氷結令嬢の矜持・歌姫の子守り歌
カグヤ(毅然と、王を真正面から見据え)
「──その問いに、答える前に…!」
「僭越ながら、私から申し上げたいことがございます。陛下」
(沈黙。玉座より王の視線がゆっくりとカグヤへと移る)
そんな重い空気の中で、自分の娘が失態を犯し始めており、黙っておれぬ者もいた。
セレスタリア侯爵(非常に焦りつつ)
「ならぬ…!陛下!申し訳御座いませぬ!そこの愚娘には今すぐ下がらせますゆえ…!どうかご容赦願いたく…!」
王の手が、静かに“待て”と制した
ヴァルディオス王(一瞬、子を想う親の表情を見せる)
「よい…」
セレスタリア侯爵(困惑)
「し、しかし…陛下…」
ヴァルディオス王
「輝夜・セレスタリア、発言を許可する」
カグヤ(一礼しながらも視線を逸らさず)
「僭越なる物言い、誠に失礼いたしました。
寛大なるお許しを賜り、深く感謝申し上げます」
セレスタリア侯爵はそんな愛娘を不安げに見つめ、
リオとフィリアは氷結令嬢の言動に驚きつつも、彼女の背中を微動だにせず見守っていた。
カグヤ
「フィリア・ノート──彼女は、“玉座の問い”を受けるべき立場ではありません…!」
「確かに彼女は“異質”ではあるのでしょう…けれどそれは、害意でも野心でもなく――ただ、純粋な“在り方”です」
「彼女は“力を自覚していない”。ましてや“世界を掌握する”という企図など、彼女には……微塵もないでしょう…!」
(その声は静かだったが、ひとつひとつの言葉に、友を護ろうとする意志が込められていた)
カグヤ
「彼女は、“ただの少女”です。
今、彼女の中にあるのは──“歌うことが好き”という純粋な想いと、“夏休みに友達と旅行に行ける”という、小さな期待だけ」
カグヤ(少しだけ目を伏せて、淡く)
「……だからこそ、王よ。
…彼女に問うた言葉──“世界を何とする”などといった問いは、あまりにも……」
「陛下。私は、彼女を“友”と呼びます。
貴族としてでも、魔術師としてでもなく…一人の人間として、心からそう思ったのは……これが初めてです」
「どうか。
その在り方が、異なるからといって。
それを“脅威”と断じることだけは、なさらないでください…」
リオはカグヤの言葉に目を見開き、
セレスタリア侯爵は顔を伏せ、
ヴァルディオス王はただ、黙って耳を傾けていた。
謁見の間では誰もが黙していた。
玉座の前で、カグヤは膝をついたまま静かに頭を垂れ、ヴァルディオス王もまた、しばし目を閉じ、考える素振りを見せている。
空気は、なお重い。
誰も言葉を発せず、空間はまるで、時間そのものを失ったように静まり返っていた。
──そんな中。
フィリア(ぽつりと)
「……ありがとう…カグヤちゃん」
透き通るような少女の声が、玉座の間に、ひと雫の水滴のように落ちた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
???
「♪──きらきら星…空に願い……」
誰もが、音の正体に気づくのに少し時間がかかった。
それは、声ではなかった。
沈黙が支配していた謁見の間に響く旋律だった。
(魔力が乱れ、空気の振動が微かに共鳴する…)
♪ひかり ひかり 閉ざされた空に
こたえを探す 小さな星よ
♪きみが涙を流すたび
ぼくの胸に ひとつ 花が咲く
(歌に呼応するかの様に、ステンドグラスから差す七色の光がフィリアを照らし、その姿はまるで“星冠”に包まれている様に見える)
♪こわくないよ
誰も、きみを傷つけることはできない
──きみが“ここにいる”と歌えば
♪うまれた意味なんて なくていい
世界に たったひとつの こえだから
(謁見の間に居た者達は唯々、言葉を失い、ヴァルディオス王を含め“ただ聴くことしかできない”状態になっていた)
♪もしも そのこえが
誰かの 心を とかしたなら
♪それだけでいい
それだけでいいの
♪この星に生きる その理由は
ただ 歌が在るから
♪──願いを ひとつ
たった ひとつだけ
きみの未来が
やさしい音に 包まれますように…
ーーーーーーーーーーーーーーー
フィリアが歌い終えた。
謁見の間の空気は聖域のように澄み渡っていた。
ヴァルディオス王は目を伏せ、深く長い息を吐いた。
カグヤの目には熱が滲む。
リオは何かを言おうとし…しかし、言葉は出てこなかった。
フィリアが歌った。それは、言葉でも弁明するでもない。
ただ、フィリアの想い。
フィリア(震えず、やさしく)
「……私は、“歌いたい”」
静かな声が聖域に響く。
「誰かが、悲しそうにしていたら……私は歌いたい。
空が渇いていたら、花に元気がなかったら……大切な人が、つらそうにしていたら……ただ、歌いたい…」
彼女の水色の瞳が、まっすぐにヴァルディオス王を見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そんな誰一人、次の言葉を発する者が居ない謁見の間の重厚な扉が、
バァァン──!!
魔術障壁が弾ける爆音とともに開いた。
《星冠の子守歌》
ひかり ひかり 閉ざされた空に
こたえを探す 小さな星よ
きみが涙を流すたび
ぼくの胸に ひとつ 花が咲く
こわくないよ
誰も、きみを傷つけることはできない
きみが“ここにいる”と歌えば
うまれた意味なんて なくていい
世界に たったひとつの こえだから
もしも そのこえが
誰かの 心を とかしたなら
それだけでいい
それだけでいいの
この星に生きる その理由は
ただ 歌が在るから
願いを ひとつ
たった ひとつだけ
きみの未来が
やさしい音に 包まれますように




