26話 夜会で一悶着だがセリーヌ夫人は大喜び
エリアナのドレス姿をセドリックは黙って眺め続けた。
向かい合い正面から眺めるエリアナはまさしく【妖精姫】との呼び名に相応しい美しさであった。
白銀の髪は緩くハーフアップされ、髪飾りにはセドリックの瞳の色であるブルートパーズの宝石が散りばめられている。
ドレスは少し濃いめのブルーの色を使い、スレンダーラインのドレスを作り上げた。
エリアナは全身にセドリックの色を纏っていた。
エリアナは冒険者をしているせいか、スタイルが抜群に良い。
筋肉を程よくつけ、背筋を伸ばし立つ姿は妖艶さもあり魅入られてしまう⋯⋯。
セドリックもエリアナの髪色の白銀の衣装に、耳にはピンクサファイアの小さなピアスをつけている。
お互いの色を纏った二人は、とても美しい。
二人はお互いを褒め合い、公爵家の玄関ホールへと向かう。
そこには公爵夫妻と子爵夫妻が待っていた。
セリーヌ夫人とエリザの衣装を手掛けたのはエリアナだった。
エリアナは二人の衣装をAラインのドレスで作り上げたが、総レース仕上げである。
転生者であるイザベルもエミルも、お姫様の様なドレスを作り上げてはいたが成人を越えた令嬢や夫人からは人気はなかった。
エリアナは大人の魅力満載のドレスを作り、マリーさんの協力のもと今日の夜会でのお披露目となるのだ。
各々馬車に乗り込み、王宮の夜会へと向かう。
馬車の中でエリアナは落ち着かず、そわそわしている。
「緊張していますか?大丈夫です。私が側にいますから。」
エリアナの手を優しく握りしめ、セドリックがエリアナを気遣う。
「緊張は少ししているわ。緊張よりも、自分で作ったドレスだけど本当に似合っているのか心配なの⋯⋯。変じゃない?大丈夫かな?」
初めて夜会に出るエリアナは、豪華なドレスも宝石も初めてなのだ。
不安で不安で仕方なかった。
そわそわした理由がそれだと知り、セドリックがクスリと笑う。
「今日のリアは正しく【妖精姫】ですよ。美し過ぎて、私は自慢でもありますが心配になります。」
セドリックはエリアナの手を口元に持って行き、指先にキスをする。
「美しい私の妖精姫。私の側にいて下さいね。」
甘く優しい笑顔でセドリックがエリアナに告げる。
「初めての夜会だもの。緊張はあるけれどセドがいるから心配はしていないわ。
でも、不安だからずっと側にいてね。絶対に一緒にいてね?」
可愛い事を言うエリアナを、わしゃわしゃしたいが我慢するしかないセドリック。
「夜会が終わったら、覚悟して下さいね。煽ったリアが悪いのですからね。」
セドリックの瞳に小さく燃えるなにかを見つけたが、自分の何がセドリックに火をつけたか解らないエリアナだった。
甘い時間を過ごしながら馬車は王宮へと向かう。
次第にゆっくりとなり馬車が止まった。
扉が開くと、セドリックが先に降りた。
セドリックの登場に周りにいた令嬢たちから黄色い声があがる。
だが、セドリックは一切を無視しエリアナに手を差し出す。
エリアナの手を優しく握り、馬車から宝物を扱うように大切に降ろす。
甘やかな笑みでエリアナを見つめるセドリックは、誰から見ても惚れ込んでいるのが解る。
問題はその相手である。
セドリックがエスコートをしていると言う事は、例の婚約者である。
お相手が妖精姫と呼ばれているのは、貴族の間では有名な話であった。
だが、社交界に顔を出す事ない婚約者。
実際は逆で冒険者と聞いていたのもあり、醜く人前に出せない容姿⋯⋯。と、一部で噂が流れていた。
噂を流したのは、イザベルとエイミーだった。
