疫病神
勝手な創作落語です。井戸の茶碗と三井の大黒のマッシュアップです。
えーお運び様で厚く御礼申し上げます。
今年も寒うございまして、いや寒くない冬なんてのはございませんが・・・
おう!兄弟ぇ、今日も寒いなあ
お、松兄い、冷えますなあ、暖かくなってくれねえと、あっしも商いもままなりませんで。
おめえもか?こっちもなあ、大工ってのも、冬の間は仕事が減っちまうからよ
しょうがねえから小物こしらえて、市で売ってしのいでるって有様よ。
兄貴もですかい、あっしの方もね、波が荒れると同じでもって、ほんと冬ってのは困りもんで。
そうだよなあ、漁師ってのも大変だよなあ。
冬はあれだな、疫病神がもってきてるんじゃねえかっておもっちまわあ。
全くでさぁ、近頃じゃ米も買えねえから芋ばっかくってるってぇ有様で
はっはっは。おめえもか!うちのかかあも米がねえ米がねえって
芋出してきやがる。商いは違っても冬は疫病神だな。おんなじだ
まあ、春になったらお互いいい仕事もくるってもんだ、それまでの辛抱だな
それまで芋食って耐えましょうか。
んだな、んじゃまた良いのが網にかかったら声かけてくれ
あい!いの一番で兄ぃんとこ持っていきますぜ!
こうして冬のとある日、兄弟分の大工の松五郎と、漁師の克つぁんが偶然仕事の帰り際に会って
お互いの帰路に。
ちょうどお互いが分かれたところの路地にひょいっと・・・・
おや?なんでえこりゃ、うすぎたねえもんが転がってると思ったら・・
こら木彫りか?おらぁ大工とはいえ彫り物はうまかねえが、こいつぁ面白いな。
大黒か?せっかくだし拾ってけえるか。
お?こいつはなんだ?ふ~ん、彫り物?
ああ、せっかくだ、兄ぃに見てもらいたなあ
んでも今更兄ぃ呼び止めるのも申し訳ねえ。
どうせ屑みてえなもんだが、まあいっか・・
同じようなところでその変な代物を、お互いが拾って帰りました。
おいおっかあ!いまかえったぜ!いやさっき克見つけて話し込んじまってよ。
遅くなった悪かったな。
お帰んなさい。もうすぐ炊き上がりますからちょいと待ってくださいな。
いやいいって事よ。しかしなんだなぁ、めっきり冷え込んじまって
財布の中も寒くてしょうがねえ。
なーに、いずれ春になればな。
そうですね、はす向かいの旦那が、春になったら、樋直してほしいって今日いらっしゃって。
お、そうかい!お安い御用だ!ただまだ雪が残ってらあ
とはいえ、もう少しの辛抱だな、仕事がもらえるってぁありがてえな。
ああ、そういえば、けぇり道にこんなもん拾ったんだがな、
いい顔してるんでもってけぇっちまった。
おめぇこれなんだかわかるか?
あらあら、面白いものを、なんでしょうね。言われてみれば何か福がありそうなしつらえの
彫り物ですねぇ。
だろ?明日よ、健ちゃんとこいって見てもらおうと思ってよ。
ああ、健さん、古道具屋の、いいですね。健さんなら詳しいですね、ささ、夕飯にしましょ。
芋ですけど
うん・・・・・・まあそうだろうと思ったよ・・・・・・・
そして克さんの方ってぇと
さて帰ってきたが、これなんだろなぁ
明日は寄合あるから、そだな、明後日でも、健さんとこにでも持っていって見てもらおうか
どうせ二束三文だろうがなあ。
そんなこんなでお互いがお互い小汚い彫り物拾って、目が効く古道具屋に見て貰おうと
カラスかぁで夜が明けまして
おう!健ちゃんいるかい?
へい、おお、棟梁いらっしゃいまし、どうなさいました?
それがよ、まあこれみてくれ。
ほう、これは大黒様の彫り物ですね・・・いやしかし・・・・
ほう・・・・ふむ・・・・これは・・・・なんと・・・・
おいおい、唸ってねえで・・よ。で、どうなんでぃ。こいつは面白れぇもんか?
はい大変面白い・・どころか・・・・これ売っていただけるんで?
ああ。値が付くとは思っちゃいねえがよ。
10文でも20文にでもなりゃ蕎麦食って帰れるからな。
・・・・・・・1両・・・・・・・でいかがでしょう。
な・・・・・・・・・・・・・・・
1両だと??そいつは・・・・ちょっとまて・・・
それはいってぇどういう代物だい!
