27話 エリアナの初めてのお友達
今夜の夜会の主役は、エリアナだった。
エリアナの社交界デビューは、全ての貴族に鮮烈な印象を与えた。
ハーマン公爵家の確固たる後ろ盾を持ち、王族すらも関心を寄せる子爵令嬢。
しかも最年少でのS級冒険者だと知れ渡った。
容姿も所作も群を抜いている。
太刀打ち出来る令嬢はいないだろう。
もう直ぐ学園が始まる。
今年の学園は荒れるだろう⋯⋯。
そう心配する大人達と、楽しみにする大人達と様々だった。
王太子殿下と側近は連れて行かれ、エリアナに攻撃されたエイミーは逃げ帰り⋯⋯。
会場に一人残されたのは、イザベルだけだった。
エリアナをセドリックには相応しくない。そう言って貶めた時は、令嬢達がイザベルの味方をしてくれた。
なのに、結果は夜会での一人ぼっちだ⋯⋯。
イザベルは呆然としながら、エリアナを眺めた。
エリアナは公爵夫人を筆頭に、高位貴族の夫人に囲まれ談笑している。
社交界で圧倒的な権力を持つ夫人達に気にいられたとなれば、エリアナの立場は社交界ではイザベルよりも上になる。
爵位も重要ではあるが、若い女性の社交は身分よりも権力者にどれだけ気に入られるかも重要なのだ。
(社交界の立場はどうでも良い。
でも彼女が婚約者のままでは、恋ダンが何時まで経っても始まらないじゃない!)
イザベルは自身の目で本物の乙女ゲームを観たいだけだった。
転生した意味を見出したのは、本物の物語を見れる!
ただそれだけを楽しみにして生きてきたのだ。
エイミーは嫌いだが、ヒロインとしての役割を全うしてもらわなければ物語を堪能出来ない⋯⋯。
(社交界での立場は上になろうと、学園での立場はまた別物。物語を堪能する為にも、彼女には早々に退場してもらうわ。)
エリアナを眺めながら、イザベルは学園での過ごし方を考え始めた。
夜会から行く日かが経つ頃。
今年の社交も終わり、各家の者は自身の領地へと帰る。
王都はこの時期は貴族が少なくなる為、少しだけ静かになる。
エリアナとセドリックは静かな王都を堪能していた。
普段街を出歩かない二人だが、殆どの貴族は領地に帰っている為二人の時間を堪能していた。
今日はエリアナが手掛けた喫茶店に初めてお客として訪れる。
普段は貴族も多く来るので、中々足を運べなかったのだ。
街を散策しながら歩き喫茶店へと向かう。
エリアナはワクワクしながら、もう直ぐ見えて来る喫茶店に視線を向けた。
お店の前には二人の少女がずっと立ったままでいる。店内に入る様子を見せない。
エリアナは首を傾げ、セドリックを見上げた。
「お店に入る様子がないけど、何かあったのかしら?」
セドリックは少女達を観察するが理由が解らなかった。
「聞いてみましょう。」
セドリックの言葉に頷き、エリアナは少女達に近付いた。
「こんにちわ。何かあったのかしら?お店に入らないの?」
いきなり声をかけられた少女達は、ビクッと肩をあげ一歩後退してしまった。
「驚かせてごめんなさい!ずっと立ったままだから、気になったの。」
エリアナは眉を下げ困った顔になる。
困った顔になろうと、可愛い顔に変わりはなかった。
少女達はエリアナを見て、キャッキャッと賑やかになった。
エリアナとセドリックは意味不明な為、暫し待った。
少女達はエリアナとセドリックが見ている事に気が付いて姿勢を正した。
「申し訳ありません。つい、噂のお二人に会えた事に興奮してしまいました⋯⋯。」
少女達は、しょんぼりとなりエリアナ達に謝罪した。
「気にしないで!いきなり声をかけて驚かせた私が悪いのだから。」
エリアナがニッコリ微笑むと、少女達は頰を赤らめ俯いてしまった。
その様子を見ていたセドリックが声をかけた。
「お店の前で騒いでは邪魔になります。中に入りましょう。」
そう言ってお店の扉を開けた。
少女達は手を振り、
「私達は入れないのです。」
そう言って少し悲しそうな表情になっている。
「なぜ入れないの?誰かに言われているの?」
エリアナは誰かに何かされているのでは?と心配になった。
「違うのです。その⋯⋯。お金が⋯。」
小さな声で理由を伝えた。
「それなら大丈夫だわ!せっかくだもの。驚かせたお詫びとしてセドリックが奢ってくれるわよ!」
ねっ!!
