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「じゃ運転手さん宜しくお願いします」

彼は課長をタクシーへと乗せて見送っていた。


どうやら一足遅かった…。


私はその光景に自身の人生自体が無意味に思える程落ちた。


いや、違う、そもそも彼らの恋愛対象はおそらく女性…距離感の近い2人から私が勝手に妄想していただけだ。


絶望だ…私の投資はバブル崩壊をも想わせる速度で朽ち果てた。


私はお通しを口にすると泡が溢れるビールを一気に煽った。


何やってんだろ…私…帰ろ…。


私は会計を済ませて居酒屋を後にした。


あー何と世界はつまらないのだろう…。


私はいつも通りに平然と歩行者へと告げられる音を耳に下を向き交差点を歩いていた。


そう思った私の目に映ったのは初めて見る光景だった。


大きな白塗りの金属、その中にハンドルを握る中年男性の姿。

…走行中のトラックだった。


運転する彼の目は閉じていた。

いや、眠っていた、そして彼の運転する勢いあるトラックは確実に私の逃れられる範囲を超えていた。


まぁ…良いか、どうせ今後も私の望みなど叶わない。


その刹那、後ろから私の視界の中に誰かの手が入った。


手?誰かが私を助けようとしてるのか?


誰か知らんがもう手遅れだ…死ぬのは1人でいい放っておいてくれ…。


ドッ!!!!

私は大きな衝撃に見舞われ宙を舞った。


「誰か救急車を呼んでくれ!」

「被害者は女性と男性の2名だ!」


弾き飛ばされた私はアスファルトに倒れ遠のく意識の中周囲の声を耳にした。


ああ…私の人生はこんな物か…。


せめて…

せめて男子に生まれ変われたなら…。


……………


……


「大丈夫〜?ヤスケ?」


突如頭上から聞こえた声で目が覚めると、私は地面に寝転がり半裸の男に介抱されていた。


「やっ…!」

私は今まで出した事が無かった様な悲鳴を挙げてしまった。


って…生きてる?


続けて私は倒れたまま周りを見渡すと滝から流れ落ちた水で男達が身体を流していた。


「大丈夫そうだね、ハハハッ…で、どうしたの?急に女みたいな反応して」

先程の男が再び私へと親しげに話しかけた。


半裸の男は小柄で逞しい身体に可愛らしい笑顔のイケメンだった。


って、女みたいな?…私が女じゃ無いとでも言いたいのかコイツは?

ましてや初対面の相手に…


え!?

私は男の顔をしっかりと目にして固まった。


…私はこの男の顔をよく知っている。


コイツは私が男同士の触れ合いのシーンを見る為だけに購入した乙女ゲー『イケメン忍者お忍びの恋』、通称『イケオシ』…。


そのゲームに出てくる私のお気に入りキャラクターの1人『ハシ』だ。


信じ難いが、あの状況だトラックは避けられなかった、私は轢かれて死んだのだろう…


で、どうやら、私は乙女ゲーの世界へと、謂わゆる異世界転生をしてしまった様だ。


…ならばイケメン達の『絡み』が生で見られるという事か?


フフ…ハハハハッ!!


我勝利を得たり!


私が独りよがりに浸る中頭に声が響いた。


「新たな術式、『八方眺望の術』を獲得致しました。」


何だ?頭に直接聞こえるぞ?


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