33話 世に出してはならない薬⋯⋯。
お昼前に帰って来たエリアナは、部屋に帰り薬の調合を始めた。
臓器の回復は順調で、作ったお薬の効果があったのだ。
次は血流を整え、体力をつける為のお薬を作る予定を立てていた。
「お薬に使うハーブと薬草はこれで全部よ?後は何を使うの?」
エリアナが用意したハーブを前に神様に問いかけた。
『ダンジョンで出た虹色の花は持ってる?』
「あるぞ。」
セドリックが神様が言った花をマジックバックから出した。
『そう!それ!その花びらを一枚入れて、一緒に調合してくれたら良いよ!』
神様が言うならば。と、一緒に調合する。
ハーブを入れ、薬草を少し足して粉末にしながら最後に花びらを一枚足した。
すると、乳鉢から少しずつ虹色の光が放たれ始めた。
エリアナも驚きはするが、調合を放置出来ない。
光を気にせず、乳棒で必死に粉砕する……。
気持ちを込めて、乳棒をゴリゴリと擦っていく。
(伯爵様が良くなりますように。)
光がゆっくりと消えると同時に、薬が出来上がったようだ。
エリアナは風魔法でお薬を飲みやすい粉末にしていく。
エリアナとセドリックは、乳鉢をじっと眺めていた。
「リア、鑑定してみて下さい。」
セドリックの言葉に自身の鑑定スキルを思い出し、直ぐに鑑定してみる。
【・製法……聖水に溶かし聖魔法を注ぎ込むと、特級ポーションとなる
・効能……万病に効く薬となる。 】
「……。」
エリアナは鑑定を読み驚いている。
ゆっくりと神様を見遣ると、口を開いた。
「このお薬を作る為に、加護持ちが必要だったのね?」
(伯爵様だけじゃなくて、お義兄様の病も治せるかもしれない……。)
エリアナの瞳から、一粒の涙が零れる。
神様はふわふわ浮かびながらエリアナに近付くと、頬を伝う涙を拭った。
『エリアナの世界のお話には、エリクサーが出てくるでしょ?でも、不老不死は神以外に存在を許されない。それなら、それに近い物をと思って世界を少し創り変えたんだ!』
神様が優しく微笑むと、エリアナと見つめ合っていた。
「コホン」
セドリックの咳払いで、エリアナが我に返りセドリックに視線を向けた。
「二人にしか話が解らないのは、不愉快です。私にも説明して下さい。」
セドリックのジト目を受け、慌てて説明をする。
「出来上がったお薬を鑑定した結果はね。
聖水でお薬を溶かすと、特級ポーションになるの。聖魔法を注ぎ込むと万病に効く薬が出来上がるみたい。」
エリアナの説明を聞き、神様にセドリックが疑問に思った事を聞いてみる。
「特級ポーションは既に魔法師が作っています。それに聖魔法をかけても、その薬は出来上がるのですか?」
『ならないよ!聖水が鍵になる。聖水を作れるのはエリアナだけだから、セドリックが聖魔法をかけても無理だね。』
神様がそう答えた。
エリアナとセドリックが揃わなければ、万能薬は作れないのだ。
『これなら、もし聖女に相応しい人物がいなくても二人が離れないで済むね。それに、切り札にもなるでしょ?』
神様が人差し指を顎にあて、可愛らしく語る。
「ありがとうございます。神様。」
エリアナがお礼を神様に伝える。
「これは神様が言う通り、最後の切り札にした方が良いですね。万能薬は、世に知られない方が良いかもしれません。教会に知られたら……。」
エリアナもセドリックも、お薬をじっと眺めて考えていた。
『とりあえず、伯爵を治そう!綺麗なお水に、エリアナが浄化魔法をかければ僕の神力も一緒に流れ込むんだ。それで、聖水の出来上がり!
