39話 四大公爵家として……
エリアナはカオスな状態から抜け出せずにいる。
「あの……。とりあえず立ってくれる?」
土下座状態の女生徒に声をかける。
「立ったら先ほどの言葉を撤回してくださりますか?」
目の前の生徒がそう答えた。
「それは無理でしょう?馬鹿にされるのは嫌いですし、ケイシーを怯えさせた事は許せない。学園には学びに来ているのです。学べる事がないなら降りて他の選択教科を選ぶだけよ?」
エリアナの言葉は正論である。
エリアナは本来学園には通いたくなかったのだ。
物語から離れたかった。
でも、学園を卒業する事は貴族としての義務。
ならばきちんと学び、得るものを見つけようと決めていたのだ。
「エリアナ君は学ぶ事が好きなようだが、残念ながら騎士科ではエリアナ君に教える事は無いかもしれないね。」
ロイク先生がエリアナにそう話す。
生徒達はざわついた。
「では騎士科を降りま……「まてまて!話を聞け。」……」
「教える事は無いかもしれないが、人に教える事で新たな気付きや改善点を見付ける事が出来る。教えられる学びではなく、実力のあるエリアナ君は、教える側からの学びを得ると良いと考えていた。」
ロイク先生の話に考える。
未だに座り込む女生徒や祈るポーズを止めない男子生徒。
エリアナは小さくため息を吐くと、ケイシーに問いかけた。
「ケイシーはどうしたい?騎士科にこのまま在籍する?」
いきなり振られたケイシーはワタワタし始めた。
皆の視線がケイシーに集まる。
「えっと……。」
(皆の願望の眼差しが怖いっ……。)
ケイシーは間違った判断は出来ない!と、ゴクリと喉を鳴らした。
「騎士科にいたい。かな……?」
ケイシーの言葉に、エリアナはロイク先生へと向き直る。
「ケイシーの言葉に従います。」
エリアナが騎士科に残る事で、エリアナと手合わせした男子生徒とその仲間以外は大喜びだった。
「授業の続きをするぞ!急いで教室に戻れ!」
ロイク先生の言葉に、全員が走って教室へと戻る。
教室に入ると自己紹介が始まる。
手合わせした生徒と仲間達の名前は、遠いお空へと放り投げた。
騎士科の授業は手合わせと自己紹介で終わった。
「明日からは騎士科は早朝からの授業だ。
自分の剣があるなら使って構わない。
ただし、扱いだけは気を付けるように。
動きやすい服での参加だから気を付けてくれよ。特に女性はな。」
ロイク先生は教室を出る時にそう言って出て行った。
「エリアナ。騎士科でもお疲れ様。」
ケイシーがエリアナを労う。
「あの人達は何がしたかったのかしら?意味不明よ。それに女子も私が騎士科を選ぶからって。解らないわ……。」
エリアナが解らない事は、ケイシーにはもっと解らない。
エリアナのファンが沢山いる事だけは知れたので、ケイシーは満足だった。
「リア!」
エリアナを呼ぶ声に振り返ると、セドリックが迎えに来てくれていた。
エリアナはずっと考えていたので、セドリックの呼ぶ声に反応が遅れたのだ。
「ごめんなさい。急いで支度するわ。」
エリアナとケイシーは慌てて荷物を持った。
エリアナがポッケをそっと覗くと、まだ寝ている……。
イラっとする気持ちを抑え、セドリックと教室を出た。
棟の入口まで来ると、殿下とアーネットとメレニーが待っていた。
「誰も待ち伏せしていないから、大丈夫。」
殿下の言葉で、気遣ってくれた事に気が付いた。
「わざわざ、ありがとうございま。」
エリアナが三人にお礼を伝えた。
馬車乗り場まで一緒に向かう。
殿下を見送り、メレニーを見送ると子爵家の馬車に乗り込んだ。
エリアナは座席に座ると、深いため息を吐いた。
(初日にしてはハード過ぎる!)
