夏なのに!?雪女襲来!?
予定立ててる時が一番楽しい説
あると思います
学園の食堂の窓からは、まばゆい陽光と、湿気を多分に含んだ風が流れ込んでいた。
リオとフィリアは、食堂の厨房にてパッと作った手作りサンドイッチをつまみながら、今日の魔法演習について語り合っていた。
フィリアはFクラス所属に変わりはないが、そこは高レベルを追求する名門校である。
講義に実技など、実際に受ける授業はどのクラスでも隔たりは無い。
リオ「第二階層の記憶解放も、だいぶ進んできたな……放課後にでも“エーテル干渉の補助線”を試すか」
フィリア「うんっ!……そういえばリオ…夏休みってどうするの?」
リオ「一度……実家に戻るつもりだったんだけどな。杖の件もあるし。父上に言い訳をしないといけないし…」
フィリア「そう…なんだね!私も村の皆んなに会いたいから実家に帰るんだ!」
リオ「フィリアは南の帝国領の出身だよな…?」
フィリア「そうだよ!セレナ村!
村長に…ジリアおばさんに…カローナさんところの収穫も手伝わないとだし… 村はね!お山の麓にあって、星がすっごく綺麗で。
……あと、見せたいものがあるんだ。きっと、リオが“びっくり”するやつ」
リオ「ん…?山の麓だと?それ学園から往復するだけで夏休み期間ギリギリだぞ!?」
フィリア(首を傾げながら)「んー……?そんなにかからないよ?」
そんな弛緩した空気が流れていた時だった。
ーーーーーーーーーーーーー
「──あなたがリオね…」
銀白の髪に蒼い瞳、完璧すぎる魔術衣装を身に纏った少女が、リオたちの前に立ちはだかった。
Aクラスの生徒──輝夜・セレスタリア。セレスタリア侯爵家の直系、王族に次ぐ魔法貴族の一人。
カグヤ「お父様が呼んでいるわ…夏休み中、セレスタリア家に招いて“あげる”。喜びなさい…
……あ、そこの桃色のあんたもね…
“リオの保護対象”とか何とからしいじゃない…」
フィリア「へっ!?桃色…?って…私のことっ?」
カグヤ「あんた以外に桃色の髪をしてるやつが何処にいるのよ…Fクラスはこんなにトロい奴ばっかり集めてるという話は本当なのね…」
リオ(なんだ、この高圧的な氷結侯爵令嬢は……!?)
リオ「あー、えーと、侯爵令嬢様におかれましては、ご機嫌麗しく、何よりに存じます。
この度は、身に余るご厚意、誠に光栄に存じます。夏季休暇を“セレスタリア家に招いていただける”とは……いやはや、恐悦至極とはまさにこのことでしょう。されど、僭越ながら私は家名を名乗れぬ一介の平民、王命にも等しきそのお誘いを前にしても、簡単には首を縦には振れぬ身の上でございます。
何卒、こ侯爵閣下には、この粗野にして不調法なる者が、少々“自由な夏を求めている”ことをお汲み取りいただけますと幸甚に存じます。
なお、私の不在によりご機嫌を損ねられるようなことがございましたら、どうぞ……フィリア嬢に詫び歌でも一つ捧げさせましょう。お耳に合うかはさておき、情緒的には効果覿面かと。
──では、令嬢のご清福と、この夏の涼風が貴家に届かんことを、心よりお祈り申し上げます。」
リオは輝夜の反応を一切気にする事なく言い切った…!
(カグヤの眉がピクッと、動いたのをフィリアは見逃さなかった)
カグヤ「あなた……今、わたしを婉曲に断ったわね…?」
フィリア(素直に)
「えーと……リオ、夏休み実家に帰るって言ってたよね?」
カグヤ「……は?」
(氷点下に突入する視線。カグヤの周囲が薄く凍る)
カグヤ(静かに瞳を伏せる)
「……そう。お断りなのね…」
リオ「あ……いえ、その、あくまで丁重に……予定があるという事です!」
ピキ。
リオの手に握られていたティーカップが、突然“凍り”、砕けた。
ピキ……ピキピキ……ザァァ……ッ
テーブルの上から、白い霜が広がっていく。
空気が凍っている。誇張なくカグヤの周囲が凍っている。
カグヤ(薄く微笑む)
「リオ…そのお名前、覚えておくわ」
(その声は冷たく、透き通っていた)
カグヤ「私、産まれてからこのかた、“断られた”ことなんてなかったわ……」
一歩、踏み出す。
床がバリッと凍り、砕ける音が響く。
リオ(カグヤの迫力に一歩下がる…)
カグヤ「面白いわね。あなた、少し興味が出てきたわ…」
──静寂。
テーブルに置かれていたカップの中の紅茶が、氷の層に閉ざされている。
冷気はなおも残り、周囲の空気が、リオとフィリアの動きを奪っていた。
カグヤは涼やかな笑みを浮かべたまま、すっと一歩下がった。その洗練された所作はまるで冬の月の光のようだ。
さらりとマントを翻し、彼女は振り返る。
その背に宿るのは、氷の気品。凍れる高貴。
カグヤ「……夏休み、期待しているわ。精一杯の歓待を準備させておきますわ…」
足元から、冷気を漂わせながら──
彼女はその場を、ゆっくりと、けれど一切の隙なく去っていく。
(誰も、声を掛けられなかった)
──そして、風が戻る。
フィリアは小さく息をつき、リオは硬直したまま目を瞬かせた。
フィリア「……い、生きてる……?」
──その頃、リオの自室には2通の封書が届いていた。
リオ母『学園長から連絡がありました。フィリアという女子生徒の指導教官を務める事になったと学園長から連絡がありました、Fクラスの生徒だとか…?
学園側には抗議するにしても、まずはあなたからの説明を聞いてからとします。
つきましては、フィリア嬢を連れて夏休み中に必ず王城へと帰還する事。これは王族に連なるものとしての責務です。
…追伸、お母さん、リオの事見直したわっ!!』
【招待状:リオ様へ】
拝啓、リオ様
貴殿のご活躍を耳にし、当家としても深く関心を抱いております。
夏期の休暇中、ぜひ我がセレスタリア家にご滞在頂きたく、心よりお招き申し上げます。
娘・輝夜との親交を深め、互いの価値を見極め合う機会を…敬具
カスティリオ・フォン・セレスタリア