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モブな私は自由なはず‥‥うるさいですわよ!ヒロインども!!  作者: おかき


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43話 殿下にバレました

セドリックの向かいには、神妙な顔のアーノルド殿下が座っている。


朝早く、殿下が密かに子爵家にやって来たのだ。

貧乏子爵家に王族が来るなど、天と地がひっくり返る程の大事だった。

使用人達は上を下への大騒ぎ。

エリアナが使用人達を落ち着かせるも、未だに邸の中は騒がしい……。


とりあえず皆を落ち着かせ、殿下の来訪だけは外に漏れないように厳命した。



エリアナは向かいに座る殿下に声ををかけた方が良いのか、判断出来なかった。

(セドより先に声をかけるのは、ちょっとね……。でも……。)


エリアナは段々落ち着かなくなって、ソワソワし始めた。


落ち着かない様子のエリアナに、アーノルド殿下が気が付いた。


「す、すまない。少し話があって来たんだが……。」

殿下が何かを伝えようとするも、口籠る。

殿下は数回それを繰り返し、ようやく話し始めた。



「先日、イザベル嬢と会った。謹慎期間は

再教育の為に王宮から教師を向かわせていたんだ。

報告を見て驚いたよ。イザベル嬢は、貴族としての教育そのものを理解してはいなかった。

王宮の教師からの厳しい教育の中で、過ちに気が付き改心したと報告があった。

本人からも謝罪をしたいとの手紙が来て会ってみたんだが……。」


昨日の出来事を説明する殿下だが、やはり肝心な部分で口籠ってしまう……。


すると黙って様子を伺っていたセドリックが口を開いた。


「婚約を解消するのですか?」


(へ?!)


「そうだな……。そうすべき事があった。」


(イザベル様が婚約解消?)


「あの者達の更生は無理があるでしょうね。転生者であると、幼少の頃から名を出し驕って来たのですからね。

貴族としての教育が施される幼少期を贅を尽くし傅かれる日々を送れば、思考も鈍り高位貴族としての根本的な軸としての考え方を植え付けられなかったのですから。」


セドリックは淡々と話をする。


エリアナは理解出来るようで、理解出来ないでいた。


(王宮の教師陣から教育を受けたのなら、大丈夫じゃないのかしら?本人も改心したって殿下も仰っていたし…?)


小さく首を傾げるエリアナに気が付いたセドリックは、悩んでいるであろうエリアナに問いかけた。


「リア?私が貴女に婚約の打診をした時に話した事を思い出して下さい。

贅を尽くすのも貴族としての役割であるけれど、頭の悪い贅沢は嫌いだと。私は伝えましたね。

貴族が贅を尽くすのは、民へ仕事を増やし経済を回すためなのです。何を買い、何を求めれば国や民の為になるのか。それを考えなけれはなりません。自分が嫌いな物であろうと、利が何処かに発生するのらば受け入れなければなりません。」


解りますか?

そう聞かれた……。


「貴族は全てにおいて、自分の好き嫌いで物事を判断してはいけないって事よね。」

エリアナの答えにセドリックが頷いた。


「特に高位貴族は好き嫌いで物事を判断してはならない。例えば、私や殿下が公の場で甘い物は嫌いだからこの品も好きではない。

そうたった一言呟いただけで、その品は消えます。その品にどれだけの人の苦労があろうと、どれだけのお金が注ぎ込まれていようと一瞬で無かった事になるのです。

携わった全ての人は困窮します。高位貴族から反感を買ったと、見放される場合もあるのです。そうなった場合、死を選ぶ人もいるかもしれません……。」


(大袈裟な話ではないのね……。セドの瞳は真実を語っているもの。)


でも……。

エリアナの胸には、ツキンツキンと鋭い痛みとモヤモヤした気持ち悪い思いが込み上げてくる。


身分制度の無かった日本では、皆が自由に好き嫌いを口にしていた。

それを楽しむ事もあった。


この世界では、それが許されない。

立場があればある程に、貴族としての理に雁字搦め。


自由過ぎた前世。


(イザベル様はこの世界での身の振り方を間違えているのね。この世界は物語と似た世界だけれど、生きる人全てに考えがある。思いがある。

ここは現実世界なのだと、イザベル様は気が付かれていなかったのね……。)


エリアナの表情を見て、セドリックがほんの少しだけ不快な顔に変わった。

それに気が付いたのは、殿下だった。

殿下は何故セドリックが不快な表情をしたのかを考えていた。


殿下の視線の先をエリアナが追うと、何とも言えない顔のセドリックがこちらを見ていた?


