40話 小さな悪意の波紋
本格的な授業も始まり、慌ただしく毎日が過ぎていく。
騎士科は学園で一番に授業が始まる。
エリアナ達は、朝早くに王都の邸を出た。
暫く滞在していた両親も、私達が邸を出た後に領地へと戻る予定だ。
長期休暇までは子爵家の領地は王都から離れている為、両親とは暫く会えない。
両親の見送りをしてくれる姿を見て寂しく思うが、毎日勉強漬けになるので寂しがる暇もなくなる。
教室に入ると、まだ誰も来ていないようだ。
エリアナとケイシーは一番前の入口から離れた奥の席に座る。
少しすると生徒が入ってくる。
何故かいつもエリアナ達の周りから席が埋まっていく。
先生も来て、訓練場へ行くように言われる。
「今日は攻撃をする際の姿勢から始める。エリアナ君は、気になる生徒がいたら姿勢を指摘してくれ。」
いきなりの先生の発言に驚くが、先生はエリアナを無視して生徒達の指導を始めた。
「はぁー……。」
エリアナはため息を吐くと、気持ちを切り替えて自身のレイピアをアイテムポーチから出した。
不意に現れたエリアナのレイピアに、生徒が驚く。
殆どが腰に帯刀していたからだ。
エリアナの腰に着けるアイテムポーチを羨ましそうに見る者も、チラホラ……。
(男性は私に指導されたくないだろうから……。令嬢達を見ようかな。)
エリアナは令嬢を一人一人踏み込む姿勢や、体重のかけ方を微調整して行く。
鞘をつけたまま、剣を振り攻撃の体勢や受ける体勢を次々と指導する。
エリアナは意外と先生役に適していた。
基本的な事を行い授業を終えるが、次の授業は相手との打ち合いをするらしい。
生徒はそのまま訓練場で休憩をし、次の授業まで待っていた。
「エリアナ様。お話しても宜しいですか?」
エリアナに以前懇願して来た令嬢の一人が声をかけてきた。
「良いですよ!」
エリアナが返事をすると、一斉に令嬢達に囲まれた。
騎士科は30人いて、エリアナとケイシーを抜いた8人が女性である。
エリアナとケイシーを令嬢達が囲んでしまった。
エリアナは顔が引き攣らないように、細心の注意を払う。
「エリアナ様と直接お会いするのは始めてですが、私達はギルドでエリアナ様をずっと見ていました。」
声をかけてきた令嬢は、確か……タチアナ様だ。
「ギルドで?」
タチアナ様達を見かけた事が無いので、首を傾げた。
タチアナはエリアナの仕草に頬を少し赤らめ、エリアナに説明する。
「エリアナ様は受付嬢のエリー様と時々手合わせしていましたでしょう?それを私達は見ていたのです。
エリー様は、私達貴族令嬢の指導者なんです。」
タチアナの話によると、エリーお姉さまは同じ年の私の剣術を見せる為に隠れて見学させていたらしい。
同じ年でAランクのエリアナに、皆憧れていたようだ。
容姿の優れたエリアナが戦う姿に憧れ、傾倒していた。
しかも、エリアナが騎士科に行くかも?と教えたのは、エリーお姉さまだった。
選択教科を聞かれた時に、確かに騎士科を選ぶかも?とは話したが、確定してはいなかった。
ヒロイン達と被るならば、騎士科を選ばないからだ。
「私がもし騎士科を選んで無かったら、どうするつもりでしたの?」
エリアナが騎士科を選ばない可能性もあったのだ。
「そうですね……。私は考えてませんでした。騎士科でエリアナ様と学ぶ事しか考えてなかったので……。」
タチアナが恥ずかしそうに答えた。
エリアナが騎士科に来ない事を考えてなかったらしい……。
((無謀……。))
エリアナとケイシーは、同じ事を思っていた。
「まぁー。結果的にエリアナが騎士科を選び、残る事になったから良かったじゃない。」
ケイシーが上手く纏めてくれた。
タチアナ様達とはギルドの冒険者達の愚痴を言ったり、エリーお姉さまの指導の厳しさを愚痴りあった。
