29話 王妃様であろうと許さない
王妃様が語り始めた。
「私は留学を終え帰国し、王太子殿下達の騒動を詳しく聞き全てを知りました。
婚約者のエリザさんやご両親には爵位返上する程の罪は無かったと⋯⋯。
リリアーヌ様からも処罰は禁じられていたと、その時に初めて聞きました。
私がエリザさんの婚約も家門の破滅も後押ししたのも同然なのです。
それなのに帰国した私は、王太子殿下との婚約を勧められた⋯⋯。高位貴族で婚約者がいないのは、私しかいない⋯⋯。」
王妃様はエリザに視線をやる。
「エリザさんの女性としての幸せを私が奪った。
それなのに、自分は女性達の筆頭となる⋯⋯。悩みましたが、陛下からの熱心な言葉にも絆されてしまい婚約をお受けしました。
それからは、社交界でエリザさんを見かける度に気にかけてはいました。それは先程話た通りです。」
王妃様の話は何となく理解出来た。
王妃様は一体何を幼馴染に伝えたのだろうか⋯⋯。
なぜそこまでお母様を気にするのか⋯⋯。
エリアナは疑問が幾つか出て来た。
「王妃様。質問をしても宜しいでしょうか?」
エリアナは疑問を聞いてみる事にする。
「王妃様は何をお母様の元婚約者に伝えられたのですか?それに母に対して申し訳ない気持ちがあったとしても、お母様を気にし過ぎではありませんか?」
エリアナの質問はエリザも少し気になっていた。
元婚約者の彼はとても優しい人だった。
切り捨てるような形で婚約を解消する人では無かったのだ。
「幼馴染の手紙の返事には、
『王太子殿下や高位貴族の婚約を白紙にさせた罪は重すぎる。王族の顔にドロを塗るような家門との繋がりは破滅しか無い。我が家も繋がりを断ち切るでしょう。』と、そう綴りました⋯⋯。」
王妃様は視線を伏せたまま答えた。
王妃様の話の内容は普通に考えれば最もである。
だが、言われる側としては酷く腹立だしい⋯⋯。
エリアナは心の中で大きく深呼吸をし、気持ちを抑えた。
母のエリザを見ると、青褪めている。
エリアナは直ぐに母の手を握りしめる。
エリザはエリアナの温かな手を握り返した。
「話を知らないとは言え、私は正義を貫いた気持ちでいたのかもしれない⋯⋯。
幼馴染を守ったのだと⋯⋯。
帰国して事情を知った私は酷く後悔をし続けました。
今はようやく、側付きの慰めと励ましで前を向く事が出来ました。
そして同じ過ちを犯してはならないと、自身を律してきました。」
王妃様は視線を上げ、再びエリザを見た。
エリザに向けるその眼差しは、憐れみの目をしていた⋯⋯。
「エリザさんを不幸にしたのは事実であり、私が幸せになるのは許されないと⋯⋯。
そう側付きに窘められました。
ですが二人で一緒に償いエリザさんを見守りましょう。そう言ってくれる側付きがいたのです。その者の励ましと慰めに助けられました。」
王妃様の話を聞けば聞く程、エリアナは疑問と不快な気持ちが増してしまう。
「何故側付きの方が一緒に償うのです?王妃様が幸せになって何が悪いのですか?
それに、母を勝手に不幸な人と思わないで頂きたいです。
王妃様は母の何を見ていたのですか?
母は父を愛し、父も母を深く愛し守って来ました。母は父のギルベルトと貧しくとも幸せに暮らしていました。
それすら不幸だと言うのですか?
自分の後ろめたい気持ちを 母を不幸にする事で誤魔化していたのですか?」
相手が王妃様だろうと、母を貶める言動に怒りが込み上げる。
エリザが必死にエリアナを止めようとするが、エリアナは止まらない。
「側付きの方は見当違いをしています。
王妃様が幼馴染の方に伝えた事は最もな意見です。それをどうするのかは、幼馴染の方の考え次第ではないのですか?