エリアナは

「セド?何故そんな顔をしているの?」

不思議に思ったエリアナだった。


「昔を思い出しましたか?」


セドリックの「昔」は、幼少の頃の事では無いとエリアナは気が付いた。

セドリックの言いたい言葉、昔=前世であると。


気不味いエリアナは、視線をススーッと外した。

ため息を吐いたセドリックだが、殿下は話の流れが見えなかった。


「殿下はイザベル嬢と婚約を解消すると決められたのは、何故ですか?改心なされたなら継続でよろしいのでは?」


セドリックは話を変えようと、会話をずらした。


「教師陣の報告を聞く限り、高位貴族としての役割を理解し自身の失態が何であったのかも理解しているようだった。

彼女の努力があったのは、確かだ。」


紅茶のカップを見つめながら話す殿下が、会話を区切るとエリアナへと視線を向けた。


「イザベル嬢が学園の話を聞いてきたので、伝えたんだ。選択教科が全て一緒にならない事。学園では共に過ごせないと。

セドリックと共に学ぶ事は陛下と私の意思であると……。」


エリアナは殿下から視線を逸らさず、黙って話を聞いていた。


「イザベル嬢が小さく囁いた言葉を聞いて、駄目だったのだと実感したよ。」


殿下の口から次に出る言葉に反応したのは、エリアナだった。


「全ての原因を、エリアナ嬢だと思っている……。」


殿下は

「彼女は転生者だ。公爵令嬢であり、私の婚約者。未来の王太子妃となり、先は王妃となる……。彼女はエリアナ嬢に何かをするかもしれない。

例え転生者であろうと、エリアナ嬢への不敬は許されないのだ……。」


殿下も悩んだのだろう。

目の下の薄い隈はそのせいだろう。


「彼女が何かをする前に、婚約者としての立場を奪う。力を一つ削ぐことが出来るからな。」


「まだ何もしていないのに……ですか?」


セドリックの問いかけに、殿下は頷いた。


「彼女は私や側近に好意を寄せている。ただ、その好意が恋愛感情では無いのだが……。彼女は私や側近が離れる事を酷く嫌がる。無意識だろうが、離そうとする者をこれまで排除して来た。」


(イザベル様は確か、箱推しって以前話していた気がする。全員を好きだから、離れると困るのか……。)


「イザベル嬢が行動してからでは、遅いんだ。何か事を起こした場合は、例え転生者であろうと処罰されるだろう。」


(イザベル様は元は悪役令嬢。物語のストーリー通りになれば、断罪される……。)


「駄目よっ!」

エリアナは急に立ち上がり声をあげた。


「イザベル様が悪役令嬢になっては、駄目なのよ。そんな事望んでいないわっ。断罪なんて、駄目よ!」


(イザベル様は好きではないけれど、同じ日本人として断罪さるのを見たくない!)


酷く狼狽えるエリアナをセドリックが抱きしめる。


「大丈夫ですよ。」


そう言いながら、何度も背中を擦る。



エリアナの背を擦りながら、ソファーへと座らせた。


エリアナは気持ちを落ち着かせようとする。

するのだが、落ち着くはずが無かった。


エリアナが前世読んだ異世界の本は、断罪=死。

この国でも身分には逆らえないし、貴族が平民を無礼討ちする話を耳にした事はエリアナですらある。


公爵令嬢が罪を犯せば、連座が適用される場合もある。


多くの命を摘み取る事は、前世の自分が強く否定してくる。


「イザベル様は同じ日本にいたのよ?イザベル様が無意識にして来た行動や口にした言葉は、日本では日常的なものなの!

私はその違いを知っているもの。この世界の雁字搦めの身分制度も、貴族社会の歪んだ世界も……。

私はたまたま貧乏な子爵令嬢だった。

贅沢をする機会も無く、領地を守るのに必死だった。

私とイザベル様の立場が逆であったなら、今のイザベル様は私だったかもしれない……。」


エリアナは必死にイザベルを庇い続ける。


「同じ国から来たのよ……。好きではないけれど、辛い人生を送って欲しい訳ではないのよ……。」



エリアナはイザベルを助けたい訳ではないのだ。

不幸になって欲しい訳では無い。



ただ、自分が関わる事で他人を不幸にはしたくなかった。


前世の染み付いた知識や思考が、この世界の貴族制度を受け入れきれないでいる。


煩わしく感じてしまう。

自由の無い世界。


「リアは日本を忘れられないのですね……。この世界で生きるのが辛いですか?

自由に満ち溢れた世界から、自由の無い世界に来て……。」


セドリックの声が悲壮な気配をのせて、エリアナの耳に入る。


セドリックの顔は苦しそうに、悲しそうに見える。


エリアナはセドリックの首に腕を回す。


「セド。ごめんなさい。確かに私の中にある前世の記憶が、私の思考も感情も埋め尽くすのよ……。解っているの。私は貴族の娘で後継であり、多くの民の命を預かっていると。

でも……。同郷の者が落ちて行く姿は見たくないの……。」


エリアナを抱きしめ、セドリックが自分の気持ちを言葉にして一つ一つ伝える。



「リアは貴族として、後継として立派に振る舞っています。

この世界で生きようと、馴染もうと努力しているのも理解しています。

ですが、私の知らないリアの生きた世界を私は嫌いなようです。

貴女が前世を恋しく思う時がある時は、私がその恋しさを埋めたい。

自由が欲しいのならば、私がその自由を作ってあげたい……。

私とこの世界で生きて下さい。この世界を愛して下さい。」


セドリックの懇願に近い思いの吐露は、エリアナの心に深く優しく染み込んでいく。


「私はセドを不安にさせていたのね。私はちゃんとこの世界で生きるわ。セドと一緒に生きる為に頑張ってるのだもの。

ごめんなさい。セド……。不安にならないで……。」


お互いが不安を抱え、気遣っていた。


(きちんと話しをしよう。前世の自分を全部知ってもらおう。)


抱き合いながらお互いへの想いを確かめていた。



「エリアナ嬢も転生者なのか……?」


ポツリと聞こえた声に、エリアナもセドリックも殿下がいた事を思い出した……。



エリアナがぎこちない動きで、殿下に顔を向けた。


エリアナは気不味そうに……。

殿下は呆然とした顔をして……。


二人は暫し見つめ合った。



「忘れていました。殿下がいた事に。」


セドリックの正直な言葉に、殿下がガックリと頭を下げてしまった。


セドリックの言葉で落ち込む殿下を見て、前世の話を伝えるべきかを考える。


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