お薬を溶かしながら、セドリックが聖魔法を流すと万能薬の出来上がり!』
くるくる二人の周りを飛びながら、説明をする。
エリアナは急いで厨房に行くと、飲料水を貰い部屋に戻ってきた。グラスに注ぎ、
(綺麗なお水になって……)
そう願いながら魔力を流す。
すると、白銀の光が放たれ静かに消えた……。
鑑定すると、【聖水】と出た。
エリアナはグラスを光にかざし、キラキラ光るお水を眺めた。
乳鉢にあるお薬を、匙で掬い三杯入れる。
セドリックがエリアナの隣に立ち、魔力をゆっくり注いでいく。
一瞬だけカッと輝くと、グラスの水は虹色に輝いた。
輝きが静かに消えていくと、ただの透明な水となった、
鑑定をすると【万能薬】と出た。
エリアナが大きく息を吐き、セドリックにグラスを見せた。
「鑑定したら万能薬って出たわ。これを夕食後に飲んで貰うわ。」
ニッコリ微笑み、安堵の表情を浮かべた。
「神様ありがとう。お義兄様にも飲ませてみるわ。」
『きっと元気になるよ!』
エリアナの頭を神様が撫でる。
負けじと、セドリックもエリアナの頭を撫でた。
エリアナはそんな二人を眺めているだけで、胸がぽかぽかしていく。
夕食の後、伯爵の寝室に足を運んだ。
今回も、エリアナとセドリックに兎だけで伺うことになる。
伯爵の寝室に入り、グラスを手渡す。
伯爵はじっとグラスを眺めていた。
伯爵には、ただの水にしか見えないのだ。
「伯爵様。これは、ただのお水ではありません。私が作ったお薬です。」
エリアナの言葉に、伯爵は頷きゆっくりとグラスの水を飲んだ。
全て飲み終えた瞬間、伯爵の身体が白銀に包まれた。
(何だこれは!温かい……。体を巡る魔力がとても温かい……。)
伯爵は自身の体を巡る魔力の心地よさに、目を閉じ身を任せていた。
白銀の魔力が消えて行くと、伯爵が目を開いた。
「なんと心地良い魔力だろうか…。生きてきた中で、一番体が軽い。」
伯爵は両手を開いたり、閉じたりしている。
『エリアナ。伯爵のお腹を見てみなよ。』
兎の姿のまま、神様がエリアナに指示を出した。
エリアナが鑑定をかけると、おへそにあった透明な魔力回路の色が薄っすら虹色を帯びていた。
「なにこれ……。もしかして、魔力回路も修復しているの?伯爵の魔力膨張の病も治せるの?!」
エリアナの驚きの声に、伯爵がバッと宙に浮かぶ兎を見た。
『そうだよ!魔力回路の修復も出来るんだよ!』
兎が腕を組み胸を張っていた。
「伯爵様。体調の変化はありますか?」
エリアナが言い切る前に、伯爵がベットを降り立ち上がったのだ。
「立ち上がる事すら出来なかったのに……。」
伯爵はゆっくりと足を出し、歩き始めた。
エリアナの前まで来ると、両手を掬い上げた伯爵は自身の額にエリアナの手をつけた。
「ありがとうございます。エリアナ嬢。」
そうお礼を口にする伯爵は、肩を震わせ泣いているようだ……。
「家族の皆様を呼んできますね。」
セドリックがそう伯爵に伝えると、急いで夫人達を呼びに向かった。
「伯爵様。このお薬の事は内緒にして下さい。お願いします。」
伯爵は勿論!と、約束してくれた。
廊下が騒がしくなると同時に、扉が大きな音を立てて開かれた。
メイリー夫人は泣きながら走ってきて、伯爵に抱きついた。
夫であるカールが立つ姿を見るのは、数年振りなのだ。
夫人はギュッと抱きつき、泣きじゃくっている。
アーネットとケイシーは部屋に入り、父の立つ姿を見て呆然としていた。
エリアナは二人に近付き、
「伯爵様はもう大丈夫だよ?お薬が効いたから、元気になるわ!」
アーネットとケイシーはエリアナにゆっくり視線を向けた。
アーネットが「本当に?」
震える声で聞いてきた。
エリアナは大きく頷くとアーネットとケイシーはエリアナに抱きつき「ありがとう」
と、何度もお礼を伝えた。
エリアナから離れた姉妹は、伯爵と夫人に抱きつき家族で喜んでいる。
エリアナ達は静かに部屋を後にし、部屋に戻った。
部屋に戻ったエリアナは、ソファーに深くもたれ掛かり大きく息を吐いた。
「良かった……。」そう呟いた……。
「伯爵の体調も良くなりそうですし、数日様子を見たら帰りましょうか。」
セドリックの話に、エリアナも同意する。
「それに。1週間後は、学園の入学式がありますから。早めに帰って準備をしなければなりません。」
