17話 エリアナの決意とセドリックの嫉妬
エリアナはセドリックと目を合わせ、自身の考えを話す。
「喫茶店に行って来ました。そこで前世で知っている食べ物を頂きましたが、はっきり言って不味かった。」
「私が生きた国の食べ物が、あんなに不味い物だと思われたくない。日本の食は世界に誇れるものなの。料理人の方が努力して世界に誇れる物を作ったから認められたの。同じ国の人間として、私は許せない。」
「お金があるから。転生者だからと日本を蔑み、この国の民を馬鹿にするあの二人を許したくない。
そして、セリーヌ夫人に商会を立ち上げる提案をされたの。
今からセドに伝える事が私の我が儘なのは解っているの。」
エリアナはセドリックとしっかり目を合わせる。
「セドリック様。貴方の名前で商会を立ち上げて欲しい。私はあの二人と同じ場所には立ちたくない。離れた場所であの二人をやり込めたい。」
エリアナは同じ転生者として争いたくないのだ。
物語に引き込まれたくない。流されたくない。
セドリックはエリアナの考えをちゃんと理解している。
「リア。もし私があの女と恋に落ちたら、貴女の物をあの女に渡してしまうかもしれませんよ?」
少しの意地悪をしてみた。
「大丈夫よ。商品を出す事になれば、きちんと誓約書を結びます。利益配分も権利も全て誓約書に記します。」
セドリックは、エリアナの用意周到さに驚いた。
「最悪の事態を考えなければいけないでしょ?もしも⋯⋯を、想定した考えを持たなければ領地も領民も守れないわ。」
セドリックはエリアナを好きになった事を誇りに思う。
美しく儚い容姿。優しく聡い人柄。
エリアナの全てが、セドリックを魅了して行く。
だが、一つだけ気に入らなかった。
「リアは私があの女を選んでも悲しくないみたいですね?」
エリアナの話しの内容は、いつかセドリックが離れて行く事を前提にしている気がしたから。
「あの人を選んで欲しい訳ではないし、セドと離れたい訳ではないわよ。ちゃんとセドが好きだし⋯⋯。」
「でも、セドが選んだなら仕方ないじゃない?もしその後にあの人と別れて私のとこに戻ってきても、きっと上手くいかない。一度離れた心は戻らない。復縁はしたくないから。」
エリアナは前世、復縁で失敗していた。
恋愛に興味はなかったが、恋人がいなかった訳ではない。勉強やアルバイトを優先し、恋人に浮気をされた。
面倒臭くなり別れたが、復縁を迫られ流され受け入れた。
しかし、またも浮気。相手も出てきて修羅場となり、最後は恋人を優先しなかった私が悪者にされて終わったのだ。
「⋯⋯。」(修羅場はご遠慮したいのよね。)
「リア?何を考えているのですか?」
セドリックが強引にエリアナの腰を強く引き、腕の中に閉じ込めた。
左腕で腰をガッチリとホールドされ、右手でエリアナの顎を掬い上げ視線を合わせる。
「⋯⋯。」(言わない方が絶対良い!!)
危険を感じたエリアナは黙りを選んだ。
セドリックは話す気がないエリアナに口付けをする。
優しい口付けではなかった⋯⋯。
息もできず、苦しい⋯⋯。
エリアナはセドリックの胸を叩いて抗議するが、エリアナの腕ごと強く抱き込められ抗議の術を奪われた。
「リア。話さなければ、ずっと口付けをしますよ。誰か来ても止めませんから。」
口付けながら話すセドリック。
エリアナがセドリックの瞳を見ると、少しだけ苛立っているように見えた⋯⋯。
「わっ⋯解った⋯話す⋯。」
やっと唇を離し、エリアナの頰をセドリックが撫でた。
身形を整え、ソファーに座り直す。
「えっと⋯⋯。前世の事を思い出していたの⋯⋯。」
先程の回想をセドリックに話した。
エリアナの前世の話を聞き、セドリックは目をギュッと閉じた。
深くため息を吐くと、ソファーにもたれた。
「そうでしたか⋯⋯。」
セドリックの様子がおかしい。
エリアナはじっとセドリックの様子を見るだけしか出来なかった。
「嫉妬しています。」
エリアナはその言葉に驚いた。
(セドが嫉妬?前世の恋人に?)
「リアは違う人として生きていた。恋人や夫がいてもおかしくないのに⋯⋯。気が付かなかった私の失態です。」
セドリックがもたれた体を起こして、エリアナの腰に手を回す。
「前世と知ってもやはり嫉妬します。リアじゃないのは理解していても、酷く腹立たしい。リアを傷付けた前世の恋人を消してしまいたい程にね。」
セドリックの瞳は揺れていた。嫉妬とエリアナへの独占欲がありありと見える。
エリアナは身震いしてしまった。
「私が怖いですか?でも、リアを離しはしません。何度でも言います。貴女は私のものです。」
セドリックが抱きしめる。痛い程の抱擁⋯⋯。
エリアナの身震いは恐怖ではない。歓喜の震えだった。
セドリックの独占欲を喜びとして受け入れるエリアナ。
「怖くないわよ。嬉しかったの。」
エリアナの言葉を聞き、セドリックが抱きしめる腕を緩めた。
視線が合うと。
「こんなに自分を好きでいてくれて、嬉しいの!ありがとう。セド!」
エリアナからセドリックへ口付けをした。初めてエリアナから口付けをされ、セドリックは硬直している。
「あれ?セド?!」
セドリックの腕をペシペシ叩くと、セドリックがゆっくりとエリアナへ視線を向けた。
(あ!これヤバい!?)
