13話 転生令嬢は秘密を語る
ギルドを後にしたエリアナとセドリックは、ダンジョンの町に来ていた。
セドリックが。
「今は学園に殿下達も行っているのでダンジョンには来ないはずです。
魔道具店と保存食のお店でも覗きに行ってみましょうか?」
エリアナはセドリックの気遣いを有り難く受け入れた。
二人で手を繋ぎ、町を散策しながら保存食を売ってるお店に行く。
小説に良くある、硬い干し肉や硬いパンが売られている。
珍しいのが、ドライフルーツがあるくらいだった。
とりあえず一通り購入して、帰って二人で試食してみよう。
次に向かったお店は、通い慣れた魔道具店。
店主とも顔見知りになり、時々魔法談義をしている。
店内に入ると、店主が慌ててやって来た。
二人を急いで奥の部屋に連れて行く。
「昨日、王太子殿下達が店に来てな、あんた達の事を色々と聞いて来た。買い物には来るが、会話はしないから解らん。そう言っといたが、良かったか?」
エリアナの顔が青褪めて行く。
「店主。ありがとう。それで良いです。私が側近を辞めたので探し回ってるようで迷惑してます。」
事実だが、事実ではない⋯⋯。
(いつまで続くのかな。殿下達と関わりたくないのに⋯⋯。)
セドリックはエリアナの様子がおかしい事に気が付き、店主に断りを入れて早々に馬車に戻った。
(私は物語に登場しないのよ?ただのモブなのに。なぜ放おって置いてくれないのよ。なぜここまで関わってくるのよ⋯⋯。)
エリアナの心の中は、盛大な愚痴大会だ。
エリアナが大きなため息を吐いた。
セドリックがため息にビクッと反応した。
ビクッとしたセドリックに、エリアナもビクッとなる。
お互いの視線が合う⋯⋯。
いつもなら笑い合うのに、笑えない⋯⋯。
「リア⋯⋯。私との婚約を後悔していますか?私がいるから、殿下やあの女が関わって来ます。」
セドリックは真剣な目でエリアナを見つめ、問いかけた。
「後悔してないとは言い切れない。セドと婚約してなければ殿下達と関わる事は無かっただろうし、キャシー様とも会う事は無かった。お母様の過去の傷を晒す事もなかった⋯⋯。」
セドリックは黙ってエリアナの話を聞く。
「私は物語には名前が出て来ないモブなのよ?モブはただの脇役なの。
主人公であるセドやヒロイン達とは関わらなくて済む筈だったの。
私は騒がしいのは好きではない。平穏に、普通に生きたいだけなの。」
エリアナは瞳に薄っすらと涙を浮かべながらも、話しを続ける。
「でも、私はセドに恋をしたわ。婚約を解消したくないくらいには好意があるの。」
だからね⋯⋯。
「私は私なりに生きるだけなのよ。物語や乙女ゲームなんて知った事ではないわよ!
私はセドと一緒にダンジョン踏破して、二人で子爵家を継いでいく。」
「そう決めたわ。」
頬に一粒の涙を零し、ニッコリ微笑む。
セドリックの胸は痛み、苦しんでいた。
自分がエリアナを求めなければ、こんなにエリアナを苦しめる事は無かったのだ。
エリアナを手放せば、彼女は新たな婚約者を見つけ穏やかな結婚が出来るはず⋯⋯。
一人だろうと、きっとダンジョンを踏破するだろう。
セドリックは、ギュッと目を閉じ答えを探す。
探し回ったが、エリアナを手放す答えは出て来ない⋯⋯。
目を開くと、エリアナが答えを待っていた。
「リア。私が貴女を手放せば、普通の穏やかな人生を貴女は過ごすでしょう。」
「ですが。貴女の婚約者は私です。貴女の未来の夫は私なのです。誰にもその場を譲る事はない。貴女は私の、私だけの唯一なのですから。」
そう言うと、エリアナを強く抱きしめた。
エリアナも腕を回し、セドリックを抱きしめる。
自分に執着する愛情に心地良さを感じるエリアナも、セドリックと似た者同士なのだ。
「殿下達やヒロインを、私も放おって置く事にする。二人で好きに生きて行きましょう?」
「両親に、私の全てを話すわ。これから先もきっと殿下達が関わってくる。お母様が気に病む事が一番辛い。全て話して、私とセドとお父様でお母様の心を守ろうと思うの。私達は家族になるのだから。」
お互いの顔を見つめ、小さく頷き合った。
子爵家に戻ると、執事が玄関で私達の帰りを待っていて急ぎ客間に連れて行かれた。
「ただいま戻りました。お父様。」
挨拶をすると、そこには公爵夫妻も待っていた。
両親は居心地悪そうだ。
セドリックが、
「父上が来たと言う事は、陛下の説得は上手くいったのでしょうか?」
公爵が自慢気に、「当たり前だ。」
そう言って胸を張っている。
両親だけが話しの内容について行けなかった。
「リア。子爵夫妻だけでなく、私の両親にも話しをしよう。味方は多い方が良いし、母上は特にリアとエリザ様の味方になってくれる筈だから。」
エリアナは、両親と公爵夫妻を見て考える⋯⋯。
(内緒にするのは簡単だけど、嘘をつき続けるのは難しいものね。)
