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6月13日(日)

夢達との待ち合わせ場所は、先週、春奈と待ち合わせをした場所と同じだった。

秀人が待ち合わせ場所に来た時、既に夢はそこにいた。

夢の格好は男物のYシャツにジーンズといったラフな格好だ。

「悪い、待たせちまったか?」

「いや、私も来たばかりだ」

夢は秀人と合流すると笑顔を見せる。

「和孝は?」

「あ、その……今日は来れなくなったらしい」

「は?」

「予定が入ったらしいんだ」

「ホントかよ……」

秀人は和孝に確認しようと携帯電話を取り出す。

「あ、待ってくれ。確か……電話、出れないと言っていたんだ」

「たく、どんな用事だよ……」

秀人は諦めると、携帯電話をしまう。

「じゃあ、どうするんだよ?」

「……せっかく来たんだ。2人で行かないか?」

「まあ、しょうがねえか」

「及川、昼は食べて来たか?」

「いや、まだだよ」

「だったら、先に昼を食べよう」

「ああ、良いけど、どこに入るんだ?」

「丁度、行きたい店があるんだ」

夢の案内で、2人は近くにあるパスタ屋に向かった。

「この店、来た事あるか?」

「ああ、まあ、1度だけな」

そこは春奈と食事をした、あの店だった。

2人は料理を注文すると、少しの間、沈黙が走る。

「今日、買い物って言ってたけど、何買うんだ?」

「その……服を買おうと思ってる」

「は?」

「まあ、買うかどうかは見て決める。もしかしたら見るだけで終わるかもしれない」

「それなら、俺とかじゃなくて女友達でも誘えば良かっただろ」

「その……及川に服を見てもらいたいと思ったんだ」

「何で俺なんだよ?」

「それは……後で話す」

「たく、服ってどんな服だよ?今着てるようなラフなやつか?」

「いや……もっと、可愛らしい服を買おうと思ってる」

「え?」

「私だって年頃の女だ」

「だったら、尚更女友達を誘えよ」

「……及川が良いと思う服を選びたいんだ」

「俺、女の服なんて、よくわからねえよ」

その時、料理が来たため、2人は話を中断し、食べ始めた。


2人は食事を終えると、すぐ店を出る事にした。

「服買うなら、俺が奢ろうか?」

「え、良いのか?」

「ここ安いしな」

「悪いな」

秀人が会計を済ませ、2人は店を出る。

そのまま、2人は近くのデパートに入り、婦人服売り場に向かった。

「どんな服が良いと思う?」

「あのな……お前が服選べよ。俺が良いかどうか判断してやるから」

「あ、そうだな……」

夢は近くにあった服を手に取る。

「どうだ?」

「うーん、派手過ぎねえか?」

「じゃあ、こっちは?」

「それだと地味過ぎる気がするけど……」

「この服なら、どうだ?」

「女の子みたいな服だな」

「私は女の子だぞ」

夢は不機嫌な様子を見せる。

「お前、何か今日、無理してねえか?」

「え?」

「変に女らしいって事に拘ってるし、あと、化粧もしてるだろ?」

「別に普通だ」

「どこがだよ?」

秀人は呆れたように、ため息をつく。

「お前、その服置いて、ちょっと来い」

秀人は夢を連れて紳士服売り場に向かう。

「及川、ここにあるのは男物だぞ?」

「良いから黙ってろ。今着てる服、お前が選んだのか?」

「ああ、そうだが……」

「それだけだと寂しいから、例えば……」

秀人はそこにあったベストやネクタイを取る。

「ほら」

「え、ああ……」

「あと、帽子も良いな」

戸惑いながら、夢は秀人に渡された物を身に付ける。

「まあ、少し足しただけだけど、大分違うだろ?」

夢は鏡の前に立つ。

「さっきあった服より、遠野はそういう服の方が合うんじゃねえか?髪だってショートなんだし、動きやすいラフな服装で……」

「でも、私は女として扱って欲しいんだ!」

夢は泣きそうな表情を見せる。

「もっとスカートとか、女の子らしい服を着て、可愛いと思ってもらいたいんだ」

秀人はしばらく黙っていたが、少しした後、笑った。

「笑うな!」

「あ、悪い……別に遠野は女だろ」

「え?」

「まあ、男っぽいって部分はあるのかもしれねえけど、それも何だ……魅力の1つにすれば良いじゃねえかよ」

秀人の言葉を聞き、夢は改めて鏡を見る。

「その格好、俺は良いと思うし、そもそもお前の事、俺はいつも女として扱ってる」

「そうは思えないぞ……」

「そもそも、女として扱うって何だよ?」

