第8話「新しい友情の芽生え」
4月22日、真琴のクラスで班活動が始まった。5人一組の班で、学校行事の準備や授業での協力作業を行うことになる。
「えーと、私の班は……」
真琴は張り出された班分けを確認する。
「工藤真琴、鷹野千鶴、沢田弦一郎、高橋美咲、佐藤大輔……か」
千鶴と弦一郎がいることに安心しつつ、知らない2人の名前に少し緊張が走る。
「みなさん、それぞれの班に分かれてください」
先生の指示で、班ごとに集まり始めた。
「あの、高橋さんと佐藤君?」
真琴が声をかけると、おとなしそうな女の子と、少し不愛想そうな男の子が近づいてきた。
「私が高橋美咲です」
「俺が佐藤大輔」
それぞれが簡単に自己紹介をする。
「よろしくね! 楽しく活動できたらいいな」
真琴は明るく笑顔を見せたが、美咲は小さくうなずくだけで、大輔は少し顔をそむけた。
最初の班活動は、来月の遠足の計画を立てることだった。
「じゃあ、みんなで意見を出し合おう」
真琴が提案する。
「私は、自然公園がいいと思います」
千鶴が言った。
「山がいい」
弦一郎が短く答える。
「美咲ちゃんはどう?」
真琴が聞くと、美咲は小さな声で答えた。
「動物園……かな」
「大輔君は?」
「別にどこでもいい」
大輔の素っ気ない返事に、真琴は少し戸惑った。
話し合いは難航し、なかなか意見がまとまらない。真琴は何とか全員の意見を聞こうと努力したが、大輔の無関心な態度に少しイライラしてきた。
「ねえ、大輔君。もう少し真剣に考えてくれない?」
真琴の言葉に、大輔は不機嫌そうな顔をした。
「別に、お前に言われる筋合いはないだろ」
教室に張り詰めた空気が流れる。
その時、今まで黙っていた美咲が小さな声で言った。
「私……みんなの意見をまとめた場所を知ってる」
全員が美咲に注目する。
「自然公園の中に小さな動物園があって、周りに山もあるの」
真琴は目を輝かせた。
「それ、いいね! みんなの希望が叶うじゃん」
大輔も少し興味を示した様子で、「まあ、そこならいいんじゃね」と言った。
放課後、真琴たちは一緒に帰ることになった。
道すがら、大輔が突然口を開いた。
「さっきは、ごめん」
真琴は驚いて大輔を見た。
「いや、私も強く言いすぎたかも。ごめんね」
「実は……俺、人と話すのが苦手なんだ。だからあんなふうになっちゃう……」
大輔の告白に、みんなは優しく笑顔を向けた。
「大丈夫だよ。これからゆっくり仲良くなろう」
真琴の言葉に、大輔は照れくさそうに頷いた。
家に帰ると、母が真琴の様子を見て声をかけた。
「どうしたの? なんだか嬉しそうね」
「うん!新しい友達ができたんだ」
真琴は興奮気味に今日のことを話した。
その夜、真琴は日記に書いた。
「今日、班の皆と少しずつ分かり合えた気がする。これからが楽しみ」
窓の外では、さくらんぼの木の芽が大きく膨らんでいた。新しい友情の芽生えを祝福するかのように。
翌日、班活動の時間。
「ねえ、遠足の後に、うちでみんなでお菓子作りしない?」
真琴が提案すると、美咲が小さな声で「楽しそう」と言い、大輔も「悪くない」と答えた。
みんなで計画を立てる中で、班の雰囲気はどんどん明るくなっていった。
真琴は心の中でつぶやいた。
「中学生になって、世界が広がった気がする。これからどんな出会いがあるんだろう」
教室の窓から見える満開のさくらんぼの花が、真琴の新しい門出を祝福しているようだった。