お願い……私を……夢の果てに、連れていって……!」
そこは、誰の記憶にも存在しないはずの場所だった。
灰色の空。流れぬ時間。砕けた塔と、沈黙の城壁。
そして──
少女が、そこにいた。
否、“少女のような記憶”が、そこに留まっていた。
リュミエール・セレスタリア。
かつて繁栄を誇った王国⦅煌幻⦆「リュミエール」の、最後の王女。
美しい白銀の髪と、涙を秘めた翡翠の瞳を持つ彼女は、
亡国の記憶に縛られ、ただひとつの瞬間を繰り返していた。
「最愛の人と共に、世界を守れなかった」という悔恨。
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リュミエール(記憶体):「また……また、ここからなのね……。
この光景……この音……誰か、私を、止めて……」
誰にも届かぬ叫び。
この世界に、彼女一人しかいないから。
だがその日だけは、違った。
“水色の光”が、空を裂いた。
次の瞬間、白い旋律が風とともに流れ込む。
それは──
フィリア=セレナの“歌”。
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フィリア:「誰かの哀しみが、こんなにも澄んだ旋律で響いている……
……これは、きっと……私の声が、届いていい場所……!」
水色を讃える歌姫は、記憶の結界を破って飛び込んだ。
そして、そこに座す“記憶の姫”と再び出会う。
二人の瞳が交差する。
互いに、懐かしい気配を宿して。
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リュミエール:「……あなたは…誰?
懐かしい。……どうして、あなたの声はこんなに温かいの?」
フィリア:「わたしは、フィリア=セレナ。
たぶん……あなたの“記憶”と、深く繋がってる存在だと思う」
リュミエールの頬を、一筋の涙が伝う。
「セレナ……そう、セレナ……!
あなたは、彼の“未来”を救うために生まれた……私の、もう一つの可能性……!」
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彼女は立ち上がる。何百回、何千回と繰り返してきた記憶の終点から。
その歩みに、フィリアは寄り添った。
「お願い……私を……夢の果てに、連れていって……!」
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その瞬間──空間が崩れ始める。
記憶世界が、初めて“進行”を始めた。
封じられた歴史が、彼女の“選ばれなかった願い”を載せて旋律が流れ始める。
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そこに、結界を越えて──リオの術式が届いた…!
演算式の残滓が、リュミエールに干渉した瞬間。
ーーー神代の魔術師王が蘇る。
リオの記憶は未だ戻らぬ。
けれど、魂は覚えていた。
あの姫が、かつて“共に終わりを選ぼうとした相手”であったことを──
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次回
「零ノ結晶、星砕ノ夜へ」