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我ながら的確だ…。
「そんな…それじゃ主任に得がある様に思えないです!」
私の前に立つ仔犬は愛らしく吠えた。
得?ハハハ…バカが、私が目先の損得に影響されると思っているのか?
コレは投資、先行投資だ。
「先を見ろ、会社の意向を汲む者が部下と懇親を得て明日の生産性を上げる…それだけだ、早く行け」
私は目前に立つ迷える仔犬に指示をだした。
くっ…仔犬の様に見つめやがって!
たまらん…
だが違うだろ…その視線を向ける相手を間違ってるだろ!?
「す、すいません!僕早く会社と主任にその恩を返せる様に必死で働きます!!」
バカで可愛い仔犬は間に受けて熱意を語った。
良かった、上手くいった…。
私の投資は成功した。
「お先に…失礼します!」
言葉を吐き捨てた仔犬…いや、果実の片割れは走り出した。
走り出した部下の男は自分で仕事を完遂出来なかった劣等感と共に女に対する尊敬から1人考えていた。
また僕が役立たずなせいで主任に仕事を押し付けてしまった…。
いや、もしかして僕と職場に残るのが嫌だったんじゃ?
せめて、僕が女だったらもっと主任と二人三脚で働けたのに…。
走り離れゆく男を他所に女は妄想を再開していた。
あ、ああ…あの2人、この後どの様に時間を過ごすんだ?
酒を飲んで昂った課長が彼に触れて…それから…それから…。
クッソ!…やはり現場も見たい!
仕方ないブーストモードだ。
女はキーボードを叩く手を更に加速させた。
カタタタタ…カタタタタ!!
正直、私は仕事が出来る…。
自分でいうのも何だが非常に優秀だ。
マネージャーからも毎日の様に昇進を推されている。
だが、ほんの幾らかの報酬とこの蜜月の溜まった池、金塊の山を比べてみろ?
いや、金塊等の定量的な評価で例えるのは些か不充分だ。
コレを見届けるのは一言に神の祝福に等しい。
昇進等足元にも及ばない…。
私は部下の仕事を叩き終えた後、高鳴る鼓動を抑え、荒鳴る鼻息を鎮めて平然とした顔でオフィスを後にした。
そして、神の祝福を抱く街並み…彼等の居る居酒屋へと足を早めた。
…欲を言えば、課長の方では無く突然として、あの仔犬の方が襲い掛かるのが何よりの望みだ…。
ダメだ妄想が止まらない!
私は年甲斐も無く走り出した。
ガラッ…
「ご新規様一名です!あざいまーす!」
……。
私が店へと入ると会計をする男女とガラスの自動ドアの向こうに酔い潰れた課長に肩を貸してタクシーへと乗せる仔犬の姿を目にした。