第7話「春の山菜採り」
4月15日の土曜日、真琴は早朝から目を覚ました。今日は家族でまた山菜を採りに行く日だ。
「まこと、準備はできた?」
正治の声に、真琴は元気よく応えた。
「はーい!」
家族4人で車に乗り込み、山へと向かう。道中、真琴は窓の外の景色に見入っていた。芽吹き始めた木々、山肌を彩る新緑。すべてが生命力に溢れている。
「ねえパパ、今日はどんな山菜が採れるのかな?」
「そうだなぁ。タラの芽やコゴミ、ワラビなんかが採れるはずだ」
車を降り、いよいよ山菜採りが始まる。真琴は目を輝かせながら、周囲を慎重に観察していく。
「あっ! これ、タラの芽だよね?」
真琴が指さす先に、確かにタラの芽があった。
「よく見つけたな、まこと」
父が褒めてくれる。
真琴は嬉しそうに、慎重にタラの芽を摘んでいく。その横で、弟の勇斗も一生懸命山菜を探している。
「お姉ちゃん、これは何?」
勇斗が指さす先には、小さな白い花が咲いていた。
「これはカタクリっていう花だよ。食べられないけど、とってもきれいでしょ?」
真琴が教えると、勇斗は目を輝かせて見つめている。
山菜採りの合間に、父が真琴に話しかけた。
「まこと、この山の自然を守っていくのは、私たちの役目なんだ」
「どういうこと?」
「昔から、人は自然の恵みを受けて生きてきた。でも、取りすぎてしまったら、自然のバランスが崩れてしまう。だから、必要な分だけ頂いて、残りは次の世代のために残していくんだ」
真琴は父の言葉に、深く頷いた。
「わかった。私も自然を大切にする人になるね」
山菜採りを終え、たくさんの収穫を手に家に帰ると、母・美里が待っていた。
「お帰りなさい。たくさん採れたみたいね」
「うん! これ、みんなで採ったんだよ」
真琴は自慢げに山菜を見せる。
その日の夕食は、採ってきた山菜を使った料理でいっぱいだった。タラの芽の天ぷら、コゴミのお浸し、ワラビの煮物。
「わぁ、おいしそう!」
家族みんなで、春の味覚を楽しむ。
「ねえママ、これって難しい料理?」
真琴が興味深そうに尋ねる。
「そうねぇ、コツさえつかめば簡単よ。今度教えてあげるわ」
翌週の月曜日、学校の「総合的な学習の時間」で、休日の体験について発表することになった。
真琴は緊張しながらも、山菜採りの体験や学んだことを熱心に話した。
「そして、自然を大切にすることの重要性を学びました。山菜は必要な分だけ採って、残りは次の世代のために残すんです」
クラスメートたちは、真琴の話に興味津々で聞き入っていた。
発表が終わると、先生が真琴を褒めてくれた。
「工藤さん、とても素晴らしい体験をしたのね。自然を守ることの大切さを、みんなで考えるいい機会になりました」
その言葉に、真琴は誇らしげに胸を張った。
帰り道、真琴は千鶴と弦一郎に声をかけられた。
「まこちゃん、山菜採りって楽しそうだね」
「うん、本当に楽しいよ。今度一緒に行こうよ」
「そりゃ、いいな」
三人は笑顔で話しながら歩いていく。真琴の心の中で、自然への愛着と、それを守りたいという思いがさらに強くなっていった。