32話 神様はようやく願いを叶えて貰う
エリアナは伯爵の病を完治する方法がある事を伝えに、足早で伯爵の寝室に向かう。
扉をノックし、許可を得て中に入る。
「お待たせしました。伯爵様の治療方針が決まりました。」
エリアナはニッコリ微笑み、アーネットとケイシーに視線を向けながら言葉を発した。
エリアナの言葉に、アーネットとケイシーは抱き合い泣きながら喜び、夫人は床に座り込み泣いていた。
当の伯爵はどうしたものかと、オロオロしている。
「申し訳ありません。」
夫人は涙を拭い、エリアナ達に謝罪した。
「お気になさらないで下さい。
病気の説明と、治療方針の説明をしたいのですが。」
エリアナの言葉に、メイリー夫人が執事を呼び伯爵の近くに椅子を並べさせた。
「伯爵様の病名は魔力膨張です。我が国では聞かない病名ですが、他国では知られた病です。普通は魔力を使えば使った分だけ量が戻ります。この病気の方は魔力が倍戻り、放出出来ない体質です。
そこに他人の魔力である神官様が魔力を注げば膨大な魔力を体に保持します。それが原因です。」
メイリー夫人が段々と顔を青褪めさせていく。
「私が神官様を呼んだから、夫の体調が悪化したのですね⋯⋯。」
メイリー夫人が自分のせいだと、自身を責め始めてしまった。
「この病を知らないのですから、仕方ありません。ですが、治療出来ると解ったのですからメイリー夫人にも頑張って頂きますからね!」
エリアナは話を続ける。
「最初は神官様の魔力を抜きます。その様子は伯爵様以外に見せる事は出来ません。魔力を抜いた後は、体の中の弱った臓器を治療します。体力がついたら伯爵様自身の余分な魔力を抜きます。」
エリアナの説明に、夫人が質問をする。
「魔力を抜く治療は、絶対に見れないのですか?」
夫人が興味本位で聞いていない事は、夫人の目を見れば解る。
ただ、夫が心配なのだろう。
「これは、私とセドリックのスキルとギフトに関わります。
暫くは内密にして頂きますが、アーネット様とケイシー様のご両親だからこそギフトを行使するのです。夫人でも見せる事は出来ません。」
エリアナは嘘を付かずに、正直に話をした。
「解りました。どうぞ宜しくお願いします。」
メイリー夫人はギフトに関わる事まで伝えてくれたエリアナを信じ、納得し頭を下げてエリアナにお願いをする。
「早速魔力を抜きます。申し訳ありませんが伯爵様だけにして頂きます。」
メイリー夫人達は、心配しながらも退室して行った。
「伯爵。これから私がギフトを使い、神官様の魔力を抜きます。体の力を抜いて下さい。」
セドリックが伯爵の胸に手をかざす。
セドリックの周りにはキラキラした白銀の光が放たれた。
「まさか⋯⋯。」
伯爵は驚愕な眼差しでセドリックを見る。
セドリックは人差し指を口元にあて、伯爵に視線で秘密だと伝える。
伯爵は慌てて頷き了承した。
「リア。魔力は抜きましたよ?伯爵の診査をお願いします。」
セドリックがエリアナを呼び、伯爵の側に来た。
「伯爵様にお願いがあります。この病は他国では知られた病です。ですが我が国では知られていない病。
この病に苦しむ人の為に、伯爵様の体を詳しく診察したいのです。」
エリアナは伯爵の目を見て、願いを伝えた。
「わたしの体で誰かを救えるならば、是非使ってもらいたい。それに、魔力を抜いて貰っただけでこんなに楽になるなんて。
同じ病に苦しむ方に、早く楽になって貰いたいからね。」
そう言う伯爵様の顔色は、少しだけ良くなっていた。
「早速ですが、宜しくお願いします。」
エリアナは一礼し、
「神様。一緒に診てくれる?」
エリアナがそう言うと、空中に浮かぶ子供が現れた。
「鑑定するから、治療に効く薬草を選んで行くわ。でも、何故魔力膨張を起こすのかが解らなければ、完治した事にはならないもの。
私が知る人体構造を出すから、神様が知る人体構造を比較して違う場所を教えて貰いたいの。」