授業開始の鐘がなり、打ち合いをする相手を選ぶ。
勿論エリアナはケイシーを選んだが、ケイシーは相手がエリアナでは身が持たない!と、拒否をする。
ケイシーに速攻で断られたエリアナは、意地になり左手にするから!と、強引にケイシーと組んだ。
ケイシーは剣を扱った事がない為、一から指導した。
ケイシー指導する中で、人に教えることの難しさを始めて知った。
でも、教えた事をケイシーがやり遂げる姿を見るのは楽しかった。
ケイシーは何とか最近になって、剣を振れるまでになったのだ。
打ち合いをしていると、お願いポーズをしていた四人の男子生徒が近づいてきた。
「カーマイン嬢。私達も見て貰えないだろうか……。」
おずおずと聞いてくるが、先生の許可がない為どうして良いか解らない。
ロイク先生をチラリと見ると、頷いてくれた。
「解りました。私で良ければ。」
そう返事をすると、男子生徒達は嬉しそうに順番を決め始め整列した。
またもや引き攣りそうな顔を何とか笑顔に持っていく。
「手が空いてる人は、ケイシーを見てくれる?」
ケイシーの指導をお願いして、男子生徒を見る事になった。
この時を境に、男子生徒四人と女生徒八人をエリアナが担当する事になる。
ケイシーを入れ、クラスの半分近くをエリアナが教える事になる。
学年対抗の剣術大会で、学園を驚かせるメンバーとなるのをまだ誰も知らない。
知っているのは、ポッケで眠る神様くらいだろうか……。
騎士科を終えると、セドリック達が迎えに来て魔術科に移動する。
二時間魔術科を受けると、お昼の休憩となる。
昨日と同じく、エリアナ達のクラスにセドリック達が来てお弁当を食べる。
ラビはお弁当の時間になると、ポッケから出てくる。
皆と昼食をとるのが、エリアナも神様も楽しみとなっていた。
学園でエリアナ達が楽しくお弁当を食べている頃。
ハーマン公爵家には四大公爵家が集まっていた。
・ハーマン公爵家
パトリック 夫人のセリーヌ
・アーカート公爵家
ゴードン 夫人のレイチェル
・ヨルダン公爵家
アード 夫人のパメラ
・アクトン公爵家
ハリー 夫人のマーガレット
この国を陛下以外が動かす事が出来る、権力者達が集まっていた。
アーカート公爵家のゴードンとレイチェルが、筆頭公爵家であるパトリックとセリーヌに謝罪する事から始まった。
「まず、ハーマン公爵夫妻には我が娘が度重なる失態を犯した事を謝罪致します。」
アーカート公爵夫妻は、揃って謝罪を口にした。
パトリックは何も返事をしない。
夫人のセリーヌが口を開いた。
「二人を責めるつもりはなくてよ?躾がなっていないのは確かですが、お二人が娘に対して何もしなかった訳では無い事は解りますもの。」
セリーヌは優しい口調ではあるが、「許す」とは口にしなかった。
ハーマン公爵家はアーカート公爵家からの謝罪は受け入れるが、許すつもりは無かった。
「その事は、ヨルダン家とアクトン家には関わり無い事。今する話ではあるまい。」
パトリックの言葉で、レイチェルとゴードンは頭を下げ話を止めた。
「それより、今だ王妃様にフィデラ夫人が関わろうとしていると報告がある。
あの侯爵家をどうするべきか、それを決めねばならぬ。コート伯爵家への接触は、カーマイン子爵家への接触の為とも報告がある。エリザ夫人にトリス侯爵やフィデラ夫人が接触する事はあってはならぬのだ。」
パトリックが今日集まって貰った理由を説明する。
「一つ良いかな?パトリック殿。」
アクトン公爵家のハリーが、パトリックに問いかけた。
「我が妹の行いで、カーマイン子爵家のエリザ夫人へ取り返しがつかぬ失態を与えた事は事実である。陛下や王妃様も関わりある故、思う事がある事もまた事実。
だが……。そこまでエリザ夫人を守る必要性があるのだろうか?
