15話 転生令嬢は目覚め始める
連れて行かれた娘を心配したエリザだが、衝立の奥から聞こえる声に安堵の息を吐いた。
エリアナを褒める言葉が飛び交っていたからだ。
「申し訳ありません。従業員達も、妖精姫の衣装を作れる事が嬉しくて仕方ないのです。」
マリーさんの話に、母が問いかけた。
「エリアナが妖精姫。そう呼ばれているのですか?」
マリーさんが従業員に指示を出し、紅茶を用意させた。
セリーヌとエリザをソファーへと案内し、三人でお茶をしながらエリアナについて話をする。
「私達服飾を扱う者で、エリアナ様を知らない者はおりませんよ?来年のデビュタントの衣装をどのお店が担当するのか、密かに探り合いをしているくらいですもの。」
エリザはその話を聞き、紅茶を零しそうになった。
エリザはカップをそっと置き、娘についての話を聞く。
「エリアナは社交界にもまだ顔を出していません。お茶会さえ行っていないのですよ?誰かと間違われてるのでは⋯⋯。」
エリザの疑問は当然だった。
顔を知られていないのに、妖精姫とは⋯⋯。
「エリアナちゃんはね。ギルドに頻繁に行くでしょ?これは内緒だけども、ギルドには沢山の貴族の偵察が行くの。腕の立つ冒険者を家に迎えたいから。」
「でもね、腕の立つだけでは貴族の専属とはならない。その者の本質を見なければ家門に傷がつくかもしれないでしょ?」
冒険者は平民か貴族の後継から外れた者が多くいる。
「エリアナちゃんは全てが完璧よ。冒険者ではなく、嫁として欲しがる家は多かったわ。」
嫁に欲しいと思っていたなら、なぜ婚約の釣書が来なかったのか⋯⋯。
エリザは自分の過去のせいかと小さくため息を吐いた。
「エリザ夫人のせいでは無いのよ。本当に。」
セリーヌ夫人の言葉にエリザが視線を向けた。
「どちらかと言えば、セドリックのせいね。あの子が各偵察の者に圧をかけてたのよ?」
エリザは驚いて固まってしまった。
「エリアナちゃんには絶対に内緒にして欲しいの。嫌われたら私の娘になって貰えないでしょ?」
エリザは、コクコクと頷いた。
「エリザ夫人が自分を責めているとは、私達も考えていなかったの。ギルベルト様と仲睦まじく過ごしてらしたから。」
セリーヌ夫人が申し訳ない顔で話す。
「息子のせいでエリアナちゃんへの釣書もなく、不安になるエリザ夫人を私達は気遣っていなかった。」
「婚約を整えた日のエリザ夫人の話を聞いて、息子の我が儘を放置し貴女を傷付けていた事を知ったの。
今日の衣装は、謝罪の気持ちもあるわ。だから、遠慮なく受け取ってね。」
エリザは自身のせいでは無かった事に少しホッとした。
「ありがとうございます。セリーヌ夫人。」
エリザ安堵の笑みを浮かべた。
「エリザ夫人。お互い名前呼びにしません?家族になるのですから。」
セリーヌの言葉に少しだけ驚くが、
「はい。セリーヌ様。」
エリザが微笑みながら答えた。
「「⋯⋯。」」
二人が固まってしまい、エリザはキョトンとしている。
「セリーヌ夫人!エリザ様とエリアナ様を紹介して頂き感謝しますわ!久し振りに腕がなりますわね。」
マリーのエリザを見る目力が凄い!
エリザが若干引いてしまう。
セリーヌはクスリと笑い、紅茶に口をつけた。
すると、衝立の奥からエリアナがぐったりしながら出て来た。
「貴族って大変⋯⋯。」
その言葉に、エリザをはじめセリーヌもマリーも笑い出した。
「でも、せっかくドレスが綺麗なら下着ももっと綺麗にすれば良いのに⋯⋯。」
その呟きに反応したのは、マリーだった。
「エリアナ様は、下着に対して何か案がありますか?良かったら、教えて頂けますか?」
(ヤバい⋯⋯。また口に出してたわ。)
「お恥ずかしい話ですが、こんな素敵な衣装を見たのは初めてです。豪華で素敵なドレスにドキドキしてしまいます!
