25話 学園入学までは自由時間
神様が帰って暫くしても、全員が呆けたままで身動ぎ一つしない⋯⋯。
エリアナはとりあえず、
「皆さん、席に座りましょうか?」
そう声をかけた⋯⋯。
全員がハッとした後、直ぐ様席に着いた。
エルランドが席に着くなり発言する。
「エリアナのギフトが加護よりも格上となるならば、セドリック殿のギフトが神殿に知られても婚約を白紙には出来なくなるぞ!良かったな。エリアナ。」
エルランドさんが伝えてくれた言葉は、エリアナにとってとても安堵する内容だった。
「ですが、エリアナのギフトを周知させる訳にはいかん。[お気に入り]と言うギフトは聞いた事がない。神様から授かったギフトを手に入れたい神殿が、何をしてくるか解らないからな。」
エルランドの言う事は理解出来るが、それならば何も変わらないのでは⋯⋯。
「エルランドさん。私のギフトが大変な物なのは理解しました。でもセドのギフトが知られたら結局は同じ事ではないのですか?」
エリアナは疑問に思い聞いてみる。
「何も変わらないかもしれないな。
だが、神様は何と言っていた?
聖女を現すと言われた。神様の許可もいるが、神殿には来年以降に聖女が現れると伝えるんだ。まぁその方法を考えるが、神殿には聖女に意識を向けて貰う。」
エルランドの案に全員が頷こうとした⋯⋯。
『伝える役は僕がやるよ!神殿に神託を降ろそう。』
神様の声が部屋に響いた。
「リアが心配で覗いていたんだろうな。」
セドリックの言葉に全員が心の中で同意した。
「神殿は神様が何とかしてくれそうだな。
後は⋯⋯。公爵と子爵には別にお願いがあります。」
エルランドが公爵と子爵に視線を向ける。
「エリアナのギフトは暫くは秘密に出来ます。ですが、学園に入学の際の鑑定で知られてしまう。属性を複数持つ者は得意とする属性で鑑定を欺く事も出来る。
だが、ギフトやスキルは違う。
学園から外部には漏れないようにはなっているが⋯⋯。この二人のスキルは厄介だ。」
エルランドはエリアナとセドリックをチラリと見る。
「二人を守る為に、陛下と学園長には先にスキルの説明をして頂きたい。私が行くのが早いが神殿が後からギルドにいちゃもんを付ける可能性がある。
そうなると、かなり厄介になる。
両親である公爵と子爵のみで説明されるのが後々の為にも良いかと。」
「そうだな⋯⋯。今日我が家で食事をする事にし、その時に神様からの神託を賜った事にしよう。明日、私と子爵で急ぎ陛下と学園長に会い説明をしよう。」
公爵の案に、父も了承した。
「学園に入るまでは自由だ。エリアナ。やりたい事があるならば、今のうちにやっておけ!学園に入ったら忙しくなるからな。」
エルランドはエリアナの頭を優しく撫でながら、そう伝えた。
「そうですね⋯⋯。物語も始まりますし、マリーさんとの約束もあります。商会も立ち上げなければならないし⋯⋯。
やる事があり過ぎるわ!!」
エリアナは自分で話ながら驚いている。
「やりたい事を叶えて行きましょう。
皆で一緒にです。」
セドリックの言葉にエリアナは頷いた。
「ところで、エルランドさん。ダンジョンに潜る前に例の一行を連れて行かれたでしょう?ランク上げは結局出来たのですか?」
セドリックは少し気になっていた。
ランク上げには本来自分が関わるらしいのだから。
ランクが上がらなければ、また物語と同じになってしまうのだ。
「一行は逃げたよ。」
苦笑いでエルランドさんが答えた。
「ランクは下位のままだ。」
セドリックがエリアナの様子を伺うが、エリアナの様子は変わらない。
エリアナがセドリックの視線に気が付き、首を傾げた。
「物語ではランク上げに私が本来は関わっています。ランク上げが出来てないならば、また物語を一から始めたと同じですから⋯⋯。」
(セドは心配してくれているの?)