と、エリアナがセドリックに伝えた。
「勿論です。早く入って下さい。」
エリアナは少女達を引き摺るように、店内に入って行った。
喫茶店の奥の個室に案内し、四人は席に着いた。
「改めて。私はエリアナ・カーマイン。子爵家の次女よ。」
エリアナは名前を名乗ると、ペコリとお辞儀をした。
「セドリック・ハーマンだ。」
セドリックは短く答えた。
少女達の名前を教えて貰う。
「私はアーネット・コートです。伯爵家の長女です。」
「私はケイシー・コートです。次女になります。」
二人は名前を名乗ると、頭を下げた。
「コート伯爵家のご令嬢でしたか⋯⋯。」
セドリックはコート伯爵家を知っているようだ。
アーネット達もセドリックが家について知っていると気が付き黙ってしまう。
⋯⋯。
「話しは後にして、何か頼みましょう!」
本来の目的である、喫茶店を漫喫することにした。
アーネットとケイシーは遠慮するので、エリアナが勝手に沢山注文をする。
花茶を淹れて貰い、カップの中で花開く様に女性三人は感動して息を漏らした。
クッキーやケーキが並ぶと、アーネットとケイシーは嬉しそうに眺めた。
遠慮しながらも、ケーキを一口食べると二人はフニャリと笑う。
初めて食べるケーキとクッキー。それに美しい花茶。
楽しくそうにしていたケイシーだが、一粒の涙を落とした。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててて涙を拭うが、自身が泣いた事を自覚した為か涙が止まらないようだった。
「気持ちが落ち着くまで待つから大丈夫よ?無理に泣きやまず、しっかり泣く方が良いわ。」
エリアナの気遣いに、ケイシーは声を殺して泣いた。
暫くすると落ち着いたのか、ケイシーが顔をあげた。
「ハーマン子息様。エリアナ様。無作法をお許しください。」
ケイシーが泣き腫らした目を向け謝罪をする。
「許します。」高位貴族であるセドリックの許しを得た。
「何かあったか教えて貰える?無理には聞かないけど、他人に話すと楽になる時もあるから。」
エリアナの言葉に二人は顔を合わせるが、言い淀んでいる。
「伯爵家のご当主の事ですか?」
セドリックが直球な質問をする。
アーネットは頷いた。
「父は10年程前から病に伏せています。治療の甲斐は余りない状態です。
母は家を守る為にずっと領地で必死に領地経営をしていますが⋯⋯。」
妻が当主の代わりに執務をする事は良くある話だ。だが、相手が伯爵家であろうと女性相手だと商談は上手くいかない。
その状態が長く続けば、家が落ちぶれて行ってしまうのだ。
「私達は母の生家の侯爵家に預けられていますが⋯⋯。」
アーネットが渋い顔をする。
「侯爵家の対応が悪いの?」
アーネットが首を振る。
「母の兄である侯爵様は良くして下さいます。伯爵家の立て直しにも力を貸して下さいます。」
ですが⋯⋯。
「夫人ですか?」
またもセドリックの直球が放たれた。
アーネットは口にはしないが、小さく頷いた。
「お世話になっている家は、トリス侯爵家ですね⋯⋯。」
アーネットは頷いた。
「セドは凄いわね。直ぐに繋がりが解るなんて!」
エリアナは尊敬の眼差しでセドリックを見る。
「リアが社交界に出た時の為に、主要な貴族の夫人や令嬢は念入りに調べ上げてますから。」
サラッと口にしながら、セドリックはエリアナに微笑む。
セドリックがアーネット達に視線をやる。
「トリス侯爵夫人は、社交界でも良い話は聞きません。特に下位貴族に対する仕打ちは目に余ります。」
セドリックは夫人についてを話す。
「性格が悪いのね⋯⋯。」
ポロっとエリアナが呟いた。
その言葉を拾ったアーネットとケイシーが笑い始めた。
「そうよね。あの人は性格が悪いのよ!」
二人はウンウン頷いている。
話題を変え、学園の話になった。
「ハーマン子息様とは同じ学年ですが、学園には来られていないので心配していました。誰も理由を知らないみたいですし⋯⋯。」
アーネットの問いかけに、
「リアは一つ下の学年になります。一年も離れ別々に過ごす意味が解りませんし、進級試験は入学と同時に受けています。
学園に通うのは、リアと一緒になります。」
セドリックが学園に行かない理由を伝えた。
卒業資格まで持つ事は誰にも伝えない。例の一行に万が一でも耳に入れば厄介だからだ。
「仲睦まじいのですね。羨ましいです。」
アーネットとケイシーはまたキャッキャッとはしゃぎ始めた。
ケイシーが、
「エリアナ様とは同学年となります!仲良くして頂けますか?」
と、お願いをされた。
「勿論です!でも、私は子爵家ですが宜しいのですか?侯爵夫人から何か言われないかと心配になります。」
エリアナはケイシーと仲良くしたいが、それを耳にした侯爵夫人がケイシー達に何か仕出かさないかを心配する。
「大丈夫です。何を言われても平気です!そんな事よりエリアナ様とお友達になる方が大事ですもの。」
エリアナはその言葉にパァーと満面の笑みを見せた。
ケイシーの手を握りしめ、
「ケイシー様。仲良くして下さいね!」
そう伝えると、ケイシーは真っ赤になり固まりながらも必死にコクコクと頷いた。
(セドが口を挟まないのは大丈夫だからよね!)
セドリックはこの二人は害が全くないと判断している。
エリアナの可愛らしい仕草に真っ赤になる様を見て、エリアナの味方になると確信している。
エリアナに好意がある者には手は出さないのだ。
セドリックはケイシーとエリアナの様子をチラリと確認する。
大丈夫そうだと紅茶を口にすると、アーネットがセドリックを見ていた。
アーネットの視線は直ぐに外されたが、視線の意味は秋波ではない。
セドリックの本性を見抜き、気不味い視線だったのだ。
セドリックがアーネットをじっと見ると、視線があった。
普通の令嬢達ならセドリックと視線が合えば、頰を染め上げる。
だがアーネットは頰を引き攣らせている。
セドリックがニッコリ微笑むと、赤らめるどころか青褪めさせた。
セドリックは口端を上げ、アーネットを見る。
腹黒セドリックに捕まるのは確定であった。
(呑気にはしゃぐ妹が羨ましい⋯⋯。)
アーネットの心の愚痴であった⋯⋯。




