてた男の言葉で霧散した。
「願いには代償を求める。それは同胞の血です。同胞の血というが、今回捧げられた者と変わらない。ただ始まりが同じ系譜。離れた遠き血、血縁関係など今では殆どない。君らにとっては赤の他人のような血ですがね」
重い空気が儀式の間となった屋敷の大ホールに重く圧し掛かる。
静寂という重い沈黙。自らの鼓動すらも聞こえているのではないかと恐怖する重苦しい静けさ。
儀式に参加した者は全員わかっていた。今回の儀式に多数の生贄を捧げた。山羊の命だけではない、人の命すらも捧げた。だが一族の最大のタブーは同胞を裏切ること。
長い沈黙に耐え切れずリーダーが再度恐る恐る尋ねた。
「同胞の命でないといけないのですか?」
「私は平等ですからね。あなたたち民の苦難を不憫に思い主の許しをえて救いの手を差し伸べる機会を与えます。ただし一部の民に手助けしては平等ではないでしょう。あなた方の苦しみは救いましょう。そして傾いた分をおなじ同胞が担うのです」
儀式の間にいた老若男女問わず皆の緊張して唾を飲み込む音が聞こえた。緊張して張り詰めた顔をしていたが瞳の視線は黒い男に集中して瞬きすら忘れて全ての挙動から目をそらせないでいた。完全に場は男に支配されていた。もうリーダーの発する次の言葉は何であれ方向は決まっていた。
「...どれぐらいの血がいるのですか?」
絞られたか細い声も広い儀式間にいる全員にハッキリ聞こえていた。
「ご安心ください。我が主は血生臭いのは嫌いです。今宵のような儀式はいりません。ただし歴史があなた達の血を求めます」
男は慇懃にふるまいながら答えた。
「歴史とは...どのようなものでしょうか?」
リーダーは全員の圧力に負けて聞きたくない内容を確認する。もう分かっていた。誰も、この平等の神の使いなどという怪しい男の提案に反対する声をだすものは、この場にはいないのだと。
「誰かが言ったそうですよ。一人殺めるのは殺人。十人殺めれば大罪人。戦争で沢山殺めたら英雄だと。つまり英雄のお手伝いをしてもらいます。その中心にあなた方同胞が関わることになるだけです。つまり、この場にいるあなた方は英雄のお手伝いを間接的にすることになるだけです。簡単でしょう」
男はその場に似つかわしくない努めて明るい声で微笑みながら答えた。
誰も釣られて笑顔を返さず、引きつった顔をしていた。
「どおして我らに力を貸してくれるのですか?」
「不憫に思ったからでは納得しないのですか。・・・強いて言うならあなた達の血のせいです」
私達の血?
「あなた方の血は特別なのです。約束の民。定められた者。先ほど英雄の話をしましたが、正しくは英雄をあなたがたと同じ先祖の血脈から定期的に生まれるのです」
「英雄などと呼ばれる存在に我々が関わっていると言われるのですか?」
「英雄といいましたが時代によって評価は変わります。救世主となるか時代の反逆者となるかは後の時代が決めるものです。ただあなた方の血縁から生まれてるのです。
その運命を背負う者が決まっているのは新しき秩序を世界に建てるか古き秩序に逆らい反逆の徒でるかは決まってないのです。そんな宿命をうけし契約の民の血だからこそ私は苦しむあなた方に手を差し伸べるのです」
男は優しく、そして憐みの気持ちをもって語り掛けてくる。
追い詰められ余裕がない者たちは英雄とか子孫とか男の言葉の意味がわからないが自分たちが縋り。この男は助けてくれるのではと期待下した。
「我々はどおしたらいいでしょうか?」
リーダーは男に縋った。
「とりあえずは私の言うとおりにしてください。あなた方を迫害する古き王たちの国を潰してあげましょう。あなた方には今まで迫害された分だけ繁栄を約束しましょう。」
男の言葉には、そこにいる者たちに根拠のない安心感を与えた。心地よくなるのである。
「わかりました。貴方の言葉に従います」
リーダーが頭を垂れると。他の者たちもそれにならった。
「いいですね。あなた達のことは我が主も気に入るでしょう。さしあたり、この白い大地を赤く染めていきましょう。そして我が平等を愛する主の理想を掲げた国を作るのです」
男は高らかに宣言する。
男がそこにいた全員を見渡すとリーダー含め皆、平伏していた。
不思議な光景であった。突然現れた男に救いを求めて誰一人わずかな時間で逆らう者がいなくなった。
男は満足したのか、その光景に頷いた。
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男は去り際にいくつか伝えていった。
古き王を追い出した国には新たな旗を立てよ。
我が主の印として夜に無数に輝く星を掲げるのです。
新たに長が変わるなら私が訪れて教えてあげるので安心してください。
あなた方は世界に散らばる同胞に近づき協力してあげるのです。
何も心配はいりません。代償は時代が自然と払うのですから
一つの民が分かれて世界の果てにて二つの国興しに関わり。
そして悪魔もまた微笑む
印として星を掲げてほしい
次の世代にまた現れよう