「来年には嫌でも物語が始まるじゃない?今更物語と同じになったとしても、気にしないし気にならない。
だって、私には心強い婚約者や味方が沢山いるもの!神様のギフトもある。
神様も言ってくれたもの。私は私で物語を楽しむの!」
エリアナは神様とのやり取りの中で、色んな思いに踏ん切りをつけたのだ。
物語を気にしないと言いながら、とても気にしていた自分に。
セドリックが誰を選んでも仕方ないと言っていたのは、自分自身に言い聞かせていた事に。
人を頼らなさ過ぎる自分に。
沢山の自分に決着をつけた。
神様の思いによって⋯⋯。
「私は自分がやりたい事をやるの。モブとして物語を眺めながら楽しむようにするわ!」
そんなエリアナは輝いている。
セドリックは堪らず、エリアナを強く抱きしめる。
「一緒に楽しみましょう。沢山、沢山一緒にいて下さいね。」
エリアナは頬を赤らめながら、セドリックに笑顔で了承を伝えた。
大人達は、この二人を守るべく動き回る事になる。
大事なこの二人の幸せの為に、神様から愛される二人の為に。
仲睦まじい二人を眺めながら、大人達は強く決意する。
〜 ❀ 〜
衝撃の神様との対面から月日が経った⋯⋯。
後数カ月でエリアナは学園に入学となる。
今日は社交の終わりを迎える夜会が開催される。
前日から公爵家に泊まり、当日となる今日は朝から慌ただしく夜会の準備を始める。
マリーさんと一緒に作り上げたドレスを纏い、公爵家の侍女達が身形の最終確認をする。
「エリアナお嬢様。身支度整いました。大変お綺麗ですよ。」
侍女頭のサリーが伝える。
周りには若い侍女やメイドが、エリアナの美しさに見惚れている。
「ありがとうサリー。皆も支度を手伝ってくれてありがとう。」
ニッコリ微笑みお礼を伝えるが、エリアナの美しさや妖艶さに数人のメイドが倒れてしまった。
エリアナは驚いて近づくが、サリーにより止められた。
「衣装が崩れてしまいます。大丈夫です。お嬢様の美しさに耐えれなかっただけですので。」
サリーはエリアナの手を取り、ソファーに座らせ紅茶を淹れてくれる。
「セドリック様がお迎えに来られるまで、もう暫くこちらでお待ち下さい。」
サリーが礼をし、侍女やメイドを連れて部屋から退出した。
エリアナはこの数カ月を思い出す。
エリアナはまずセリーヌ夫人に商会を立ち上げる話をした。
夫人が後ろ盾となり資金を出してくる事になり、セドリックに商会を立ち上げて貰った。
商会を立ち上げると、セドリックからある提案をされた。
「まずは、おにぎりを売りませんか?」
エリアナはセドリックが食べたいだけだろうと思ったが、セドリックからの熱心な提案に負け具材を考えたり計画を練っていた。
そんな時に、転生者であるイザベル公爵令嬢が先に、おにぎりを販売したのだ。
こんな偶然はあり得ない⋯⋯。
セドリックが情報を手にしたからなのだが、エリアナは聞かない事にした。
イザベル嬢のおにぎり屋は、新しい物を好む貴族に最初は評判だった。
だが、一度食べたが二度目となる事が少なかった。
イザベル嬢が出したおにぎり屋は、おにぎりを作る型にお米を入れ作るのだ。
ギュッと詰め込む為カチカチのおにぎりが出来上がっていた。
手で握るおにぎりは、人件費がかかる。そこを省き型を使ったのと指導不足で残念なおにぎりが売られる事になった。
エリアナは、またしても不味い物を売るイザベルへの対抗心が燃え上がり、しっかり準備をしておにぎりを作り上げた。
エリアナは試しに、セリーヌ夫人のお茶会に出して貰う。
