零ノ結晶、星砕ノ夜へ『朝露の祈り』
それは決して終わることのなかった夢。
亡国の姫が、幾千幾億の記録を巡り、ようやく辿り着いた“静寂の果て…
たった一人のために繰り返し続けた“時間の結界”の幕引きを、ここに──魂の祈りとして、綴ります。
静かだった。
かつて、この地には風に載った歌があった。
花が咲き、人が笑い、魔術が祝福のように降り注いでいた。
すべては記憶の奥底。
幾層にも積み重ねられた“亡国の幻”。
そしてその中心にいた王女。
リュミエール・セレスタリア。
数百年の時間を越えても、
彼女の心だけが、ただ一点で停滞し続けていた。
そこへ──
水彩の歌姫、フィリア=セレナが手を伸ばす。
空が震える。世界が歌う。
奏でるのは、願い。
「もう、終わらせよう。
あなたの哀しみを、ずっと抱えて生きていく未来じゃなくて。
“次の朝”へ、歩くために──」
そうしてフィリアは静かに歌いはじめた…
⸻
♪静かなる この地に舞うは
まだ終わらぬ夢の名残り
君の声 君の手のひら
誰かのために凍えていた
♪やさしい風が 触れたなら
咲かぬ花も 色づくだろう
それでも君は 微笑んで
時の檻に 閉じこめたまま…
♪だから歌うよ この願いを
星の光に のせて
「君は生きてた ずっとずっと」
哀しみごと 抱きしめて
♪もういいんだよ もう泣かないで
君の選んだその歩みに
朝が来る 未来が来る
この世界を、信じて──
風と共に星の粒が舞っている。
♪小さな祈り 空に放ち
重ねてきた日々を包む
何度でも 呼びかけるから
「君の名前は……リュミエール」
♪剣ではなく 杖でもなく
想いが理を 溶かしていく
願いはそう、終わりじゃなく
誰かが継ぐ 物語…
♪見上げた空に 今、還るよ
星の彼方 風になる
君の痛みも 君の希望も
私がぜんぶ 引き受ける
♪歌が響いた 命に触れた
君の灯火 消えないように
朝が来る 君といた
その記憶が、証だから
♪またいつか 巡る世界で
出会えたら… 笑おうね…
ーーーーーーーーーーーーーーー
星が降る。
それは祝福。
それは祈り。
そして、赦し。
一歩、また一歩。
白い光に包まれながら、リュミエールは歩き出す。
繰り返し続けたあの“瞬間”から、ついに背を向けて。
リュミエール:「……ありがとう、セレナ……
あなたに……いえ、“あなたたち”に会えてよかった」
(小さく微笑む)
「私の願いは、ほんとうは、ね。
……あの人に、“未来”を渡したかっただけなの。
私じゃなくて、あなたになら……それが、きっと……」
「託したからね………」
⸻
夜空が砕ける。
大いなる結界⦅アトラスリリィ⦆は解かれ、
リュミエール王国の記憶が、静かに結晶化して消えていく。
フィリアはその手を、最後まで離さなかった。
涙をこらえ、笑顔で送った。
「リュミエールさん……また、きっと…」
そして、静かにリュミエール王女は夢の果てへと眠った。
永遠に“過去”から解放されて。
その魂は風となり、歌となり、空へ還った。
彼女が託した希望は今、
フィリアの歌に宿り…
そして“リオ”の記憶の中で、確かに燃えている…
リオは静かに呟く。
「……“可能性”ってやつはさ。
見つけた奴が、拾い上げてやるしかねぇんだよ…」
⸻
──術式、終焉。世界、再構築。
第二節──選択の代償
リオの杖が爆ぜた。リオの体を閃光が覆った。
それは祝福のようであり、断罪のようでもあった。
──リオは、確かに選んだ。
ただ一つ。可能性の中で“最も救われる道”を。
その選択に、誰も異を唱えられない。
あまりに尊く、あまりに重すぎて。
術式:『選択演算式・セレクト=オーダー』──完了。
結果──
爆発も断末魔もない。
ただ一瞬で、世界から「そこになかったこと」になった。
ーーーーナニガ…?
現に周囲の仲間たちは誰一人傷つかなかった。
敵対したリュミエールでさえも…
それは魔術師王にとって何時いかなる時も
“最も正しい犠牲”の形だった。
⸻
リオの右手が、完全に光の粒子となって消失していた。
「……っ」
身体が軋む。
神経ではない、“記憶”の層が削れた。
右手に染み込んでいた、あらゆる**魔術師"としての“記憶が失われる。
⸻
アレクト「っ、リオ様ァアアアアアア!!」
アレクトが飛び込もうとするも、
リオは左手で制した。平然とした顔で、微笑んで。
「大丈夫。慣れてる。
……いつもこうだったんだろ?」
アレクト「あんなもの…!…やっぱり人の身では受け切れる訳が無かったんだ…
どうして…お前は、魔法を…杖だって……」
リオ「杖は父上に怒られるが何とかなるだろうさ。
まあ右腕はな。…また練習すれば左手があるさ」
アレクト「書庫を探せば見つかるハズです!
私が必ず見つけます、方法がらあるはずなんだ…絶対にあるはずだ…」
⸻
リオの胸に刻まれた感情が、はっきりと蘇る。
──コレハ、誰の感情、想いなんだろうか…
──同じように、自分の記憶や力を“手放す”ことで、人々を救ってきた。
だからこそ、今のリオには“ナニカ"が残っていない。
けれど、だからこそ。
⸻
彼は、迷いなく選べる。
それが、“彼の。創造の魔術師王の不器用な強さ”だった。
⸻
リオ(心中):「なぁ、セレナ。
俺……また手ぇ放しちまったよ。
けど、さ。あの時みたいにさ──)
(微笑んで)
「お前が笑ってくれるなら、いいかなって、思うんだよな……」
⸻
その時。
世界に響く、水彩の旋律。
──セレナの、いやフィリアの歌声。
それは、痛みも迷いも抱きしめて、なお響く命の歌声。
⸻
???:「“記憶”なんて超えるよ。
私の“歌”が、あなたの手になれるなら」
旋律は、リオへと術式に混ざって流れ込む。
喪失が希望に変わる。
リオの左手から光が走り、失われた右腕の形が徐々に再構築されていく。
⸻
だが、それは生体ではない。
──記憶の魔力でできた“歌の義肢”
魔力と旋律で編まれた“擬似右腕”。
そしてその指先から、リオは再び魔術の演算を始める。
⸻
リオ「まだやれるみたいだな、アレクト」
アレクトは涙した。記録体であるにも関わらず。
「このお方は……っ、本当に……本当に……!」
「泣くなよなー!」
⸻
本は開かれた。
記録されたそのページには、こう記されていた。
> 「第一封印、解除。螺旋は次の記憶へと繋がる」
リオとフィリアは顔を見合わせ、静かに頷いた。
世界の記憶を取り戻す旅が、始まったのだった。
アレクト「うおーい!俺もいるってー!!」
⸻
•リュミエールよりフィリアへと渡された、星々の煌めき。
•繰り返す過去は、未来へと託された。
この一幕によって、魔法の書庫に封印されていた**第一の失われし国“リュミエール王国”が、再び世界に刻まれました。
それは様々な形でリオとフィリアを導いてゆきます。