王妃様が母を不幸にした事実は一切ありません。母を不幸にしたのはミリー伯母さまです。王妃様は何も悪くありません。」
王妃様は唇を震わせ、瞳には涙を浮かべエリアナを見ている。
自身を悪くないと伝えてくれるエリアナの言葉に、胸を熱くしていた。
勘違いしている王妃様に、エリアナの腹立たしさが増した⋯⋯。
「王妃様が母に申し訳ないと思うその気持ちは、母を貶め侮辱している行為です。
悲劇の主人公になって良いのは母エリザだけであり、王妃様ではありません!」
エリアナは怒りの籠った眼差しで王妃様を見る。
(処罰されても構わない!でも、母を貶めている事だけは認めさせたい。)
エリアナの真っ直ぐで怒りに燃える瞳に、王妃様は自分の思い違いを気付かされた。
「私は沢山の思い違いをしていたのね⋯⋯。」
王妃様は深いため息を吐いた。
「エリアナさんの言う通りね。私は後悔の気持ちから逃げたくて、悲劇の主人公に浸っていたのかもしれない⋯⋯。
幼馴染もエリザさんとの婚約解消を後悔していたと聞いていたので、余計に申し訳なく思ってしまったわ。」
溢れそうな涙を拭い、王妃様がエリアナにそう話す。
「元婚約者様は母の侯爵家の没落に責任を感じていたのですか?」
エリアナは元婚約者が誰なのか気になり始めた。
「そうね。幼馴染からは妻から
『エリザ様を不幸にしたのだから』
と責められたと。でも一緒に償いましょうと言われたようよ。」
(また出た⋯⋯一緒に償う。ね⋯⋯。)
「もしかして、王妃様の側付きの方と幼馴染の夫人は同じ人物ですか?」
エリアナの疑問に
「そうよ。トリス侯爵家の夫人よ。」
王妃様がそう答えた⋯⋯。
「トリス侯爵家っ!!」
エリアナがつい声を荒げてしまった。
アーネットとケイシーがお世話になっている侯爵家であり、二人を虐め抜いている夫人だ。
「エリアナ。トリス侯爵を知っているの?貴女に伝えた事は無いはずよ?何故知っているのです!」
エリザか何故娘がトリス侯爵に強く反応したのか理解出来なかった。
「フィデラ夫人はいつも私やエリザさんを気にかけ、励ましてくれるとても優しい方よ。一緒に償ってくれようと心を寄せてくれる素晴らし人物よ。」
王妃様がトリス侯爵夫人を褒める言葉を発した。
「王妃様が辛い時に寄り添ってくれたからですか?」
エリアナが問いかけると、
「そうよ。後悔の中にいた私を叱咤し寄り添ってくれた方よ。」
王妃様は強く肯定した。
「王妃様を辛い状況に持って行き、自分が力になりあたかも王妃様を救った事に持っていったのね⋯⋯。
王妃様からの信頼があれば、何をやっても誰からも文句は言えない咎められない。
王妃様の後ろ盾があれば、やりたい放題ですしね。
しかも王妃様もトリス侯爵も、夫人に恩を感じる様に仕向けている。策士ね⋯⋯。」
エリアナの言葉に王妃様が声を荒げた。
「エリアナさん。いくら貴女が冒険者ランクが高かろうと、神様のお気に入りであろうと言って良い事と悪い事があります!フィデラを侮辱する事は許しません!
発言を撤回なさいっ!」
声を張り上げ、怒りを顕にする王妃様。
顔を青褪め、今にも倒れそうなエリザ。
「撤回はしません。神様のお気に入りだからと傲慢になり話している訳では無いからです。」
エリアナは、母の手を大丈夫と言わんばかりにポンポンとする。
「フィデラ夫人は下位貴族に対して王妃様の後ろ盾を使い、気に入った宝飾品を取り上げたり、気に入らない夫人には夜会で恥をかかせ社交界に顔を出せない様な仕打ちをしていますよ?