エリアナはどっと疲れが押し寄せてきた。
セドリックがエリアナの疲労に気が付いて、
「リア。話は子爵家に戻ってからしましょう。少し寝て下さい。」
セドリックの肩にエリアナの頭を乗せた。
「ごめん。少しだけ。」
そう言うと同時に眠りに就いた。
セドリックはエリアナの頭を数回撫でると、ケイシーに視線を向けた。
「騎士科で何かありましたか?」
ケイシーに尋ねると、訓練場での話をする。
セドリックは一瞬だけ険しい顔をした。
自分の知らない場所でエリアナに危害を加えようとしたのだ。
許せるはずはない。
ケイシーに名前を聞き出し、セドリックはどうやり返そうか考える。
急に黙りになったセドリックにケイシーは首を傾げた。
姉のアーネットに視線を向けると、アーネットは静かに首を振る。
ケイシーには理解出来ないので、静かに待つ事にした。
アーネットだけは、セドリックがエリアナに手を出した相手への制裁を思案している事に気が付いていた。
子爵家が近くなり、セドリックがエリアナを起こす。
ぼんやりするエリアナだが、
「疲れた顔をしていると、子爵が心配しますよ?」
セドリックの言葉にエリアナは覚醒した。
「ごめんなさい。ずっと寝てたわね……。」
エリアナの謝罪に、
「仕方ないわよ。エリアナは一日頑張ったんだもの。」
ケイシーがエリアナにそう伝える。
元気良く子爵家へと入る。
エリザとギルベルトが優しく出迎えてくれた。
各々の部屋に入り着替えを終えると、リビングに集まった。
子爵夫妻が学園の話を皆から聞きたいと言われたからだ。
「皆、お疲れ様だったね。学園はどうだったか聞かせてくれるかい?」
ギルベルトもエリザも、半分の心配と半分の期待を込めて聞いてきた。
エリアナは少し考えるが、嘘を伝えるよりも全て話した方が良いと結論付けた。
「朝からヒロインに絡まれました。先輩方は多分敵には回っていないと思いますが、同学年からは敵視された気がします。」
いきなりの内容に、ギルベルトもエリザも固まる。
それから入学式の話や、学園長に呼ばれ宰相様にも会った事。
王太子殿下が物語から離脱し、セドリックと一緒にいる事。
それは、陛下の命でもあるらしい事。
その後の魔術科と騎士科での手合わせ。
エリアナは全てを伝えた。
「それと、お弁当ですが。殿下とメレニーも一緒に食べる事になったのよ!量を増やして貰うように伝えないと。」
エリアナは今日の出来事は淡々と話すのに、お弁当の事はとても楽しそうに両親に語る。
「エリアナ。大丈夫なのか?飛び級を使う事も出来なくもないのだよ?」
ギルベルトはたった一日で大変な目に合うエリアナが、心配でならなかった。
飛び級をして、学園に行かない事を選んでも良い。そう伝える。
「大変な一日だったけど、魔術科はとても楽しそうだし。騎士科も女子生徒から懇願されちゃうし。
でも、皆と学園に行くのは楽しそうだから、もう少し頑張ってみますわ。」
エリアナは笑って返事をした。
「そうか。辛くなった時は、ちゃんと教えるんだよ?
エリアナだけじゃない。アーネット嬢もケイシー嬢もだ。コート伯爵から預かっているのだ。何かあれば、ちゃんと教えて欲しい。良いかい?」
ギルベルトの話に、二人は「「はい」」
と返事を返した。
「ケイシー嬢は初めての学園はどうだったのかな?」
ギルベルトがケイシーに感想を聞く。
「エリアナといると大変だけど、エリアナといるから楽しめます。マーリンがうろちょろするのだけが、不愉快なくらいです。」
ケイシーの口から、トリス侯爵家の名前が出た。
「何か言われたのかい?」
「待ち伏せしていたみたいでしたが、殿下達が助けてくれたので顔を合わせずに済みました。」
ギルベルトの問いに、アーネットが答える。
「トリス侯爵家の話は、セリーヌ夫人を交えなければ先に進めないだろう。
近々セリーヌ夫人から連絡があるだろうから、その時までなるべく接触は避けたいな……。」
ギルベルトが思案しながら、話をする。
「選択教科が被らないので何とかなるでしょう。暫くは移動した階から出ないようにして、絶対に一人で行動をしないようにしよう。」
セドリックの提案に皆が了承する。
「あ!陛下が私に感謝しているって話、教えてくれる?」
エリアナは学園長室での事を聞いてみた。
「あぁ。王妃様を助けたって話ですね。
エリアナが王妃様に言った言葉で王妃様も色々調べて自身の間違いに気が付かれた。
そして、自らの名の下にフィデラ夫人に処罰を出された。ここまでは理解出来ますね?」
セドリックの説明に頷いた。
「もし、エリアナが何も言わずにいたなら、きっと王妃様は以前と変わらずな行動を取っていたでしょうね。