しかも母親がミリー元侯爵令嬢の妹なのだ。社交界では面白可笑しく噂されていた。
だが、今日のエリアナの姿を見た者は、自身の勘違いを改める事となった。
セドリックがエリアナをエスコートし、会場に進んで行く。
公爵家は夜会への会場入りは遅くに入る。
一旦用意された部屋にて待つのだ。
セドリック達がソファーで寛いでいると、
公爵夫妻と子爵夫妻が入って来た。
扉を閉められるまで、貴族然りとした姿でソファーまでやって来た。
が、扉が閉まり外に人の気配がなくなった瞬間、
「エリアナちゃん!凄いわよ!」
セリーヌ夫人が興奮状態で騒ぎ始めた。
「エリアナちゃんを見た貴族達の間の抜けた顔ったら⋯⋯。」
セリーヌ夫人は扇子で顔を隠し、肩を震わせる。
「母上が私達を先に行かせたのは、その間の抜けた顔を見たかったからではないですよね?」
セドリックが呆れた声でセリーヌ夫人に問いかけた。
「その為以外にないじゃないっ!」
セリーヌ夫人がバっと扇子から顔を出し、勢い良く答える。
「今迄エリアナちゃんの悪い噂で華を咲かせていたのよ!そんな馬鹿な噂に惑わされて私達を敵に回したわ。そんな人の間抜け顔を見て楽しんで何が悪いのよ!」
セリーヌ夫人は悪びれる事なく話ている。
エリザはそんな奔放なセリーヌ夫人が好きなのだ。
エリザはクスクス笑い、子爵家や娘を守って下さるセリーヌ夫人に感謝する。
「それにね。この総レース仕上げのドレスが好評なのよ!遅れてしまったのは、夫人達に捕まっていたからなの。
これでまたエリアナちゃんの価値がこっそり上がったわね!」
お茶目な夫人に、エリアナは笑顔になるが、扉がノックされ夜会入りの時間となった。
公爵夫妻、子爵夫妻、セドリックとエリアナの順で会場に入る。
家名が会場中に告げられると、貴族達が一斉にこちらに視線を向けた。
エリアナ達は両親達と別れて、端に寄った。
家名を呼ばれたならば、それを知り例の一行がやって来ると考えたのだ。
セドリックはなるべくエリアナを隠し、飲み物を渡して二人でこっそり会場を伺う。
周りの貴族達は声をかけたいが、二人のあまりの美しさに見惚れるだけで声をかける事が出来ないでいる。
そんな中、やはり来た!
「セドリック!ようやく来たのか!」
騎士団長子息のパトリックが声をかけてきた。
エリアナはセドリックの背中に隠れ、暫し様子を見る。
パトリックの後ろからは、王太子殿下のアーノルドに魔術師子息のエアハルト。
神官長子息のカールまでも近付いて来た。
「セドリック。久し振りだね。いい加減に側近に戻って来ないかい?学園すら来ないでセドリックの将来が困る事になるぞ。
私が陛下達に話をつけるから戻って来ても大丈夫だ。」
アーノルド殿下が何やら意味不明なことを話す。
「お久しぶりです。殿下。」
セドリックが一礼した。
「将来困るとは、どういう事でしょうか?私の将来は何も困りませんし、側近の辞退は私の意思で辞退したのです。未練も後悔もないのですが?」
セドリックが困った顔で答えた。
「セドリック様は婚約者に誑かされているのですわ〜!たかが子爵家の娘が、セドリック様と婚約なんて可笑しいもの〜。」
アーノルド殿下の背後から、大声で現れたのはエミル嬢だった。
「そうだな。子爵家と公爵家の婚約は身分差があり貴族のバランスが崩れる。公爵家に下位貴族の血を入れるとは、あまり良しとはならないしな。」
アーノルド殿下の言葉に、周りの貴族の一部がヒソヒソと話し出す。
下位貴族を馬鹿にした発言だったからだ。
高位貴族でも、下位貴族の優秀さを知る者もいる。
無闇矢鱈に権利を振りかざす高位貴族よりも、余程国の為になるのだ。