セドリックの言葉に、エリアナが物凄く驚いたのだ。
セドリックは何故そこまで驚くのか気になったが……。
「完全に忘れていたわ……。学園に行く事を……。」
エリアナの言葉にセドリックは、呆気にとられた。
「忘れていたのですか?」
セドリックの言葉に、コクリとエリアナが頷いた。
『忘れるくらい、どうでも良い事になったって事でしょ?乙女ゲームを気にしないで楽しく過ごすエリアナの方が、僕は好きだから良いんじゃないかな?』
「そうですね。考えたり怯えたりするより、忘れるくらいが丁度良いですね。」
エリアナは忘れていた事を責められなくてホッとするが、伯爵家でもう一つやらなければならない事があるので早目にそれを終わらせる事にした。
次の日の朝食は、驚いた事に伯爵が席に着いていたのだ。
数年振りの家族での食事になるらしく、家族全員が満面の笑みを浮かべていた。
久々の朝食は、会話が途切れる事なく楽しく頂いた。
食後のお茶の時間をエリアナは伯爵に頼み、話し合いたい事があると時間を貰ったのだ。
伯爵一家を前にして、エリアナが話を始めた。
「伯爵様が病に倒れてから、アーネットさんとケイシーさんをトリス侯爵家に預けましたよね。」
エリアナの言葉に、メイリー夫人が
「お兄様に娘達を預けましたが、それが何か問題でもありましたか?」
アーネットとケイシーは、両親に何も話してはいなかった。
罰が悪そうに、俯いてしまった。
「アーネッさんトとケイシーさんは悪くないわよ。ご両親を心配させたくない気持ちは、十分理解出来るもの。」
エリアナの言葉に、夫人と伯爵が娘達を見る。
「お前達に何があったのだ?」
伯爵が問いかけるが、二人は口籠り中々話そうとしない。
「トリス侯爵家で、二人は虐げられていました。私とセドリックが証人ですが……。王家も巻き込んでいます。トリス侯爵夫人は、今は王宮に登城禁止令が出されています。」
メイリー夫人は顔を青褪めている。
実家のトリス侯爵家で何が起きているのか、知らされていなかったのだ。
「多分ですが、トリス侯爵家は今大変な状況となっています。色々問題を起こしたのは、フィデラ夫人ですが被害者の一人としてアーネットさんとケイシーさんの名前も上がっています。」
エリアナの説明に、とうとうメイリー夫人がクラリと倒れかけた。
「メイリー夫人は伯爵様が回復されたばかりで、まだ精神的に落ち着かないはずです。 アーネットさんとケイシーさんの事は、ハーマン公爵夫人のセリーヌ様が王都での後継人となってくれるそうです。」
メイリー夫人にエリアナがそう説明する。
「学園ももうすぐ始まります。」
(忘れていたけれど……。)
「良ければ落ち着くまで、アーネットさん達は子爵家に滞在していただいてセリーヌ夫人の指示を仰ぎたいと思っています。いかがですか?」
エリアナが説明を終えた。
「初めて耳にする事ばかりで、何と答えて良いのか……。それに、信頼して預けた侯爵家で娘達が虐げられていたなんて……。」
メイリー夫人がアーネット達に視線を向け、頭を下げた。
「アーネット、ケイシー。ごめんなさいね。伯爵家でも負担をかけ、更に侯爵家でも尚負担を負わせてしまったわ……。ごめんなさい。」
頭を下げたまま、夫人は二人に謝罪した。
「お母様が謝る必要はないわ!言わなかった私達も悪いもの。でも、もう大丈夫よ。エリアナ様がお父様を治して下さったし、フィデラ叔母様も大人しくさせてくれたから。
だから、大丈夫なのよ!!」
アーネットがそう話すと、ケイシーも同じ事を伝えた……。
「私はまだ回復したばかりで、まだ王都には向かえない。申し訳ないが、娘達を頼んでも良いだろうか?」
伯爵がエリアナに声をかけ、お願いをする。
「勿論です。セリーヌ夫人とも話し合いたいですし、アーネットさんとケイシーさんの事は任せて下さい。」
エリアナが伯爵にそう答えた。
「とりあえず、私達は明日にでも王都に戻ります。アーネット嬢達も一緒に帰っても良いですし、後日子爵家に来て頂いても大丈夫です。どうされますか?」
セドリックがそう尋ねると、アーネットとケイシーは後日王都に向かう事にした。
元気になった伯爵と、暫く一緒にいたいと。
次の日、エリアナ達は先に王都へと帰って行く。
後数日で、乙女ゲームの舞台へと立つ事になる……。




