45話 マリー姉さんはチョイオコ
「「………。」」
(殿下の側近になるなんて、聞いてない!それに、セドがいる時に会いたく無かったな……。)
「はぁー……。」
エリアナはセドリックにどう説明するか、考える。
考えるが、自分の口から話せない内容なのだ。
エリアナは決意して、魔王と話し合う覚悟をする。
振り向いたエリアナは、間髪入れずに捲し立てるように話しをした。
「あのね。あの人の事は知っているの。殿下の側近だとは知らなかったけれど。そして、あの人の事は私の口から話せない。ギルドに行ってエルランドさんから説明を聞いてほしいのっ!!」
一気に話したため、エリアナはハァハァと息を荒くしていた。
「では直ぐにギルドに行きましょう。」
セドリックは息の整っていないエリアナの手を引き、急ぎ邸の馬車置き場まで向かう。
押し込まれるように座らされ、馬車の中の空気はとても重い……。
(セドリックはとても怒っている……?
苛立っている。が、正しい感じね……。)
嫉妬深いセドリックなので、仕方ない。と、エリアナは諦めてギルドに着くまで静かに座る事にした。
一方のセドリックだが……。
確かに自分の知らない男性と面識があった事に嫉妬はしていた。
いつ。
どこで。
何故知り合いなのか。
セドリックは家の力を使い、エリアナの周囲を徹底的に調べていたのだ。
にも関わらず、自分の知らないうちに男性と知り合っていた。
しかも、とても美丈夫でしっとりとした雰囲気の男性であった。
夜の月を思わせる容姿。
エリアナは夜に咲く花のような雰囲気。
二人が並んだ姿を一瞬想像してしまい、勝手に嫉妬していたのだった。
重たい空気の中、ギルドに到着するとセドリックはエリアナの手を引きギルドの中へと入って行った。
数ヶ月の間姿を見せなかった二人が突然現れたため、冒険者達がざわざわし始める。
仲良く入って来た雰囲気ではない。
冒険者達は遠巻きに二人を眺めた。
セドリックは急ぎ足でマリーがいる受付の前に来た。
「お久しぶりです。マリーさん。ギルドマスターに用があるのです。面会の申請をお願いします。」
セドリックが目の前に現れたかと思ったら、直ぐ様用件をきり出す。
セドリックから放たれる圧に、マリーは一瞬だけたじろいだ。
「お久しぶりです。セドリック様。ギルマスは今は面会中ですので、待って頂けるなら可能だと思います。
確認してきますので、お待ち下さい。」
マリーは受付から出る際、チラリとエリアナの様子を確認する。
(何か揉め事かしら……?珍しいわね。)
エリアナの様子を見るに、気落ちしている感じは見受けられない。
少しだけ疲れてるだけに見えた。
マリーは二人を置いて、二階へと向かった。
セドリックはエリアナを連れ、受付の側のソファーに座った。
直ぐにマリーが戻って来て、セドリックに「もう少し待ってくれたら面会は可能だ」と伝えている。
セドリックは待つ事を伝え、ソファーに深くもたれ足を組むと目を閉じた。
セドリックは必死に自分の感情を抑えようとしていた。
自分の嫉妬や苛立ちを、エリアナに八つ当たりした自覚があったからだ……。
一方エリアナは段々と気分が落ちてきた。
エリアナは周りの伺いの視線に耐えられずにいたのだ。
特に女性冒険者達はエリアナを見ながら、ひそひそ話している。
時折卑下た視線も向けられる。
何故自分がこんな目にあうのか……。
心の中で、大きなため息を吐いていた。
そんな二人を見て、マリーは事情は解らないがエリアナの何かがセドリックを苛立たせている。
そう判断した。
(理由は何であれ、エリアナちゃんを見世物状態にしているセドリック様には感心しないわね……。)
マリーはエリアナがどんどん気落ちする姿をじっと見ていた。
不躾な視線を向けられる原因は、セドリックがエリアナに冷たい態度をとっているように周囲には見えるからだ。
とうとう貧乏子爵令嬢は捨てられるのか?
やはり、セドリック様には不釣り合いなのよ。
クスクスと笑いながら、エリアナを貶める会話を続けている。
そんな下衆な会話がマリーの耳に入る。
(やっちゃっても良いわよね?エリアナちゃんが侮辱されているのに庇いもしないアイツを、やっちゃっても良いわよね!)