ヒソヒソ話す貴族を、アーノルド殿下は自身に賛同してくれていると勘違いをしてしまう。
「社交界にも顔を出せない程の容姿と聞いている。そんな令嬢より、エミル嬢の方が余程セドリックに似合っているのではないか?」
周りの野次馬がざわめいた。
エリアナを一目見た者は、殿下の言葉に唖然としている。
「そんな〜。でも、セドリック様がお相手ならば、エミルは嬉しいです!」
くねくねしながら、エミルがセドリックを見つめる。
令嬢としてあり得ない会話や仕草⋯⋯。
野次馬はエミルに対してドン引きしている。
(プッチン⋯⋯。)
エリアナの魔力が一瞬だけ跳ねた。
セドリックの背後から、エリアナはゆっくりと姿を現した。
白銀の髪に薄桃色の瞳。美しく、妖艶な姿の女性にアーノルド殿下や側近達が口を開き呆けたままの顔で見惚れていた。
「セドリック・ハーマン公爵子息の婚約者のエリアナ・カーマインです。もう直ぐで学園に入学となり王太子殿下の後輩となります。お見知りおき下さいませ。」
見事なカーテシーを披露し、ふわりと微笑むと凛とした眼差しで殿下や側近達を見つめた。
身動ぎ一つしない殿下達に、エリアナはコテンと首を傾げた。
その姿はまた愛らしく、殿下達の頬を染めさせた。
エリアナの纏うドレスや宝飾品は全てがセドリックを思わせる。
男性達は、セドリックの深い愛情と執着を知る。
セドリックはエリアナの腰に手を回し、グッと自身に引き寄せた。
自分のものだと主張するかのように⋯⋯。
二人が寄り添えば、美男美女で文句の付けようがないのだが⋯⋯。
「あんた!ただのモブのくせに、何でセドリック様の婚約者なのよ!あんたは邪魔なのよ!さっさと退きなさいよ!」
金切り声で叫ぶのは、勿論エミルだった。
セドリックに寄り添うエリアナに嫉妬して、本性が出てしまった。
エリアナは、ビクッと肩を跳ねさせ怯えて見せた。
セドリックが腰と背中に手を回し、エリアナを守る様に抱き込む。
「リアは私が恋焦がれ、ようやく婚約者になってくれたのです。それを陛下に異議申し立てしたり、リアを散々侮辱したり。
イザベル嬢やエミル嬢がリアの悪評を流しているのも知っていますよ?
貴方がたは何度私達の邪魔すれば気が済むのですか?
私に冒険者ランク上げを手伝わせようとしたり。私は側近ではありません。
自分の事は自分でなさって下さい。」
野次馬の前で、殿下達の愚行をばらす。
野次馬達からは、あからさまに殿下達を嘲笑う声が聞こえる。
「セドリック様。貴方は高位貴族です。下位貴族と縁を結ぶ事はあまり宜しくありませんわよ?血筋には、同じ高位貴族の者を入れませんと。」
イザベル嬢が最もな言葉を発する。
それを聞き、令嬢達がイザベル嬢の味方に回ったのだ。
野次馬達の中からも、同様の声があがる。
エミルはニヤリと笑い、エリアナを嘲笑った。
(プッチン⋯⋯。)
エリアナから魔力が漏れ始めた。
セドリックがエリアナを止めようとしたが、エリアナ自身に手で制された。
「エミル様。貴女は私を下位貴族と馬鹿にしますが、貴女は私より下の男爵家でしてよ?私より下の貴女が、私を侮辱する事は可笑しくありません?
王太子殿下と親密な関係だろうと、特別な間柄であろうとも⋯⋯。貴女の身分が上がる訳では無くてよ?」
氷の魔力を纏ったエリアナは、キラキラと輝きながらエミルに問いかけた。
エリアナの会話から、王太子殿下の不貞を匂わせる発言に野次馬達のヒソヒソ話が盛り上がってしまう。
「私達はそんな間柄ではない!」
殿下が強く抗議するも、逆効果だ。
「婚約者でもないのに、腕に絡みつきエミル様の我が儘を聞いていて違うと?