セドリックの瞳に浮かぶ熱を確認したエリアナは、逃げようとした。
が、セドリックに捕まり二度目のぐったりを経験する事になった。
ソファーでぐったりするエリアナを見て、セドリックは大変満足。
エリアナは拗ねて顔を伏せてしまい、ソファーに顔を沈めている。
「リア。物語の話しを少ししても良いでしょうか。」
エリアナは伏せた顔をあげ頷いた。
「エリアナは物語に出て来ないのですよね?」
エリアナはコクリと頷いた。
「以前言っていましたが、キャシー嬢も本来の婚約者と婚約していない。私は殿下の側近も辞めました。あの女に関わっていない⋯⋯。リア達が話す物語とはかなり違う。」
「物語と同じであり、同じではないのでは⋯⋯。と考えています。リアと私は婚約しています。私はリアを手放す気は全くありませんし。何より、あの女は虫唾が走る程に嫌いなのですから。」
「不思議な力が働かない限り、私はリア以外を求める事はないですよ。私の意思が変わるとしたら、その力に操られるから⋯⋯。でしょうか。」
エリアナはセドリックの話を聞き、考える。
前世を全て思い出してから、物語と同じだったのはダンジョンでの出会いだけだ。
後は全て物語のストーリーから外れている。
強制力か⋯⋯。ダンジョンのアイテムが鍵よね。きっと⋯⋯。
「ダンジョンのアイテムが鍵とは?どういう意味です?」
エリアナがハッとなりセドリックを見つめた。
セドリックはクスリと笑い、
「心の声が出てましたよ。」
エリアナの頭を撫でながら教えてくれた。
顔を真っ赤にするエリアナは、やはり可愛くて仕方ない。
「キャシー嬢が言っていた学園用のダンジョン攻略ですか?」
エリアナは頷き、話をする。
「ダンジョンは学園用にシステムを別に用意してある。冒険者は入れないあくまで学生の訓練用のものよね。」
セドリックが「そうですね。」と、答えた。
「物語ではアイテムを全て集めて行き、最終階層で出たアイテムと合わせると願いが叶うのよ。」
セドリックは攻略後の話は知らなかった。
機密な為、高位貴族でもその情報は入らない。
「願いと言っても、小さなものじゃないと叶えて貰えないの。ランクを上げたいって願ってもそれは無理。魔力を増やしたい。だと、少しだけ上がる。その程度かな。」
「ヒロインはね、仲良しのセドリックと結ばれたいって願うの。元々、仲が良かったから願いは簡単に⋯叶った⋯?あれ?」
エリアナは話しながら話の内容が合わない事に気が付いた。
「私はあの女と仲良くありません。その願いは叶いませんよ?でも、不思議な力が働けば解らないのでしょうか。」
結局は、強制力があるのか無いのかになってしまう。
「私の考えですが、リアはあくまでキャシー嬢の裏技?でダンジョンを攻略したくない。自分の力で攻略したいのですよね。」
エリアナは強く頷く。
「学生で無いキャシー嬢が学生用のダンジョン攻略をするとなれば、許可を出すのは誰か。」
セドリックがエリアナに問いかける。
「エルランドさん?!」
エリアナの答えにセドリックが頷いた。
「ダンジョンを管理するのは、冒険者ギルド。全ての許可を出すのはエルランドさん。キャシー嬢は姪です。リリアーヌ様の伝を使い許可を出させる予定だったかと。」
エリアナはセドリックの話を聞き、フムフムと考える。
「エリアナが知る話をエルランドさんに全て伝えて許可をもらい、学生用のダンジョンを攻略する。アイテムを偽物と入れ替えるのです。」
セドリックがエリアナの瞳を覗き込み伝える。
「リア。一緒に学生用のダンジョンを攻略しませんか?」
腹黒悪魔が、甘い誘い文句をエリアナに放った。
ダンジョン攻略⋯⋯。
エリアナはダンジョンに潜れる事に意識が飛び、無意識のうちに頷いていた。
エリアナが頷いた事をセドリックは見逃さない。
「では早速ギルドに行きましょう。」
そう言うと子爵夫妻にギルドへ行く旨を伝え、馬車にエリアナを乗せるとギルドへと向かった。
エリアナが気が付いた時には、目の前にエルランドさんが座り隣には満面の笑みのセドリックがいた。
エリアナが状況を把握するまで、暫し待つことになる。