小さな丸いおにぎりは、巾着おにぎりにし中の具材はどれを取っても違う味にした。
お茶会に参加した夫人達の噂が広がった所で、商会が用意した店舗で販売を始めた。
従業員は貧困に喘ぐ者や孤児院の子供達と、貧しさから脱却できるように考えた。
女性や貴族が好む巾着おにぎりと、男性や平民が好みそうな普通の大きさのおにぎりを売る。
エリアナのおにぎりは人気となった。
それに反し、イザベル嬢のおにぎり屋はお店を閉めることになった。
エリアナはイザベルの不味いおにぎりを、この世界から消し去ったのだ。
エリアナは次に喫茶店も展開した。
飲食店で働いていた前世の経験や、料理をそれなりにしていたエリアナは、ケーキを沢山作り上げ従業員の教育も手掛けた。
花茶の花はセドリックの光魔法で花を包み込みながら、エリアナの風魔法で乾燥させる。摘みたての状態を保った花は前世の花茶よりも綺麗に仕上がった。
花茶もセリーヌ夫人のお茶会で出して貰った。
やはり好評となった。
たった数カ月で、エリアナはイザベルの出した全てのお店を潰した。
エリアナは大変満足だった。
日本を侮辱した物を全てエリアナなにり払拭したのだ。
マリーさんとの衣装や下着の打ち合わせもあり、この数カ月は寝る時間も削り動き回った。
そんなある日、エリアナとセドリックの前に神様がやって来た。
『エリアナずるいよ!いつか呼んでくれると思っていたのに、全然呼んでくれないし!』
プンスカ怒る神様だが、エリアナには理由が見当たらない。
キョトンとするエリアナの腕を掴み、神様がゴネ始めた。
『おにぎりは僕も食べたいって、ダンジョンで言ったよね?また作ってって、お願いもしたよね?なのに、何で僕にくれないの?』
そんな事もあったと、ようやく思い至った。
「神様も食べたかったの?作るのは構わないけど⋯⋯。」
エリアナがセドリックに助けを求めた。
「エリアナは暫くは毎日誰かと会う予定になっています。
夜会が終わるまでは忙しいのです。」
神様は、セドリックの話にも納得してくれない⋯⋯。
「神様も夜会を覗いて下さい。エリアナは美しい装いで参加しますし。何より、今迄よりも面白い事が起きますよ?!きっと。」
セドリックが腹黒い顔でそう神様に囁く。
神様はセドリックの顔を見て、ニヤリと笑った。
(神様って腹黒いのもお好みなのね⋯⋯。)
エリアナはそんな二人を見て、ため息を吐いた。
「夜会が終わったら、ゆっくり出来ます。神様の為にお茶会を開きますので。少しだけ我慢してくれる?」
エリアナがそう提案してみた。
神様はパァーっと明るい笑顔を見せ、
『エリアナ!約束だからね!絶対だからね!』
と、散々念を押してようやく帰ってくれた⋯⋯。
そう。今日はセドリックが神様に伝えた夜会の日⋯⋯。
これからセドリックと初めて社交界に顔を出す。
普段のエリアナを知る者はいるが、物語に出てくる主要人物とは初対面となる。
転生者であるイザベル嬢やエイミー嬢が婚約者でありモブである私に絡んでくるのは確かだろう。
私はモブとして、やられたらやり返す事にしている。
社交界の世界で筆頭であるセリーヌ夫人からは了承を得ている。
「好きにやって良し!ただし、やるならば楽しませてちょうだい。」
その言葉を頂いた。
忙しかった数カ月を振り返っていると、扉がノックされ正装したセドリックが入って来た。
エリアナは大きく深呼吸をし、優しく微笑み手を差し出しセドリックと向かい合う。
これから始まる夜会へのドキドキを隠しながら、エリアナはセドリックに美しい笑みを向けた。