婚約者のイザベル様がいつもいらっしゃいますが、てっきり公認の仲だと思っておりましたが⋯⋯。違うと?ではイザベル様は高位貴族でありながら、そんな行動を容認し窘めなかったと⋯⋯。」
エリアナの話は貴族間では噂されていた話だ。ただ、相手が王族であった為に公には話しを出さなかっただけである。
殿下は初めて自身が不貞を働いている行動をしていたのだと気が付いた。
側近達もエミルを可愛がっていた為に、殿下への注意を怠ったのだ⋯⋯。
イザベルは高位貴族を鼻にかけてエリアナを先程貶めた。だが、高位貴族として成っていないと逆に窘められたのだ。
殿下や側近達は、自分達がやらかしたのだと気が付いた。
だが、少しだけ遅かった⋯⋯。
「何を騒いでいるのだ!」
現れたのは、陛下だった。
対峙する私達と、殿下達。
両方に視線をやると、ため息を吐いた。
「アーノルド。私はセドリック殿とエリアナ嬢には関わるなと何度も申したな。
何故従わない?お前は国を潰すつもりか?」
陛下の発言に、会場中がざわめいた。
陛下の言葉を正しく受け止めるならば、セドリックとエリアナは国にとって重要人物となるのだ。
陛下は発言の理由は話さないが、周りから囁かれる言葉に否定もしない。
「アーノルド。お前は暫く謹慎とする。側近達も同様にだ!!」
陛下は近衛を呼び、殿下達を連れ出させた。
「エリアナ嬢。会うのは初めてだが、話を何度も聞いておるので初めてのような気がしないな。」
陛下が優しくエリアナに声をかけた。
エリアナとセドリックは膝を突き、最上級の礼をとった。
エリアナのその姿は、イザベル嬢やエミル嬢には無い高潔さをだしていた。
「良い。楽にしてくれ。」
陛下の言葉に、二人は立ち上がった。
「王妃がエリアナ嬢に会いたがっていたよ。お茶会に招待したいそうだ。受けてくれるか?」
陛下からの言葉に、
「畏まりました。」
頭を下げ、了承した。
陛下は満足気に頷き、「良い夜会を。」
と、側近達を連れ離れて行った。
周囲の貴族は、エリアナの立ち位置が把握出来ずにいる。
陛下とは初対面だが、王妃様が会いたがっている。王家が構う令嬢⋯⋯。
だが、相手は子爵家⋯⋯。
思考が纏まらないのだ。
「何よ!やらかし女の娘のクセに!」
セドリックが、ヤバい!
そう思ったが、遅かった⋯⋯。
ドンドンドンッ⋯⋯。
氷の矢が上からエミルに向かい落ちてきたのだ。
落ちた矢は、エミルの周囲を囲む様に刺さっている!!
エミルは理由が解らずに、ガタガタ震えている。
エリアナはゆっくりとエミルに近付いた。
「母を侮辱する事は許さない!私とやり合う覚悟があるのならば、やれば良い!」
美女の怒る顔は恐ろしいのだ。
エミルは反論しようとするが、エリアナの圧の前で言葉を発せない。
「止めといた方が良いよ。命が要らないのであれば好きにすれば良いけど、Sランクに喧嘩を売るのはお薦めしないよ。」
セドリックの言葉に、またもや野次馬が騒ぎ出した。
最年少でSランクになった者がいたと⋯⋯。
止まらない野次馬を放置し、エリアナとセドリックはホールへと向かう。
公爵夫妻と子爵夫妻に囲まれ、楽しそうに談笑する妖精姫。
セリーヌ夫人が、
「私の娘は最高よ!」
と、抱きしめ喜んでいる。
殿下達を嫌悪していた高位貴族も混ざり、エリアナを褒めている⋯⋯。
下位貴族ながら高位貴族に好かれる令嬢。
自身の子供達との付き合わせ方を考えなければならない。
周りの貴族達は、これからの対応を考えている。
大勢の前で侮辱されたエミルは、エリアナを排除する決意をする。
(ただのモブのくせに、ヒロインである私を侮辱するからよ!絶対に、絶対に許さないから⋯⋯。)
エミルは会場から逃げ帰るが、学園が始まるまで邸に籠りエリアナを貶める策を練っていた。
怒るエリアナも綺麗だな⋯⋯。
満足したのはセリーヌ夫人だけではなく、神様もであった。