マリーはスッと立ち上がり、受付から出て来た。
セドリックは気配を感じ、目を開けた。
セドリックが口を開く前に、マリーから怒涛のお説教が始まった。
「二人に何があったのかは知りませんよ?知らないからこそ、エリアナちゃんの様子が気になります。
セドリック様はエリアナちゃんをこの空気の中で放置しても良いと判断したのですか?
大切にすると言った言葉は嘘だったようですね。
愛する人が侮辱され、嫌な視線に晒されているのに平然と放置。心底見損ないました。
そんな男に、私の可愛いエリアナは任せられないっ!」
マリーはセドリックの隣に座るエリアナの手を引き立たせ、自身の胸の中に抱き寄せた。
「私の可愛いエリアナを少しでも辛い気持ちにさせたり、悲しませる男に任せるつもりは毛頭ないっ!
自分の苛立ちをエリアナに当たるなっ!
エリアナは貴方の気分で好きに扱っていい子じゃないんだよっ!!」
マリーの周囲にパチパチと小さな雷が走る。
冒険者達は「ヤバい!」と、マリーから距離をとり全員が壁にへばりついた。
セドリックはマリーに言われた言葉に我に返った。
「ちがっ!……。」
否定しようとしたセドリックだが……。
「違わないですね……。」
そうポツリと呟いた。
セドリックは自分の非を認め、ガックリ項垂れてしまった。
「マリーお姉さま。違うことも無いんだけど……。あのね……。」
エリアナは先の言葉が誰にも聞こえないように、防音の結界を張りマリーの耳元でひそひそと説明をした。
「あいつに会ったのね……。」
マリーは何故セドリックが苛立ったのか、理由が直ぐに解った。
二人の不仲を周りに否定する為に、マリーは半分嘘の会話をし始めた。
「エリアナちゃんは長く冒険者をしていたのですよ?同年代の冒険者から声をかけられたからと言って嫉妬するなんて、どれだけエリアナちゃんが好きなのですか?」
マリーはセドリックにエリアナを返した。
「エリアナちゃんはとても可愛く優しい令嬢です。男性からも人気があります。嫉妬ばかりしていては、身が持ちませんよ?」
マリーはクスクス笑いながら、受付へと帰って行った。
女性冒険者達の会話がセドリックの耳に入ってきた。
「セドリック様は飽きたんじゃないのね。」
「なぁーんだ。別れるのかと思ったのに。つまんないわねー。」
そんな会話をしている。
と言う事は、先程も同じ会話をしていたのだろう。
セドリックがエリアナに視線をやると、エリアナは苦笑いを向けた。
(自分の気持ちばかりを優先していたのだな。マリーさんに怒られるのは当たり前だな。)
セドリックは優しくエリアナを抱き寄せ。
「リア、ごめんね。」
一言謝罪を口にした。
「抱き合うのは他所でやれ。用事なんだろう?部屋に来い。」
目の前には、腕を組み仁王立ちのエルランドさんが呆れた目を向け立っていた。
「すいません。お忙しいのに。」
セドリックがそう言うと、
「そう思うなら、良い加減離れろ。」
何時までも抱き合う二人に突っ込みをいれた。
エリアナがグッとセドリックの胸を押しやり、無理矢理立ちあがった。
エルランドに近付くと、結界を張り今日の出来事の説明をする。
話を聞きながら、エルランドの視線がセドリックは向き再度呆れた目を向けていた。
「お前なぁー……。嫉妬深いにも程があるだろう。」
エルランドが大きなため息を吐くと、心底呆れた声を出した。
「とりあえず二階に行くぞ。マリーも来い。」
エルランドは受付のマリーに声をかけ、四人でギルドマスターの部屋に入った。
マリーが直ぐに紅茶を淹れる。
その間、セドリックもエリアナも黙ったまま静かに座っていた。
紅茶を出され、エルランドが先に口をつけるとエリアナも紅茶に手を伸ばす。
一口含んだ紅茶の香りに、ホッと息を吐く。
「それで?あいつに会ったんだろう?