ですが、下着は普段と変わらない。下着から素敵な物を身につけたら、もっと気分が上がるのになぁーと⋯⋯。」
その言葉に、マリーが思案する。
マリーがエリアナを見て、
「何かデザインが浮かんでいますか?」
そう問いかけた。
(日本での下着に近い物が欲しい。あて布みたいな下着はうんざりだし⋯⋯。)
悩むエリアナを見て、セリーヌもエリザも前世が関係するのだろうと察した。
「マリー。エリアナちゃんは何か案があると思うの。でもね、エリアナちゃんは騒がれるのがとても嫌なのよ。エリアナちゃんの名前を出さないと誓ってくれる?」
「勿論ですわ。良い案ならば尚更手放せませんし。」
マリーさんが、エリアナをロックオンした。
「是非、その案を聞かせて下さいな!」
エリアナはエリザの横に座り、オズオズと口を開いた。
マリーが紙を出し、エリアナに書いて貰う。
(ワイヤーの様な素材はないものね⋯⋯。
自分が生成すれば作れるかもしれない。でも、自分しか作れない物では意味がない⋯⋯。)
紙に書いたデザインは、日本で普通に使っていた上下セットの下着。
ワイヤーのない可愛いデザインにした。
「貴族だけが使うのではなく、平民の方でも購入出来ると思います。」
エリアナがまた何かをデザインする。
描きあげたデザインに、マリーが息を呑んだ。
「貴族用は、レースを主に使って高級感を出す感じにすれば特別感がありますよね?」
貴族用は、ちょっと刺激が強い下着を描いてみた。
マリーは恐る恐るデザインを手にする。
レースはこの国の特産品である。
ドレス以外に使う発想が無かった。
「これは売れますわ!!」
マリーは大興奮だった。
「ドレスに合わせて下着を作って、セットで売るのはどうですか?」
エリアナの提案に、マリーは椅子に倒れ込んだ。
「エリアナ様の案が素晴らし過ぎて、目眩がしますわ⋯⋯。」
マリーがガバっと起きると、エリアナの手を掴んだ。
「セリーヌ夫人とエリザ様。それにエリアナ様のドレスを作る時に、下着も一緒にお作りします。」
「エリアナ様さえ良ければ、三人の衣装と下着を私達と一緒に作りませんか?」
マリーの提案に、エリアナは喜ぶ!
ドレスも作りたいデザインがあったのだ。
「はい!ドレスのデザインも少し考えた物があります。」
マリーとエリアナの作るドレスと下着が、この先流行の最先端を行く事になる。
後日マリーのお店を尋ねる事を約束して、三人はお店を後にした。
「エリアナちゃんは商会の伝を探してるのよね?」
セリーヌ夫人がエリアナに問いかけた。
「はい。私が転生者と知られたくなくて、どの商会を信用して良いかも解らずにいました。」
エリアナが苦笑いで答えた。
「だったら、公爵家の名前でエリアナちゃんが会長として商会を出したら?セドリックの名前を使っても良いわよ?」
セリーヌ夫人の提案に、エリアナとエリザが呆けた。
「資金の心配はしなくて結構よ。可愛い嫁へのプレゼントだからね!」
(プレゼントが商会って。規模がデカすぎます⋯⋯。)
エリアナが困り顔でエリザを見た。
「エリアナ。セリーヌ様の好意をお受けしなさい。貴女ならきっと公爵家に頂いたお気持ち以上の物を返せるわ!」
エリザはエリアナを応援したかったのだ。
「少し考えてみます。」
エリアナは返事を濁した。
「商会をやる決心がついたなら、私に連絡してちょうだい。」
セリーヌ夫人の言葉に頷き、三人は近くの休憩処に入った。
中に入るとセリーヌ夫人を見た店主が黙って奥の半個室の部屋に案内した。
席に座ると、セリーヌ夫人が教えてくれた。
「このお店は、喫茶店と言うらしいわ。」
意味ありげな視線をエリアナに向けた。
エリアナは理解する。転生者が出したお店なのだと⋯⋯。
「このお店は、ある公爵令嬢が主体で出してるお店よ。最初は珍しさから人気がありましたが、最近は人も少ないようね。」
エリアナが喫茶店のメニューに目を通す。
そこには、日本で見たデザートメニューがあった。
メニューを見て固まるエリアナを見て、エリザとセリーヌはエリアナは公爵令嬢と同じ国の転生者であると確信する。
「エリアナちゃん。知ってる物や食べたい物を全て頼んでみて。そして、感想を聞かせて貰いたいのよ。」
セリーヌ夫人の言葉に、エリアナは頷いて色々と注文する。
花茶をイメージした紅茶は、枯れた花が入ってるみたいで見た目が悪い。
チーズケーキは、乳臭くヨーグルトのような酸味も強く食べにくい。
バニラアイスと書いてあったが、バニラの香料も入ってないのでただの乳アイス。
しかも、氷菓子に近く滑らかさもない⋯⋯。
クッキーも、何故こんなに堅いのか意味が解らない。堅パンと間違いそうだった。
食べれば食べる程、日本の良い物をダメにする転生者にエリアナは腹を立てる。
「エリアナちゃんがいた世界と同じ転生者だと思うのよ。エリアナちゃんは、こんなに美味しくない物を食べてたの?」
セリーヌ夫人がエリアナに問いかけた。
「違います!私がいた日本という国は、とても食に拘り世界でも食に関して有名な国でした。
こんか不味い食べ物を売るなんて、あり得ません!」
「日本人はどんな仕事だろうと世界に通用する腕を持っています。こんな程度の低い物にお金をとるなんて。許せない!」
(チェーン店で働いてた時、味は決まりがあり個性は出せなかった。それでも、働いている人達は完璧に仕上げていたわ。)
セリーヌ夫人が会話を続けようとした時に、騒がしい集団が入って来た。
「イザベル様〜。今日もお客さん少ないですね〜。」
甘ったるい声が聞こえた。
「煩いですわ。また新商品を出すので、挽回してみせますわ。お金はありますからご心配なさらず。」
口調の強い声。
令嬢達の名前と声を聞いたエリアナの顔が青褪めて行く。
エリザはエリアナの背を撫で、落ち着かせる。
エリアナは会いたくなかった、ヒロインと悪役令嬢が側に来た事に体に緊張が走る。
セリーヌ夫人はエリアナを心配するも、令嬢達が転生者と言い回る姿を何度も見ていた。
令嬢達の話を聞き、エリアナがどう思うのか様子を見る事にした。




