エピローグ
8月28日(土)
秀人は春奈を家まで迎えに行った後、2人で近くの公園に行った。
「こういうの、公園デートって言うんですよね」
「こんな手抜きみたいなデートで良いのか?行きたい所があれば連れてくのに……」
「私、秀人君と一緒なら、どこでも構いません。ただ、今日は秀人君とゆっくり話がしたかったんです」
「そっか」
「秀人君は、どこかへ行く方が良かったですか?」
「そんな事ねえよ。俺もお前と一緒にいるだけで楽しいからな」
「それなら、良かったです」
2人は空いていたベンチに並んで座る。
「こうやって、のんびりしてると、夏休みって感じがするな」
「そうですね。でも、もうすぐ終わってしまいます」
「そうしたら、本格的に受験って感じになるだろうな……」
秀人は軽く、ため息をつく。
「秀人君、大学はどこにするか決めましたか?」
「村雨とかと相談して、少しずつ決めてるよ。春奈は結局、どうするんだ?」
専門学校を受けようと思っていた春奈だったが、文化祭で劇を見た人から、大学のサークルに誘われ、今は迷っているところだ。
「まだ、悩んでいます……」
「まあ、春奈のやりたいようにやれよ」
「はい、そうします」
春奈は笑顔を見せる。
2人が交際を始めてから、既に2ヶ月が過ぎた。
秀人と春奈の大声による告白が学校中の噂となり、2人は学校公認のカップルとなっている。
今は夏休みで、補習の時しか学校に行かないが、その度に周りの生徒から噂されている状態だ。
「そういえば……」
「はい?」
「和孝が言ってたんだ。恋人って3週間目と3ヶ月目と3年目の、3が付く時期に別れやすいって」
「……私達、丁度3ヶ月目に入ったばかりです」
春奈は少しだけ落ち込んだ様子を見せる。
「あ、別に俺は別れる気なんてねえからな」
「え……あ、はい、私も別れる気なんてないですよ」
春奈は安心したように笑顔を見せる。
「私、秀人君の事、好きです」
「急にどうしたんだよ?」
「今、急に言いたくなったんです」
秀人は照れくさくなり、顔を赤くする。
「秀人君は私の事、どう思っていますか?」
「お前、昨日もそれ、聞かなかったか?」
「何度も聞きたいんです」
秀人は軽くため息をついた後、笑った。
「俺は……春奈の事、好きだよ」
「ありがとうございます。あと……わがままを言ってしまい、ごめんなさい」
「お前、そうやって気を使ってばかりいたら、疲れちまうだろ?」
「秀人君だって、私に気を使ってくれています」
「とにかく、俺に対しては、もっと、わがままも言えよ。お前は俺だけじゃなくて、色んな奴に気を使ってるだろ?」
「じゃあ……」
春奈は真剣な表情で秀人を見る。
「1つだけ、わがままを言っても良いですか?」
「ああ、別に1つじゃなくて、たくさん言えよ」
「それは、秀人君に悪いです」
「別に俺は……とりあえず、その1つを聞くよ」
話が脱線しかけていたため、秀人は少しだけ笑う。
「この先、何があるかはわかりませんが……」
春奈は軽く深呼吸をする。
「ずっと、私と一緒にいて下さい」
「お前、そんな恥ずかしい事、よく言えるな」
「……ごめんなさい」
秀人は少しだけ考えた後、真剣な表情を見せる。
「でも……俺もお前と一緒にいたいと思ってる」
「え?」
春奈は驚いた様子を見せた後、笑った。
そんな春奈に合わせ、秀人も笑った。
「ありがとうございます」
「ずっと、一緒にいような」
「はい」
春奈は、そのまま秀人に寄り掛かる。
「秀人君と一緒だと、安心します」
「お前、俺がからかう度に慌ててるじゃねえかよ」
「そうですけど……」
「まあ、俺も、お前と一緒にいると、安心するよ」
「それなら、良かったです」
2人はしばらくの間、何も話す事なく、そのままでいた。
「そういえば、俺……思い出した事があるんだ」
それは春奈に2度目の告白をした日に気付いた事だ。
それから、秀人は記憶を少しずつ思い返し、その時の事を思い出す事が出来た。
「俺、小さい頃に、お前と……」
秀人は春奈に目をやり、話を中断する。
春奈は目を閉じ、いつの間にか眠ってしまっていた。
「デート中に寝る奴がいるかよ?」
秀人は呆れつつも、春奈の寝顔を見て、軽く笑った。
そして、寄り添うように秀人も春奈に寄り掛かると、そのまま眠りについた。