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さくらんぼの木の下で ―田舎の小さな街で暮らす少女・真琴の成長物語―  作者: 霧崎薫


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22/22

第22話「夏祭りの夜に」

 7月28日、真琴の町では毎年恒例の夏祭りが開かれていた。夕暮れ時、真琴は千鶴と約束の場所で落ち合った。


「まこちゃん、その浴衣素敵!」


 千鶴の言葉に、真琴は少し照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとう。ちづるちゃんも可愛いよ」


 二人で祭りの会場に向かう途中、弦一郎と美咲に出会った。


「おお、工藤、鷹野」


 弦一郎が静かに声をかけてきた。美咲も小さく頭を下げる。


「みんなで一緒に回ろう!」


 真琴の提案に、全員が頷いた。


 祭りの喧騒が夏の夜空に響く中、真琴たちは賑わう通りを歩いていた。提灯の明かりが温かな光を放ち、通りを彩っている。浴衣姿の人々が行き交い、祭りならではの活気に満ちていた。


 真琴は興奮気味に、きょろきょろと周りを見回していた。彼女の浴衣の袖が、歩くたびにふわりと揺れる。


「ねえ、みんな! あっちのヨーヨー釣り、やってみない?」


 真琴の声に、千鶴が優しく微笑んで頷いた。


「いいわね。私も懐かしいわ」


 弦一郎は冷静な表情を保ちつつも、目に期待の色が宿っていた。


「ああ、面白そうだな」


 美咲は少し緊張した様子だったが、小さく頷いた。


 四人でヨーヨー釣りの屋台に近づくと、威勢の良い掛け声が聞こえてきた。


「いらっしゃい! どんどん挑戦してってくださいね!」


 真琴が率先して挑戦する。集中した表情で、慎重に輪ゴムの先を水に浮かぶヨーヨーに引っ掛けようとする。しかし、なかなかうまくいかない。


「あっ、惜しい!」


 真琴の悔しそうな声に、千鶴が優しく声をかける。


「まこちゃん、もう少しゆっくり引いてみたら?」


 アドバイスを受けて再挑戦すると、ようやく1つ釣り上げることができた。


「やった!」


 真琴の歓声に、友達も一緒に喜ぶ。


 次に、金魚すくいの屋台に立ち寄った。ここでは意外にも、普段おとなしい美咲が才能を発揮する。


「美咲ちゃん、すごい! どうやってるの?」


 真琴が驚いた様子で尋ねると、美咲は少し照れながら答えた。


「え、えっと……ポイを水平に動かすのがコツみたい……」


 弦一郎は射的の屋台で腕を振るった。真剣な眼差しで的を狙い、次々と景品を獲得していく。


「弦ちゃん、かっこいい!」


 真琴の声援に、弦一郎は少し恥ずかしそうに首をすくめた。


 屋台を巡る間、四人は様々な屋台の食べ物も楽しんだ。焼きそばの香ばしい匂い、りんご飴の甘い香り、たこ焼きの湯気が立ち込める様子、全てが感覚を刺激する。


 千鶴が手作りの和菓子を買い、みんなで分け合って食べた。


「ちづるちゃん、これ美味しい! お店のと同じくらい上手だよ」


 真琴の言葉に、千鶴は嬉しそうに頬を染めた。


 夜が更けていくにつれ、祭りの喧騒も少しずつ落ち着いていく。真琴たちは、思い出がたくさん詰まった夏の夜を、心に深く刻みつけていった。通りを歩きながら、それぞれが今日の出来事を語り合い、笑い声が夜空に響いていた。


 射的の屋台では、弦一郎が真剣な表情で挑戦した。的を次々と倒していく姿に、周りの人々も注目し始めた。


「弦ちゃん、かっこいい!」


 真琴の声援に、弦一郎は少し恥ずかしそうに首をすくめた。


 夜が更けていく中、四人は神社の境内に設けられた休憩所で一息ついた。かき氷を頬張りながら、真琴はふと空を見上げた。


「ねえ、みんな。私たち、これからどんな大人になるのかな」


 真琴の言葉に、一瞬の沈黙が訪れた。


 千鶴が静かに答えた。


「私は……この町の和菓子屋を継いで、新しい味を作っていきたいな」


 弦一郎も真面目な表情で言った。


「俺は宇宙飛行士になって、この町の星空を宇宙から見てみたい」


 美咲は少し躊躇したが、小さな声で話し始めた。


「私は……この町の風景を絵に残していけたらいいな」


 真琴は友達の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


「私も……この町の自然を守る仕事がしたいな……。みんなの夢、絶対叶うよ!」


 四人は互いに笑顔を交わし、固く手を握り合った。


 そのとき、花火が夜空に打ち上げられた。色とりどりの光が、彼らの未来を祝福するかのように輝いていた。


「わぁ、きれい……!」


 真琴の声に、みんなが頷く。花火の光に照らされた友達の顔を見て、真琴は心の中でつぶやいた。


(この瞬間を、絶対に忘れたくない)


 家に帰った真琴は、窓辺に立って夜空を見上げた。遠くでまだ花火の音が聞こえる。


(今日という日を、一日一日、ずっと大切にしたいな)


 真琴の心の中で、友情と夢への思いが、夏の夜空のように輝いていた。窓の外では、さくらんぼの木が静かに夜風に揺れていた。

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