決して他意はないが、疑問に思ったのでな。」
アクトン公爵の妹の一人は、リリアーヌ女辺境伯と揉めたナタリーである。
陛下の元婚約者であり、アーカート公爵夫人レイチェルの姉であった。
アクトン公爵家は、ナタリーが陛下の婚約者であった頃は筆頭公爵家として権力を振るっていた。
だが、ナタリーの失態で爵位を下げられるかまで落ちたが、アーカート公爵ゴードンとレイチェルが婚約を結ぶ事で公爵家として位を保ったのだ。
その裏で、セリーヌ夫人とパトリックが奮闘していたのは皆周知している。
四大公爵家が以前と変わらず存続出来るのは、ハーマン公爵夫妻の並々ならぬ奮闘があったからだ。
「ギルドマスターのエルランド殿からの報告は、各家に報告があったな。
我が息子のセドリックは、神の加護を受けておる。そして、カーマイン子爵家のエリアナ嬢は神のお気に入りとの加護を持っておる。」
皆が頷いた。
王家や教会へは知らされぬ、ギルドからのギフトの報告。
ギルドは唯一、四大公爵家には報告するのだった。
ギフト持ちを王家や教会から護る為に、対抗出来る力を持つ四大公爵家を、ギルドは味方につけていた。
ギルドは単独でも相当な権力を持つが、冒険者の中には貴族の令嬢や令息もいる。
貴族間の事になると、ギルドも対応に苦慮する。
ならば、貴族の筆頭である公爵家を味方にする術を取っていた。
「息子の加護とエリアナ嬢の加護。どちらが格上だと思う?」
パトリックからの問いかけに、皆考えてみるが……。
神様のお気に入り等聞いた事もなければ、威厳もない。
セドリックの加護の方が格上であると考える。
「息子の加護は、エリアナ嬢の加護があるからこそ与えられたものなのだ。
神がエリアナ嬢を助けるためにのみ、与えた加護。
エリアナ嬢は神に愛されし娘なのだ。」
パトリックの発言に、セリーヌ以外は顔を青褪めさせる。
何故、ハーマン公爵家がカーマイン子爵家を必死に護ろうとするのかを理解したからだ。
エリアナ嬢は子爵家の領地領民と、両親をとても大切にしている事を知っている。
ギルドでのいざこざも、夜会の出来事も王妃様とのお茶会も。
エリアナ嬢が怒る時は、必ずエリザ夫人か子爵家を貶める発言があったからだ。
「エリザ夫人をこれ以上苦しめれば、エリアナ嬢がどう動くか解らぬ。
最年少のSランクの冒険者であり、最大級の神の加護を持つ者だ。他国に亡命させる訳にはいかぬ。
今まではリリアーヌ女辺境に気を遣っておったが、その比ではない程に国にとって大事な存在となる。」
確かにトリス侯爵家がカーマイン子爵家と接触すれば、あのフィデラ夫人の事だ。
必ずエリザ夫人を傷付けるのは明らかだ。
「今、この国にとっての最重要人物は、エリアナ嬢であるのだな。」
ゴードンがパトリックに確認をとる。
パトリックはそうだと言わんばかりに、強く頷いた。
ゴードンが何やら思案し始めた。
「娘のイザベルの事を調べる時に報告があったのだが。
学園の一部の噂でエリアナ嬢がエイミー男爵令嬢とやらを虐めているとの噂が広がりつつある。
高位貴族は、エリアナ嬢がその様な人物でない事を理解している。また令嬢令息がギルドに所属している家門も理解はしているが……。それ以外の家門の者がな……。」
ゴードンは顎に手をやり、苦い顔をする。
「王太子殿下は学園ではどうされている?」
ヨルダン公爵家のアードが殿下の様子を聞いてきた。
アードは外交を担っていて、最近帰国したばかりだった。
「以前の殿下とは比べ物にならぬ程、立派になりつつある。ただ、周りに置く人材を変えただけだがな……。」
パトリックが殿下の以前の側近を軽く扱き下ろした。
「王太子として相応しくあれば、それで良い。それより、アーカート家はどうするのだ?殿下の婚約者である者が今のままならば、我々が動く事になるが……。」
アードがゴードンとレイチェルに視線をやる。
「イザベルには、最後通告は伝えてあります。それでも改心しないのであれば……。」
レイチェルは唇を噛み、言葉を詰まらせる……。
レイチェルとて、娘が可愛くない訳では無い。お腹を痛めて産んだ、可愛い娘なのだ。
だが、高位貴族として。
四大公爵家として。
答えを出すのは、身を切られる思いなのだ。
例え公爵家の娘であろうと、転生者であろうと、国の不利益にしかならない者は消されるのだ……。
「イザベル嬢の事は、今一度教育を行う事で様子を見ましょう。
それより、エイミー男爵令嬢とやらの話をしましょう。」
セリーヌ夫人の提案で一旦イザベル嬢の話を終える。
(エイミー男爵令嬢はエリアナちゃんが言っていたヒロインよね……。)
セリーヌ夫人は可愛い娘であるエリアナを煩わせるエイミーを、どうしてくれようか……。
最近はそればかりをセリーヌは考えていた。
エイミーは学園で小細工をしている間に、最強の夫人であるセリーヌを敵に回していたのだった。
アクトン公爵家当主の名前をハリーに変更しました。
名前が被ってしまい、申し訳ありません。