エリアナの説明に神様が頷いた。
エリアナが「鑑定」の言葉を発すると、白銀の光が伯爵を包み込む。
神様と呼ばれる子供が手をかざすと、白銀の光が伯爵を更に包み込む。
エリアナと神様が何やら話し込んでいる。
伯爵は信じられない光景に、思考が追いつかず呆然と二人を眺めている。
「伯爵は気が付かれたようですので、簡単に説明しますね。
私のギフトは〈神様の加護〉エリアナのギフトは〈神様のお気に入り〉です。
加護持ちの方が格上に聞こえますが、全く違います。
お気に入りは、そのままの言葉で加護より遥かに格上です。神様と対等にいれる立場です。」
セドリックの説明に、伯爵は目眩を起こす。
加護持ちだけでなく、神様に近い方に治療していただいているとは⋯⋯。
伯爵は両手で顔を覆い、嗚咽を堪えて泣いていた⋯⋯。
(なんと有難い事だ!!娘達のおかげで、わたしは助かるのだ。この方達のおかげで生きられるのだっ⋯⋯。)
エリアナは小さな嗚咽に気が付き伯爵を見る。顔を覆い隠してはいるが、泣いているのが解る。
セドリックに視線をやると、小さく頷いた。
(ギフトの話をしたのね⋯⋯。きっと。)
エリアナは伯爵に気付かない振りをし、診察を続ける。
「神様。おへその辺りに日本で見たことが無い何かがあるわ⋯⋯。」
エリアナは大学の図書館で読んだ人体構造の本を頭に叩き込んでいた。
臓器の位置だけは完璧に覚えている。
でも、伯爵の体内を診ると見たこと無い臓器があるのだ⋯⋯。
『それは魔力を作ったり、溜め込む臓器だよ。魔術基盤を可視化したから見えるだけで、本来人の目には見えないんだ。』
神様がそう説明する。
「んー?透明な臓器って事?」
エリアナが首を傾げて呟く。
『そんな感じだね!』
「見えない臓器は治療出来ないのかしら?基盤を大きくすれば良い気がするけど⋯⋯?」
エリアナの疑問に、
『基盤を大きくしても、魔力を倍に作るのは変わらない。大きくした分魔力も膨大になるよ。』
神様の答えに、それもそうか⋯⋯と、納得する。
「基盤の事は後にして、臓器の修復から始めましょう。高熱で臓器が弱っているから、そこからね!」
エリアナはヨモギを始め、幾つかの薬草を出し風魔法と浄化魔法で粉薬を生成する。
「これと、後でハーブも使ってお薬を作れば大丈夫かしら?」
エリアナは神様に粉薬を見せた。
『うん!大丈夫だよ。ハーブには特別な薬草を混ぜて欲しいから、お薬を作る前に教えてね!』
神様の念押しに、エリアナは頷き伯爵に粉薬を差し出す。
「これを一日三回、食後に飲んで下さい。食事も私が提案する物を用意しますね!」
寝台の横に粉薬を置き、伯爵にはまた暫く休んで貰う。
伯爵は感謝の言葉を繰り返しながら、体が軽くなった事もあり直ぐに眠りに就いた。
エリアナ達は夫人やアーネット達が待つ部屋へと案内してもらう。
神様には兎の姿に戻ってもらい、エリアナが抱きかかえて客間へと急ぐ。
客間で待つ家族を前に、エリアナが説明をする。
「伯爵様の中にある神官様の魔力を抜きました。お薬を作りましたので、必ず食後に服用して下さい。
臓器が回復し、体力が少しついたらまた余分な魔力を抜きます。」
夫人は顔を覆い、外聞を気にする事なく泣きじゃくる。
アーネット達は母親を慰めながらも、自身も泣いている。
エリアナはその光景を見て胸が熱くなるのと同時に、自身の薬師としての役割が少しでも役に立った事に喜びを感じていた。
でも、まだ調合した薬の効果は解らない。
喜ぶのはまだ先。
深く深呼吸をし、夫人に話しかけた。
「メイリー夫人。薬は調合しましたが、効果があるのかはまだ解りません。
伯爵様の臓器の修復と体力をつける為に、食事も作ります。一緒に作って貰えますか?」
エリアナの話を泣きながら聞いていたメイリー夫人も、まだ安心するべきではないと気持ちを入れ替えた。
「勿論です。」
泣き腫らした目をしながら、微笑むメイリー夫人はとても輝いていた。