「それは……」

「お前がどう感じてるかは知らねえけど、俺はお前の事を女として扱ってる。嘘じゃねえからな」

「そうか……一応、女として扱ってくれてるのか」

夢は少しだけ嬉しそうに笑う。

「及川、この格好、私も良いと思うぞ」

「なら、良かった。買うのか?」

「ああ、そうする」

夢がいつもと同じ様子になったため、秀人は安心したように息をついた。


夢はベスト等、買った物をすぐ身に付けた。

「この後はどうする?」

「及川は何か見たい物ないのか?」

「だったら、本屋に行きたいな」

「本屋なんて、2人で行く所じゃないと思うぞ」

「ああ、俺もそう思う」

春奈の事を思い出し、秀人は笑う。

「まあ、買い物付き合ってもらったし、及川が行きたいなら、しょうがないな」

言葉とは裏腹に、夢は相変わらず嬉しそうな表情を浮かべている。

その時、秀人は1人で歩いている小さな女の子を見つける。

「及川、行かないのか?」

「え、ああ……」

秀人はもう1度、女の子の方へ目を向けると、母親らしき人物と丁度合流したところだった。

それだけ確認すると、秀人は夢と共に最上階にある本屋へ向かった。

本屋に着くと、秀人は小説が置いてある棚を眺める。

「及川、小説なんて読むのか?」

「ああ、暇な時にな。遠野は読まねえのか?」

「私は時々読む程度だな」

その時、秀人は春奈から借りた小説の作者が書いた、別の小説を見つけ、手に取る。

「お前らしくないジャンルだな」

「あ……いや、有名だって聞いたんだ。恋愛小説じゃなきゃ読むんだけどな」

秀人は小説を棚に戻すと、ホラーやミステリーが置いてある棚を見る事にした。


2人はその後、アクセサリー等を見たりしたが、他に行く所がなくなったため、早めに解散する事になった。

「確か、電車逆だよな?」

「ああ、そうだな」

学校から帰る時も秀人と夢は逆方向に向かう電車に乗って帰っている。

それでも、ホームが同じだったため、2人は一緒に電車を待つ。

「遠野の方の電車が先に来るみたいだな」

秀人は電車が来る時間を確認する。

「及川、今日は付き合ってくれて、ありがとう」

「別に大した事してねえよ。あ、とりあえず、和孝には今度、埋め合わせしてもらわねえとな」

秀人の言葉に、夢は複雑な表情を浮かべる。

「及川、実は……久保は初めから来るつもりなかったんだ」

「え?」

「私と及川を2人きりにするために、気を使ってくれたんだ」

夢の言葉の意味がわからず、秀人は首を傾げる。

「どういう事だよ?」

「……秀人に話があるんだ」

夢は顔を上げ、秀人の目を見る。

「今年、クラスが一緒になったばかりだが、お前は遅刻ばかりして、私にとって問題児だった」

「それは和孝も一緒だろ?」

「お前にとって、私は男友達のようなものなのかもしれないが、お前と一緒にいると楽しいんだ」

「だから、お前の事も女として扱ってるっての」

秀人の言葉に夢は少しだけ笑う。

「ずっと、こうしていられれば良いと思ってたんだ。友達として、バカをやっていれば良いと……」

夢は言葉を詰まらせる。

「お前と立石が付き合っているという噂を聞いて、まず私は、お前が恋愛なんてするわけないと思った」

「それ、当たってるよ。正直、恋愛に興味ねえからな」

「でも……嘘だったとは言え、お前が立石と付き合ってると知って……私は辛かったんだ」

「何でだよ?」

まだ意味がわかっていない秀人は夢の様子を見て笑った。

「それで、私は友達としてではなく……恋人として、及川と一緒にいたいと思ったんだ」

夢は少しだけ間を空けた後、秀人に真剣な目を向ける。

「私は及川の事が好きだ」

「……え?」

「及川、恋愛に興味がないと言ったが、私の事を女として……恋人候補として見て欲しいんだ」

「えっと……」

「今、返事はいらない。聞いても断られるとわかってる」

夢は顔を下に向けた。

「私の気持ちを知ったからと言って、変に気を使ったりしないで欲しい。出来れば、今まで通り接して欲しい。……私、わがままだな」

その時、夢が乗る電車がやってきた。

「話は以上だ」

夢は秀人に背を向け、電車に乗った。

「遠野!?」

その時、電車の扉が閉まり、少しした後、背を向けたままの夢を乗せて走り去ってしまった。

ホームに残された秀人は、夢を乗せた電車をしばらく眺めていた。

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