何が聞きたいんだ?」
エルランドがカップを置くと、二人に話しかけた。
セドリックはエリアナの周囲の男性関係を調べあげた話を口にしたくないのか、中々話そうとはしなかった。
エリアナは調べられた話は何となく知っていたけれど、婚約前に貴族が行う身辺調査くらいに考えていた。
高位貴族ならば特に念入りに調査される。相手に黒い部分があると、婚約後や結婚後に家門に傷が付くからだ。
でも、セドリックはそれとは違う。
毎日毎日エリアナの行動をギルド内部にいる密偵に報告させていたのだ。
男性の影が無いのかを……。
黙り込むセドリックとエリアナ。
二人を見て、口を開いたのはマリーだった。
「セドリック様はエリアナちゃんの男性関係の有無を密偵を使い報告させてましたよね?エリアナちゃんに男性の接触が全く無い事を知っていた。なのに、あいつと知り合っていた。
自分が知らないうちに、容姿の良いあいつと出会っていた。
その事が気に入らない。違いますか?」
マリーの話す内容に、エリアナは少しだけ驚いた。
自分の行動を監視されていたのだ。
エリアナがチラリとセドリックに視線を向けると、罰が悪いのかセドリックは珍しく視線をスーッと外した。
エリアナはセドリックの珍しい動きにクスクス笑い声を出す。
怒るでも無く、笑いだすエリアナにマリーが問いかけた。
「エリアナちゃんは怒らないの?ずっと監視されてたのよ?気持ちわっ……コホン。」
マリーはその先の言葉は不敬にあたると飲み込んだ。
「んー…?身辺調査されていた話は聞いていたし、セドをずっと見てきたからかな?それくらい普通にしてそうだから、気持ちっコホン……。大丈夫です。」
エリアナの言葉はセドリックにとって救いだった。
でも「気持ち悪い」そう口にしそうな二人に自分の行動は気持ち悪いのかと、少しだけ後悔していた。
「あいつの話をするなら、誓約魔術を使用する事になる。セドリック殿はそれでも知りたいか?」
セドリックはエリアナが自分から話せないと言った理由が解った。
エリアナも誓約魔術を結んでいたのだと……。
あの男への嫉妬心ばかりで、誓約魔術を結ぶ事の内容をエリアナが抱えていたのだと気が付き、自分の幼稚な考えや行動を後悔する。
「エルランドさん。私の事は敬称無しで呼んで下さい。誓約魔術を受けます。エリアナの事は全て知りたいのです。自分が知らない事は嫌なのです。」
セドリックの気持ちを理解したのか、エルランドが立ち上がり執務机に向かった。
椅子に座り何やら書き留めている。
戻って来たエルランドは、一枚の紙をセドリックの前に出した。
「これを読み了承するなら名を書いてくれ。あいつの事とエリアナについて知りたい時に知りたい事を話してやる。」
セドリックはエリアナの事を知りたかった。前世への不安も未だに抱えたままだ。
不安で嫉妬し、今日のような失態を犯したくなかった。
しかし、エリアナは自分に知られて大丈夫なのか……。
不意にエリアナは嫌なのではないのか。
そう頭を過る。
エリアナに視線を向けると、エリアナはコクリと頷いてくれた。
セドリックは書面に名を書いた。
すると書面から魔術紋が浮かび上がり、セドリックを包み込むように広がるとセドリックの体の中に消えて行った。
「よし誓約魔術はこれより行使される。セドリックが聞きたい事を話そうか。」
エルランドさんがソファーにもたれ、エリアナと彼について説明を始めた。
「あいつは捨て子だ。ギルドの裏に手紙を抱え捨てられていた。
知っているか?他国では黒髪は魔物や魔王の血を引くとか、不吉な扱いをする国が多い事を。」
エルランドがセドリックに問いかけた。
セドリックも他国の知識を学ぶ中で知っていたので、頷いた。
「黒髪は膨大な魔力を抱える証しだ。だが、それすら不吉だと。国を滅ぼす人物だと排除される……。まぁー、魔術や魔法のお偉いさんが自分の立場を奪われないように言い出した事だがな。」
エルランドは紅茶を口にすると、話を再開した。
「この国は神を絶対的に崇める国だ。神が創りし世界にそんな国を滅ぼすような人間を創るわけないと考えている。だから、この国で黒髪をどうこう言う者は余りいない。
あいつが持っていた手紙には、子供を助けて欲しい。自国では命を狙われると考え、この国まで来たと。
そう書かれていた。」
エルランドが語る話はまだ序盤。
なのに、話の内容が重すぎる。
セドリックは少しだけ後悔する。
彼は赤の他人に自分の過去を知られたくないだろうと……。
しかし、エリアナと関わる人物を知りたい気持ちに天秤が傾き、話の続きを聞くと腹を括った。
エリアナの知らない過去を知る事になるセドリックが嫉妬に狂うだろうなぁー……。
エリアナは語り合うエルランドとセドリックを遠巻きに眺め、心の中で大きな大きなため息を吐いたのだった。




