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『オリーブと梟』外伝〔知を以て 臨むローマ史 改変紀〕  作者: 岡田 平真/オカダ ヒラマサ
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閑話『ルキウス・マルスクス その3<学び>』

ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)八月、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 俺がルキウス・マルスクスときちんと会話したのは、この年の夏頃だった。アスクルムの中央市場でソフィアと共に穀物の価格と品質を確認していた際に、彼から声をかけられたのだ。

 


 「君がティトゥス・クリスプスか」

 

 パン屋の店主と他愛もない話をしているところに挨拶もなく、いきなりすっと近づき声をかけられたので、うわっと驚いて声を出してしまった。恥ずかしい。

 ソフィアは気づいていたみたいだけど、言ってよね、本当に。

 

 「そういう君は、ルキウス・マルスクスだね。以前、リクトル殿の屋敷で挨拶させてもらっている。そうだ、俺がティトゥス・アエリウス・クリスプスだ。改めてよろしく」

 

 「そうだったか……? リクトル殿からも君の話を聞いている。『理想論者』だと彼は言っていた」


 「……。それをリクトル殿が言うのか……まぁ、褒め言葉として受け取っておくかな」


 「そうか……皮肉だったのかな。またデモステネス先生の件ではお世話になった」


 俺が思わず本音をこぼすとルキウスも微かに笑みを浮かべた。その笑みからは以前感じた自己主張の強さ、言ってしまえば傲慢さを感じさせる部分が随分と抑えられていた。

 デモステネスが頃合いをみて少し指摘してたと言っていたっけか。面倒を見ていた一ヶ月の間だけでも、ルキウスの態度はずいぶんと変わっていったらしい。デモステネスの言う通りだったな。確かに彼は賢いようだ。


 

 「なぜ君はアスクルムの独立に反対するのだ? 君がローマ市民だからか? アスクルムではなくフィルムム出身と聞いたが、君の考えについて聞かせてほしい」


 

 前言撤回。

 せっかちだなぁ。

 いきなり立ち話で本題に入るのか……ここでは埒が明かないため近くの飯屋に席を探すことにした。

 

 ソフィアは遠慮して外で待つと言っていたが、彼女にも同席を求めた。周囲に目を配っておいてほしいし、あとで第三者の視点からの感想も聞きたいからね。



 △▼△▼△


 

 「単純な話だ」


 

 俺はポスカ(水と酢を混ぜた当時の清涼飲料水)入りのコップを傾けながら答える。

 

 「独立は否定しない。ただ武力一辺倒でそれを実現することには反対だ。アスクルムのような小都市が、ローマに力で対抗するのは難しい」

 

 「では、ローマの不正に黙って従えと?」

 

 「ローマとて完全な存在ではないから、不正が横行しているのは認めるよ。だから今のローマにそのまま盲目的に従えとは言わない」

 

 「ではどうする?」

 

 「例えば交渉。周辺の諸都市と連携して、経済的な利益をチラつかせ、政治的圧力をかけてもいい。ローマだって一人では生きていけないんだから、落とし所を見つけてやれば前に進む」


 「……」


 「ただ護民官ドルーススの法案には再考の余地はあるかな。流石に拙速だね、あれだけ一括してしまうと。細切れにして、合意できる部分から始めるなど、やりようはいくらでもあると思うよ」


 「……甘い。ローマ人は力しか理解しない」


 

 ルキウスは首を僅かに振って下を向き、コップを見つめながら呻くように呟いた。ふて腐れて駄々をこねた、小さな子供のような表情に思わず目を奪われてしまう。こんなに幼かったけか。


 仕方ないなぁ、と軽くぼやきながらひと呼吸を入れ、少し明るめの表情と声で話しかけることにする。


 

 「君はローマ人と直接議論したことがあるのか?」

 

 「いや、ない。だが……」

 

 「では、なぜ『ローマ人は力しか理解しない』と断言できる?」


 「……」


 「周囲の大人が言っていたから? それとも自分の経験や判断から導いた答えか? 『ローマが理解する力』とは、武力のことのみを指すのかい?」


 この問いにルキウスは再度言葉を詰まらせてしまい、また下を向いてしまった。思ったより打たれ弱いのかな。もっと反抗してくると思っていたが、このリアクションは想像していなかった。

 

 思わず肩をすくめてソフィアに目を向けた。彼女は困ったような、でもいつになく柔らかい眼差しでルキウスを見つめていた。


 意識していない方向から議論を投げかけられると固まってしまうのは、誰にでも経験のあることだからな。しばらく待つとするか。


 

 ……しかしポスカはうまいな。

 俺の舌とお腹はだいぶローマ化されてきたらしい。

 


 △▼△▼△▼△▼△


ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)十月、ピケヌム地方アスクルム市内、ティトゥス




 秋、ドルーススが暗殺されたという知らせがアスクルムに届く。彼は自宅前で何者かに襲われたらしい。

 やはり俺の知る史実の通りに事態が進んでしまった。デモステネスに早急に調査するよう指示したが、未だ細かい状況は掴めていない。しかし、これで同盟市戦争が始まることは避けられないだろう。


 アスクルム市内は一時騒然となり、パピリウス派は『これこそローマの本性だ』と気勢を上げている。

 頼むからアスクルムに余計な厄介事を持ち込むなよ……と願うばかりだが、ローマからの調査官の受け入れは避けられないだろう。ひと悶着が起こりそうでため息が出そうになる。