これは・・・高名な彫り物師がしつらえたものではないかと・・・
このお顔を拝見するに、間違いないかと・・・・
ちょっとまってくれ!そんな・・・・まさかそんな値が・・・・・・
そいつぁ俺の手に余る。いっぺん家にけぇってかかあと相談してくらぁ・・・
左様で、もしお売りいただけるなら、先ほどの値でかわせてもらいますので
・・・・わかった・・・・まあまた来るぜ!
おい!おっかぁ!おっかぁ!
はいはいどうしました?
例のあれだ、健ちゃんに見て貰ったらよ・・・・・・・1両と言われてよ
俺ひっくりけぇりそうになったが・・・・おめぇと相談するって持って帰ったが・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・どうするよ?
1両・・・?????!!!!
あらま!お前さんそれはたいそうなもの拾って・・・
・・・・・・・・・でも・・・・・・それ大丈夫かい?
おう、おめえもそう思うか・・・・
そうなんだよ。拾い物とはいえ・・・1両だぜ・・・
もし奉行さんに知れたらよ。幾ら拾ったつっても・・・1両だ・・・・
盗んだと思われりゃあ・・・・首が飛ぶぜ?
そうですよ・・・・そんなもの抱えても、後々心配事が増えちゃ・・・
あんたがお縄にでもなったら・・・ただでさえ腹すかしてるうちの子に
芋すら食わしてあげらんなくなって・・・
だよな・・・・・・・さすがに1両となるとな・・・・
ああ、大家に口添え頼んで、奉行さんとこに持ってってもらうか。
そうですね、喉から手が出るとはいえ、ここでお前さん失っちゃあ何にもならないよ。
そうしましょうよ。
んだな!そうしよう!
夫婦そろって意見がまとまりましたが一方そのころ・・・・克さんはその翌日。
お邪魔しますぜ、健さんいますかい?
あ、克さんいらっしゃいませ、主は今ちょうど出かけておりまして
どういった御用向きでございましょう。番頭の私で良ければ。
ああそうですかい。まあどうせ屑みてえな拾い物だ、
番頭さんこれなんだかわかりますかい?
ほう・・・・これは恵比須様の彫り物・なんと・・・・いい仕事をしてますなあ・・・・
大旦那ほど目は聞きませんが・・・2分ではいかがでしょうか・・・
2分???・・・・・・・・・・・(1両が4分、つまり半分)
(いやこんなこきたねえ代物が2分?それだけありゃあ芋食わなくったって
いや、そもそも松兄いに、だいぶ世話になっちまってる・・・
その恩を返さねえわけにもいかねえ。兄ぃも芋食ってるって言ってた・・・・
おいらはいいよ、どうせ養うもんもいねえ。芋食えるだけいいよ・・・・・
ただ兄ぃにそんな真似させるわけには・・・・・)
よし!売った!
ありがとうございます、今お代を持ってまいります。
と、こういったわけで。
克さんは、今の今まで面倒見てくれた松兄に恩返ししたい一念で
この彫り物を売りました。
値の差は、番頭さんももしや自分の目利きが正しくないとしたら・・
旦那に損させたくないという思いで、とはいえこのような品を見逃したとなると
これまた旦那様に申し訳が立たぬと、
その結果1両の半分、2分でと。
とはいえ2分も芋を食って生活してるものにとっては大金でございます。
そして
おうおっかあ今帰った、今日も芋食うか。
あんたお帰りなさい。今日は米がありますよ。
あーん?どうしてぇ・・・あんまし芋食いすぎて、芋が米に見えて・・・・
そんなわけありませんよ。克さんがいらっしゃってね、ほらこれを
おお?いい米じゃねえか!しかもその横のは
そう、お酒まで、こんな一升瓶で。お前さんにいつも世話になってるって
お返しだって克さんが。
おお!克の野郎いいものでも網にかかったのか!いやありがてえな!
米の飯だけじゃなくてこんないい酒まで!
世話はしてやったとはいえ、律儀なもんだ!あいつはいいやつだよなぁ
そっかぁ・・あいつもいい思いしたのか、疫病神はどっか行っちまったか!
ありがてぇありがてぇ!
克さんも
兄ぃの連れ合いさん喜んでたなあ~
腹いっぱい食ってくれればこっちもうれしいよ。
二人の子供も喜んでくれてるだろうなあ。
まあ、余ったお金でこっちも一合とはいえ酒買うだけの余裕はあった
ありがてえな~もう疫病神なんて言えねえや。
といった塩梅で
と、またまたあくる日。町奉行のもとへ
大事なものを落としたと、豪商の手代がやってまいりました。
主が求めた恵比寿大黒の2対の彫り物を、落としてしまい・・・
もしや此方に届けが出ておればと・・・
そこでこの町のお奉行様。はて、そのような話、聞いたことあるな
だが、大黒であったか?それはこちらに届けが来ておる。
では恵比寿は?