この病を見捨てる人は多い中、必至に夫を支える夫人をエリアナは尊敬した。
その日の夕食は少し遅くなったが、夫人とアーネットとケイシー。それに邸の料理人までも参加して薬草粥を作る。
朝、昼、夜とお粥を作るが、薬草を入れる為覚えて貰う。
皆が伯爵の回復を信じ奮闘している。
(きっと良くなるわよね。)
エリアナは祈りを込めて薬草粥を作る。
出来上がった薬草粥をメイリー夫人に渡す。
「夫人が手ずから伯爵に食べさせて下さい。お互いを思い遣る心はきっと伯爵様の力になります。」
エリアナの言葉に涙を浮かべ頷き、伯爵の寝室へと向かった。
次の日は料理人や夫人に薬草の説明をし、薬草粥とハーブティーを作って貰う。
それが終わると、経過観察をするだけとなり数日でエリアナは自由な時間が取れるようになった。
『エリアナは暇になったよね?時間に余裕が出来たよね?』
ふわふわ浮かぶ神様が、しつこく話しかけて来た。
(おにぎりを作るか⋯⋯。)
「約束でしたものね。時間が出来たら作るって。」
エリアナの返事に、神様がエリアナの周りをぐるぐる回りはしゃぎ始めた。
「買い物に行ってからになるから、午後からになりますよ?それに、神様を見られるわけには行かないので森にでも行かないといけないし。」
伯爵家でおにぎりは作れても、神様が食べる姿を見せる事は出来ない。
場所を考えなければ⋯⋯。
エリアナが悩んでいると、
『場所は大丈夫!この前二人を呼んだ空間に招待するよ!』
神様が両手を広げ、ドヤ顔で伝えて来る。
「駄目です!あの空間の時間の流れと、この世界の時間の流れが違いすぎます!
また行方不明になったら、伯爵家に迷惑がかかるので絶対に駄目です!」
セドリックが力説すると、神様がガーンと音がしそうな程ショックを受けた顔になった。
「とりあえず具材になる物を買って、森で野営しましょう。夫人には薬草採取をすると伝えれば大丈夫でしょうし。」
エリアナの案が採用され、街に買い出しに向かう。
伯爵家の裏手に深い森があるので、そこで野営する事にした。
まだ昼過ぎの早い時間だが準備を始める。
野営のテントを設営するのは、セドリックと神様に任せエリアナはおにぎりの支度に取りかかった。
薄焼き卵を沢山作り、中の具材も色々用意した。
茶巾絞りのおにぎりを沢山作る。
神様に具材が解らないようにして、選ぶのを楽しんで貰う。
前回のおにぎりの量の倍は作った。
全部の具材も入れた、爆弾おにぎりも作った!
エリアナは、これなら神様も食べ切れないだろうと作ったおにぎりを仁王立ちで眺めた。
お茶会の雰囲気はないが、早目の夕食を取る。
神様は目の前の茶巾絞りを見て、物凄く感動していた。
目をキラキラさせて、あっちこっちから眺め続ける。
エリアナはそんな神様を眺め、作って良かったとぽかぽか温かい気持ちになる。
三人で早速頂くのだが、神様の食べる勢いが凄い。
『これは魚だね!塩っぱくて美味しい!こっちはお肉だ!こっちは⋯⋯。』
エリアナとセドリックは神様の勢いに押され、おにぎりを余り食べれなかった。
山ほど作ったおにぎりは、綺麗に無くなった⋯⋯。
「あんなにあったのに⋯⋯。」
エリアナは可笑しくなり笑い出した。
神様はお腹をポッコリさせて、横たわったままプカプカ浮いている。
エリアナとセドリックは二人でクスクス笑う。
「神様。色々とありがとう。明日はハーブを使った薬を作るわ。神様も一緒に作るのよね?」
エリアナが尋ねるが、お腹いっぱいの神様はコクコクと頷くだけだった。
その日は森で野営をし、次の日は伯爵家の森の薬草を調べた。
とても良い薬草があったので、採取し持ち帰った。
神様と約束したお薬が、とんでもない薬だと判明するのは夕食後の伯爵様の姿で知る事になる。
お休みをしていましたが、投稿を再開します。
2日に一話の投稿に暫くはなります。
以前のペースになるまで、少しお時間を頂きたく思います。
これからも、よろしくお願いします。