 反ローマ派は皆ここぞとばかりに自らの主張を繰り返す一方、恭順派は押し黙ったままである。


 だが、ルキウス・マルスクスの反応は意外だった。


 

 「これで戦争は避けられなくなった」


 

 朝の剣術訓練の際、ルキウスがふと口にしたこの一言は、彼の立場の微妙な変化を示すものだった。

 ラビエヌスとサビヌスは少し離れたところで撃ち合いを行っており、傍には俺しかいない。誰も聞いていないと思っていたのかな。

 以前であれば『遂に戦いの時が来た』とでも言っていただろうな、きっと。


 

 「君は戦争を望んでいると思っていたが……望まないのかい?」


 

 そう静かに俺が問うと、ルキウスはハッとこちらを一度見やった後、複雑な表情を浮かべ下を向いた。


 「望む、望まないの問題ではない。必要か否かだ」

 

 「それで、ルキウスはどう思う?」

 

 「戦争は……、戦って勝ち取ることは必要だと思う。だが、その方法については考えを改めた部分がある」


 彼はサビヌスやラビエヌスとの稽古で学んだことを話し始めた。

 

 相手を認め、そこから学ぶことの重要性。

 

 一方的に攻撃を行うよりも、相手の出方を見極めた上での行動が、より効果的であること。


 

 「ここでの生活で異なる視点を持つ者から学ぶことの価値を知った。私は自分の目で見て、この身体で感じたことを信じたい。この戦争の意味を自分なりに定義する必要を感じている。」


 「……」


 「ティトゥス? どうした?」


 「い、いや。何でもないんだ、大丈夫」


 「そうか? それで……」


 思わずルキウスの言葉に惹きこまれていた。彼の誠実な態度や表情、そして何よりその声には人を惹き付ける何かがある。

 

 その後も訥々と話し続ける彼の言葉を聞きながら、俺は彼と敵対する未来は避けたいと思う自分自身に驚いていた。



 △▼△▼△▼△▼△


ルキウス・マルキウス・ピリップスとセクストゥス・ユリウス・カエサルが執政官の年(紀元前91年)十月、ピケヌム地方アスクルム市内、リクトル




 ローマから調査官であるセルウィリウスがアスクルムにやって来るのは、来月の初旬と判明した。法務官という高位の役職者の来訪が知れ渡ると、市内は緊張に包まれる。

 

 会合では即座に拘束することを主張した者もいたが、私は市議会での正式な議論を求めることを提案した。十七名家の老人達の出方を見極めなければなるまい。

 実は私も当初、堂々と我々の理想を語るというつもりだったのだ。ドルースス殿の遺志を継ぎ、真のイタリア統合の必要性をローマの法務官に直接説くことに意味があると。

 

 しかし、私はドルースス殿の遺志を継がねばならない。理想を追うことと無謀に突進することは違うのだ。ドルースス殿ならば、必ずより賢明な道を選んだはず。

 またあのティトゥスが裏で動いている。

 今回は彼の提案を受け入れ、アルケウス老が前面に立ち私自身は後方で控えるつもりである。

 

 そのため、この会合では皆にそれを説明し、説得するつもりであったのだ。



 しかしこの時、ルキウス・マルスクスが意外な発言をした。


 「拘束は得策ではない」


 「なぜだい?」


 私は静かにルキウスに問う。

 

 「第一に、法務官の拘束は確実にローマの怒りを買う。第二に、我々に外交的メリットをもたらさない。第三に、アスクルム市民の間に不安を広げるだけだ」

 

 「……では、どうすべきだと?」

 

 「穏便に帰らせる。ただし、我々の意思は明確に伝える」

 

 この提案は実質的に私の方針と同じだった。

 ルキウスの発言により会合の方向性が定まり、後の議論はさほど紛糾せずに終えることができた。私に対して『弱腰』といった発言もなかったので、正直胸を撫で下ろすことができた。



 会合の後、ルキウスは私のもとを訪れてきた。私の本意を探るつもりであったのだろうか。会合では説明しなくて済んだ今後の想定まで話したところで、ようやっとルキウスは納得してくれた。

 彼はこんなにもよく考える少年だったのか、と疑念がもたげてくると同時に、持つ一人の少年の顔が浮かんでくる。

 思わず、ルキウスにこう問いかけてしまった。


 

 「君は変わったね。ティトゥス殿の影響を受けたのかい? 最近はラビエヌスと一緒に剣術訓練をしているのだろう?」


 

 そう言うと、彼は腰に手を当て首を横に振った。苦味を帯びた微笑を浮かべている。いつの間にこんな(かお)もできるようになったのだな。


 

 「影響ではない。学習だ。貴方や皆さんから学んだことを実践しただけだ」

 

 「アンギテイウムの同志たちは、君の変化をどう思うだろうか?」


 「……それは」



 ルキウスは一瞬躊躇したが、しかし私の目を見据えて率直に明言した。

 

 「帰ってから考える。だが、学んだことを捨てるつもりはない」



 本作品は生成AIを活用しつつ、作者自身の執筆にて仕上げた創作小説です。AIとの共創による物語をどうぞご覧ください。

 なお作者は著作権法上の問題はないと判断のうえ、投稿を行っております。安心してお楽しみいただければ幸いです。


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第一部の登場人物一覧はこちら↓

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