さあ大変なことになりました。
恵比寿は行方知れず、大黒はここにある。
片割れを探せ!
こうなります。
町中聞きこみまして、古道具屋に行きつきますと
お話は聞きました。確かに大黒は拝見仕りまして、今聞き及んだところ
恵比寿を番頭が買い付けたと・・・・・
もしやこれでございますか?
うむ!これであろう!手代を呼べ!
検分したところ、間違いない
これを持ち込んだものを引っ立てい!!!!!!
さあ大変でございます
なんと克さんがお縄に
その方、これを売った事、相違ないな?
た・・・・確かに私目が持ち込んだものでございます・・・・・・・
左様か、これで落着としたいところではあるが、お主なぜこのような
申し訳ございません!申し訳ございません!あっしはただ・・・
世話になってる方が芋を食ってるって・・・それが申し訳なく・・・・・
それを何とかしたいと・・・・・その一心で
・・・・・・もうしわけあり
まてまて、その方、その者に恩返しをと?
その者名は何ともうす。
へい、大工の棟梁で松五郎という方をあっしは兄と思って・・・・
(松五郎?聞き覚えが・・・・いや、大黒を正直目に持ちよった者ではないか?これはいったい)
しばし待て、その方の差配、今決めるのは・・・・むう・・・・
しばし保留といたす!
さあ困ったのはお奉行様でございます。
困ったーーーーー!!!!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・
松五郎は正直目にこれを持ってきた。立派であるな。
克・・・こ奴も・・・木くずに細工がしてあったのを面白いと持ち帰り。
金に換えたが恩あるものに大半を・・・・自らは酒を1合ほど・・・・
我が身より恩返しに大半を・・・・決して道を外れてはおらんな・・・
買い取った古道具屋・・・・棟梁が冬の間困って折るのを知っていたのであろう
買い叩くではなく、むしろ色を付けた値を提示した。
番頭は主の手前、よもや損が出来ぬと半分の価格で・・これもまた忠
困ったーーーーー!!!!!!!!!!!!!
悪人が一人もおらぬではないか!!!!!!!
お奉行様も人が良く、そのせいでどういった裁きを・・・と
七転八倒!悩みに悩んでおりましたところ
御免くださいまし
ほう、客?む、その豪商の主が?んむ通せ。
この度はお騒がせを。我が手代の失態まことに申し訳・・・・
よいよい、実は、拙者も困り果てておってな
と申しますと?
これがかくかくしかじかでの
なるほど、確かに、どの方も悪くはありませんな・・・・・・
ただ落とした我が手代も、良いものをいち早くわたくしに見せたいと
それゆえの粗相とのこと、その忠心は無碍に出来ず
そこだ!何だここには善人しかおらんではないか!
左様、わたくし目は、一度手が離れたものを結果はどうあれ手元に帰ってきたことで
拾ってくれた方に御礼をと
なんとさすがは豪商ですな、2両をポンと
これをお納めくださいまし。
かような、ありがたき行いに対するせめてものお礼でございます。
お納めください。
その善人の方とお分けになっていただければ。
さてお奉行様のところに2両・・・・・・・・・
お奉行様、こういったことには不慣れと言いましょうか
そもそもこの奉行も、根がいい人でして・・・
だからこそ
なにがどうなっておるのじゃあああああああああああああああああああああああ
待て待て整理してみよう
松五郎・・・・・・・・克とやらに米と酒、いやこれはその分身を削って
克とやらに奉仕してたのであろう・・・となれば損得無し
克 届け出なんだことはともかく、行いは理解できる。
恩義に忠実に大半を使い、そして得た分は1合ぽっちの酒のみか・・
健ともうした古道具屋と手代。お互いの信念と、少しばかりの心遣い。
そこまではよい
だがここに落とし主の礼として2両
この2両は・・・・・どこに行くのじゃ?
悪人が一人もおらぬのはよい!!!!!!!!!!!!!!!!
だが被害者が一人もおらんではないかああああああああああああああ!!!!!!
困ったぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
さあ困りましたはお奉行様、2両渡されても、それを誰に渡すか・・・配分は・・・
三日三晩悩み続けておりましたところ答えが出ません
懐に入れちまうほどには腐っておらず奉行様も善人であるからこそ、
その為いつまでたっても悩み続け・・・・・・
見かねた奉行の中元がこそっと
恵比寿大黒が疫病神とは知りませんで・・・・・・
お後がよろしいようで。
気が向いたら他のマッシュアップも書いてみます