第19話「夏の訪れと揺れる心」
7月2日、真琴は窓辺に立ち、外の景色を眺めていた。梅雨明けを告げる青空が広がり、遠くの山々がくっきりと見える。窓を開けると、さわやかな風が頬をなでる。
「夏が来たんだな……」
真琴は小さくつぶやいた。その声には、期待と不安が入り混じっていた。
朝食の席で、美里が声をかけた。
「まこと、今日から夏服になるのよね?」
「あ、うん……」
真琴は少し戸惑った表情を見せる。新しい制服に袖を通す時、鏡に映る自分の姿に少し驚いていた。シャツがわずかに胸のあたりで突っ張る感じがして、なんだか落ち着かない。
学校に着くと、クラスメイトたちも夏服姿だった。男子たちの中には、真琴たち女子の変化に気づいて、ちらちらと視線を送る者もいる。
「おはよう、まこちゃん」
千鶴が優しく声をかけてきた。
「お、おはよう、ちづるちゃん」
真琴は少し緊張した様子で答える。千鶴の夏服姿を見て、自分との違いを意識してしまう。
授業中、真琴はなんとなく落ち着かない。夏服のせいで、自分の体の変化がより目立つように感じられて、机に少し身を縮こまらせていた。
昼休み、真琴は屋上に一人で来ていた。風に吹かれながら、ぼんやりと遠くを見つめる。
「工藤、ここにいたのか」
後ろから声がして、振り返ると弦一郎が立っていた。
「あ、弦ちゃん……」
「どうした? なんだか元気ないぞ」
真琴は少し躊躇してから、小さな声で言った。
「ねえ、弦ちゃん。私たち、変わってきてるのかな……」
弦一郎は少し困ったような表情を見せたが、優しく答えた。
「ああ、みんな変わっていくさ。それが成長ってものじゃないか」
真琴は弦一郎の言葉に、少し安心したような表情を見せた。
「そっか……そうだよね……ありがとう、弦ちゃん」
帰り道、真琴は千鶴と一緒に歩いていた。二人とも黙々と歩いていたが、やがて千鶴が静かに口を開いた。
「ねえ、まこちゃん。今日はなんだか元気なかったけど、大丈夫?」
真琴は少し驚いたように千鶴を見た。
「え? あ、うん……大丈夫だよ」
千鶴は真琴の手をそっと握った。
「何かあったら、いつでも話してね。私、まこちゃんの味方だから」
真琴は千鶴の優しさに、胸が熱くなるのを感じた。
「うん、ありがとう、ちづるちゃん」
家に帰ると、真琴は自分の部屋に籠もった。鏡の前に立ち、夏服姿の自分を見つめる。少しずつ変わっていく体に、戸惑いと不安を感じながらも、友達の言葉を思い出し、小さく微笑んだ。
「これも、成長なんだよね……」
窓の外では、さくらんぼの実が赤々と熟していた。真琴の心も、その実のように、少しずつ大人へと熟していくのだろう。




