第6話「部活動選びの迷い」
4月12日、中学校生活が始まって約1週間が経ち、真琴たちは部活動の見学期間に入っていた。
「ねえ、まこちゃん。どの部活に入ろうか考えてる?」
教室で千鶴が真琴に声をかけた。
「うーん、まだ迷ってるんだ」
真琴は少し困ったような表情を浮かべた。
「私は剣道をずっとやってきたから、剣道部に入ろうかなって思ってたんだけど……」
「でも?」と千鶴が促す。
「科学部も面白そうなんだ。自然のことをもっと深く学べそうで……」
真琴の迷いは深まるばかりだった。
その日の放課後、真琴は剣道部と科学部の見学に行くことにした。
剣道部では、懐かしい竹刀の音と気合いの声が響いていた。顧問の先生に声をかけられ、真琴は少し稽古に参加させてもらった。
「工藤さん、フォームがしっかりしてるね。経験者かい?」
「はい、小学校からずっとやってました」
汗をかきながら稽古をする中で、真琴は剣道の楽しさを再確認した。
その後、科学部の教室を訪れると、様々な実験器具や標本が並んでいた。
「こんにちは、見学に来ました」
部長の先輩が優しく迎えてくれた。
「今、地域の生態系についての研究をしてるんだ。興味ある?」
その言葉に、真琴の目が輝いた。
「はい! 私、自然が大好きで……」
熱心に説明を聞く真琴の姿に、部長は嬉しそうだった。
家に帰ると、両親が真琴の様子を心配そうに見ていた。
「まこと、部活のことで悩んでるみたいだけど、大丈夫?」
美里が優しく声をかけた。
「うん……剣道も科学も好きで、どっちにしようか迷ってるの」
正治が静かに言った。
「まこと、何を選んでも後悔することはないよ。大切なのは、自分が本当にやりたいことを見つけることだ」
その夜、真琴は自分の気持ちと向き合った。剣道への愛着、自然への興味、そして将来の夢。全てを天秤にかけながら、ゆっくりと決断を下していく。
翌日、真琴は担任の先生に相談した。
「先生、科学部に入ろうと思います」
「そうか、よく考えたんだね」
「はい。でも、剣道も続けたいので、町の道場に通おうと思います」
先生は真琴の決意に満足そうに頷いた。
「自分の道を自分で決められたのは素晴らしいことだよ。頑張ってね」
真琴は胸を張って答えた。
「はい!」
教室に戻ると、千鶴と弦一郎が待っていた。
「どうだった?」
二人が聞いてきた。
「科学部に決めたよ。二つのやりたいことを両立する方法を見つけたんだ」
真琴の晴れやかな表情に、友達も安心したように笑顔を見せた。
その日の帰り道、真琴は空を見上げた。春の柔らかな風が頬をなでていく。
「新しい挑戦、楽しみだな」
そう呟きながら、真琴は家路についた。さくらんぼの木の芽は、まるで彼女の決意を祝福するかのように、少し大きくなっていた。