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乙女ゲーの世界という事はドジで無能な主人公にイケメン達がチヤホヤするのをただ指を咥えて見て無いといけないって事か!?
異世界転生とはもっと良い物と考えていたが、おそらく私には地獄だな…。
クソが…せっかく生まれ変わったのにこんな仕打ちはあるか!?
まるでテーマパークと聞かされて入った先が知らない中年の講演会だった様な気持ちだ。
「ね、ヤスケそれより聞いた?デーモンに襲撃された根棘村から娘が1人生き延びて里に入ったって」
考え込む私へとハシは情報を共有してきた。
デーモンかそういえばそんな設定だったか…。
だが、そもそも乙女ゲーにデーモン等という脅威は必要有ったのか?
…違うな、今の私に必要なのは目の前に集中する事だ。
ただ、私は今程ハシの口から耳にした娘の正体を既に知っているのだが。
何故ならその娘こそがこの世界の主人公だからだ。
彼女…主人公の名前は『サラ』。
ドジで役立たずの割に何の努力も無くイケメン達からチヤホヤされるチートだ。
ハッキリ言って嫌いだ。
だが、あくまでも主人公…つまりはこの世界の中心だ。
私もこの世界に居る以上、役割を全うしなければならない。
「見に行くか?」
不本意ながらも私は物語を進める為口を開いた。
「余所者だし役には立たないだろーけど、暇つぶしに行ってみようよ!」
ハシは忍びの黒い装束へ袖を通すと軽いノリで返事した。
私の足元の岩の上にも黒い装束が畳まれていた為自身の衣服と認識してそれを着用した。
私が装束に違和感を感じているとハシは駆け出した。
トトトッ…
ハシはさも当たり前の様に流れ落ちる滝の側の崖を垂直に駆け上がった。
崖を駆け上がるとは…忍者には当たり前なのか?
そして、あの崖の向こうが『里』という事か。
「何してんのヤスケ?早く行こ!」
体育が大の苦手だった私にこの崖を駆け上がれと!?
そうだ…今、私の身体のスペックは果たして忍者なのか?
私は目覚めてすぐに耳にしたハシの言葉を思い出した。
『あんま、変な動きしてると擬態した刺客と勘違いされて斬られるよ〜?』
ドクッドクッ…
私の視線は静かにハシの腰に挿された一本の刀に向き、心臓は鼓動を早めた。
「ね?聞いてる?…ヤスケ?」
崖の上からハシが首を傾け怪訝な顔で私を見下ろす。
もし、ここで登れなければハシに疑われる…。
どうする…失敗を見られない為に周り道をするか?
いや…遅かれ早かれ『忍』として生きられなければ斬られる…。