そうなると、母が動く。そして、各公爵家の名の下で王妃様は王族から除籍されていたでしょう。」
ギルベルトとエリザはそうなる可能性を知っていた。
アーネットとケイシーは、全て初耳で驚くどころではなかった。
自分達が聞いてはいけない話を聞いている事に、顔色が悪くなる。
ケイシーが姉のアーネットの手をギュッと握りしめて恐怖から逃れようとしていた。
「陛下は、王妃様が議会で晒されないように離縁をするつもりでいたはずです。
離縁されても、除籍されても王妃様の立場は地の底に堕ちてしまう。
ですが、これを実行する事無く王妃様自身が動かれた事により、一部信頼が失われていた者からも見放されずに済んだのです。
陛下とて長年連れ添われた王妃様と離れるのは苦渋の選択だった筈です。しかも王妃様は殿下に自らの過ちを説いて聞かせた。
全てエリアナが行動した結果です。
感謝の気持ちを持つでしょうね。」
詳しく説明してくれるが、エリアナはポツリと言葉を漏らす。
「王妃様に喧嘩を売っただけなのに……。」
エリアナは呆けた顔でそう呟いた。
セドリックはクスリと笑い。
「そうですね。喧嘩を売って王族を改心させるリアは、凄いですね?」
そう声をかけた。
「アーネット嬢にケイシー嬢も突然の内容に驚いたと思いますが、リアと友達でいるならこれから先もこんな話しは出て来ます。慣れて下さいね?」
セドリックがニッコリ微笑む。
アーネットもケイシーも向けられるその笑顔が怖かった。
でも、エリアナと友達をやめるつもりはない。
「頑張りますわ。」
二人は、そう答える。
エリアナは説明されても何となく腑に落ちないが、受け入れるしかないと陛下からの感謝を一旦思考の奥の奥に置くことにした。
〜✿✿〜
婚約者である殿下から謹慎を言い渡されたイザベルは、公爵家に強制的に帰された。
邸に入ると、父であるゴードンが物凄い形相で睨み待ち構えていた。
「お前は何と言う事をしたのだ!ギルドマスターに、如きと発言したらしいな!お前は公爵家を潰すつもりなのかっ!」
帰って早々の父からの叱責。
怯えるどころか、学園での怒りが鎮まらぬままいたイザベルは父に対して猛反論する。
「あの人は、公爵令嬢である私を如きと呼んだのですわよ!しかも、たかが子爵家の娘を庇うために、転生者である私を侮辱したのです。言い返して何が悪いのです!」
肩で息を吐きながら、イザベルが反論した。
「お前はっ……。」
ゴードンが呆れた声を出した。
「ギルドマスターは、公爵家よりも格上なのだそ!ギルドマスターと神殿の教皇様は王家と同位なのだ!
お前は何を学んできたのだ?それに、子爵家のエリアナ嬢はSランクの冒険者だ。その地位は世界に通じる地位であり、誰も縛れない地位なのだ。
この意味が解らぬなら、一から教育を受け直すのだ。
私が許可するまで、学園には通う事は許さぬ!!」
吐き捨てるように、ゴードンはイザベルに言い放つと邸の奥に入って行った。
残されたイザベルは使用人達に無理矢理引っ張られ、母である公爵夫人の部屋に連れて行かれた。
目の前に座る母の顔を見る。
「お帰りなさい。イザベル。」
優しい声色だが、目は笑っていない……。
母の怒りが目にあるのを、認識する。
ヒュッと息を飲むイザベルを、母であるレイチェルは冷ややかな視線を向ける。
「公爵家の名に恥じる行いをしてくれましたわね。転生者だからと、何時までその名を振りかざす行為が通用するのか……。」
レイチェルは一度言葉を区切ると、席を立ちイザベルの側に来た。
イザベルを冷ややかに見つめる母の視線は、娘を見る視線ではない……。
「転生者はどの国でも大切に護られる存在。敬われ、一生国が護ってくれる……。
そうですね?」
レイチェルがイザベルに問いかける。
イザベルはコクコクと頷く。
「それは前提として、転生者は国を豊かに民を幸せに導いてくれる存在だからです。未知の知識を携え国に貢献してくれるからです。
だからこそ、国が私達貴族が守り抜くのです。」
レイチェルはイザベルの耳元で小さく囁く。
「イザベル。死にたく無ければ自身の行いを改心なさい……。」
母親であるレイチェルから告げられた言葉に、大きく目を見開きイザベルは信じられない目で見ている。
「その前提をやり遂げる事なく、その権力のみを貪る者を四大公爵家は許す事はないのよ?その意味を考え、学びなさい。」
レイチェルはイザベルにそう伝えると、部屋から出て行った……。
イザベルはレイチェルの冷ややかな態度に、身の危険を感じ震えていた。
ゆっくりと床にへたり込んだイザベルは、母から伝えられた言葉を受け止められないでいる。
呆然としたまま、空を見つめるイザベルだけがその場に残されていた……。