セドリックの提案に納得し、了承した。
「父上も母上も今日は時間を取れますか?」
セドリックが公爵夫妻に予定を尋ねた。
「今日は何も予定はないな。じっくり話を聞こう。良いかな?ギルベルト殿。」
「は、はい。急いで準備をさせます。時間が遅くなるようなら、我が家に泊まられますか?」
「古い邸ですので、良ければ。ですが⋯。」
話に乗ったのは、セリーヌ夫人だった。
「せっかくですもの。お泊まりしたいわ。そして、エリアナちゃんと過ごしたいから、明日の予定はキャンセルね。」
「エリアナちゃんも、明日の予定は無しね!」
セリーヌ夫人が一番はしゃいでいた。
公爵夫妻に私の両親。そしてセドリック。
私は覚悟して、話しを始めた。
「今から私が隠し続けた秘密を全て話します。」
産まれた時から前世の記憶があった事。
記憶は完全には戻っていなかった事。
それを隠し続けた事。
転生者である事を隠し続けた理由も正直に話した。
公爵が少し苦笑いをし、セドリックに視線をやった。
殿下達とダンジョンで出会い倒れた時に記憶を完全に思い出したこと。
自分が何者だったかも。
「これから話す事が、私が一番気がかりな事なの。お母様。聞きたくなかったら教えて欲しいの。」
エリアナがエリザに確認をした。
「解ったわ。無理そうなら必ず教えるわね。」
エリアナは頷いて、話を続けた。
「この世界は前世の世界のある物語と同じ世界なの。私はその物語が半分好きで半分苦手だったの。」
「好きな部分は、冒険者やダンジョンがあったから、嫌いな部分は恋愛要素が強過ぎて冒険を楽しめなかったから。」
「この世界に転生して、つい最近まで私はこの国の子爵の次女として生きてきた。領地の為に冒険者になったし、私は私らしく生きてきた。それはとても楽しかったわ。」
エリアナは少し俯いてしまう。
「でも、物語の中だと気が付いて絶望したの。私は平穏に暮らしたい。両親みたいな領主になる事を目指していたから。」
「ダンジョンにも行きたかったし。」
ついつい本音がポロリ⋯⋯。
セリーヌ夫人にクスリと笑われた。
コホン!
「で、今日はギルドに行ったでしょ?そこで⋯⋯。」
エリアナは母エリザに視線をやった。
「リリアーヌ辺境伯と、ご息女のキャシー様がいたわ。」
その名前を聞き、エリザが息を呑む⋯⋯。
ギルベルトが肩を強く抱きしめ、エリザの様子を伺う。
「大丈夫。エリアナ、話しを続けてちょうだい。」
エリアナは頷き、話を続けた。
「ご息女のキャシー様も転生者だった。しかも、物語の作者だったわ。
学園のダンジョンの中の話だから、そこは詳しくは話せないの。」
公爵夫妻も両親もダンジョンの事は、機密だと理解している。
「殿下や側近達とも恋愛しながら、協力しあって最後は本命の相手との恋を実らせるお話なの。」
「ヒロインの本命の相手が、セドで実際にヒロインはセドを狙っているわ。」
公爵夫妻も両親も、セドリックが物語の中心的な役だとは予想していなかった。
エリアナと婚約しているし、セドリックのエリアナへの執着はとんでもないのだから。
「エリアナ嬢。一つ聞いても良いだろうか。」
公爵がどうしても気になり、エリアナに問いかけた。
「解る事なら。」
エリアナは頷いた。
「セドリックはエリアナ嬢と婚約しているだろう?両家も陛下も認めているのだ。何か他に心配する事があるのか?!」
エリアナはどう説明すれば良いか悩んだ。
「作者のキャシー様が言うには、物語の強制力やヒロイン補正?とか不思議な力が働くかもしれないと。
それがあったなら、私とあの女が恋に落ちると。そうほざいていました。」
セドリックが代わりに解りやすく説明してくれた。
くれたのだか、少々乱暴な言葉もあった。
「ダンジョンを先に攻略すれば、セドをヒロインに奪われないと。裏技を使い、ダンジョンをさっさと攻略しようと提案されました。でも⋯。」
「でも断ったのだな?」
父が先に答えてくれた。
エリアナは頷いた。
「エリアナの性格からして、ズルをしてまで攻略はしたくはないだろうな。セドリック殿と一緒に自らの腕で攻略をしたかったのだろう?」
エリアナは自分を理解してくれる両親に感謝する。
「エリアナ嬢は真っ当な意見を伝えただけだろう?リリアーヌ様は公平な方だ。エリアナ嬢の意見を無下にはすまい。」
公爵の言葉に、エリアナはススーっと視線を外していく。
見逃さなかったセリーヌ夫人が
「エリアナちゃん。何かしたの?」
首を傾げて聞いてきた。
「⋯⋯を売りま⋯⋯た。」
「聞こえないわ。何があったの?」
セリーヌ夫人の再度の問いかけに、エリアナは皆を見やり。
「リリアーヌ女辺境伯とキャシー様に喧嘩を売りましたー!!」
と、勢い良く頭を下げ大きな声で答えた。
部屋の中は静かになる⋯⋯。
(怒られる?怒られない?どっちよー!)
エリアナは頭を下げたまま、皆の答えを待ったのだった。