それに、下位貴族の男性に妻を社交界から追放されたくないならばと脅しをかけ、関係を持っているようです。」
それに⋯⋯。
「トリス侯爵家には侯爵の妹君の娘二人が預けられています。その子達の為に侯爵様から充てられたお金を全て巻き上げ、フィデラ夫人の娘とともに虐げています。
私の友人である二人を虐げる人を、私は優しい人とは思いませんが?」
王妃様はエリアナが話す内容に理解が追いつかない。自分の知るフィデラとは全くの別人の話しを聞いているようだったからだ。
「嘘です⋯⋯。フィデラは優しい人です。」
「王妃様が信じなくても構いません。ただ、この事を調べ上げたのは私ではなく、ハーマン公爵家のセドリック様ですから。
王妃様が認めなくても、ハーマン公爵家がフィデラ夫人に対して申し立てを近々議会に提出致します。
下位貴族からハーマン公爵に助けを乞う嘆願書が沢山届いていますから。
王妃様が後ろ盾ならば、それに対抗出来る貴族はハーマン公爵家しかないからです。」
王妃様はハーマン公爵の名前が出た事により、ようやく自身がフィデラ夫人に利用され踊らされていた事に気が付いた⋯⋯。
「セリーヌ夫人は近々、私を王妃様と対面させるつもりでいたようです。
私は母を守る為に王妃様との繋がりを持つようにするのかと思っていました。
ですが、王妃様の話しを聞いてセリーヌ夫人の真の考えが理解出来ました。」
エリアナは王妃様の目をしっかりと見つめる。
「セリーヌ夫人は母エリザを侮辱する者に、私が直接意見出来る場を設けてくれたのだと。私と母の名誉を自ら守れるように仕向けてくれたのだと理解しました。」
エリアナはエリザの手を強く引っ張り二人は立ち上がる。
「王妃様が私の話しを聞いて、どう考えどう動くのかは解りません。ですが、フィデラ夫人を恩人と崇める王妃様と繋がりを持つ気はありません。
それとセリーヌ夫人の名誉の為に申し上げますが、セリーヌ夫人は王妃様の目を覚させたかったのでしょう。嘆願書が提出されれば、後ろ盾となる行為をした王妃様にも矛先が向けられるでしょうから。」
エリアナは一方的に言い放ち、王族に対して決意を持って更に無礼を働く。
「私を罰したければどうぞ好きになさって下さい。
ですが、この事に関係のない両親達やハーマン公爵家を罰するならば、王妃様は母の時と同じ罪の無い者を罰する事にまたなってしまいますわね?」
エリアナは王妃様の言葉を聞く事なく、カーテシーをしエリザを連れて足早に王宮を後にした。
馬車に乗り込むと、エリアナは目をつむり罰せられた時の為にどう動くかに考えを巡らす。
隣に座るエリザは何も言えずに黙っている。
娘は何度も母であるエリザの名誉を守ってくれている。
今回の相手は王妃様なのだ。
娘に何かあるならば、一緒に国外に逃げる事を決意する。
子爵家に帰り着いたエリアナとエリザを、セリーヌ夫人が出迎えてくれる。
ずっと子爵家で待っていてくれたのだ。
セドリックもセリーヌ夫人と一緒に待っていてくれた。
「おかえりなさい。エリザさん、エリアナちゃん。」
セリーヌ夫人が優しく二人を出迎えてくれた。
セドリックは「お疲れ様」と言葉をかけ、エリアナを優しく抱きしめる。
「ただいま戻りました。セリーヌ夫人、セドリック様。」
エリアナとエリザが挨拶をした。
「お茶をしながら聞かせてくれる?」
セリーヌ夫人は早く話を聞きたいのか、エリアナとエリザの手を引き邸の中に急いで入った。




