第17話「和菓子屋の秘密」
6月15日、土曜日の朝。真琴は胸を躍らせながら、千鶴の家へと向かっていた。今日は千鶴の提案で、代々続く和菓子屋「鷹野屋」の見学をさせてもらう日だ。
「おじゃまします」
真琴が店の暖簾をくぐると、優しい和菓子の香りが漂ってきた。
「まこちゃん、来てくれてありがとう」
千鶴が笑顔で出迎えてくれる。奥から千鶴の母も顔を出した。
「まあ、真琴ちゃん。いらっしゃい」
店内に入ると、弦一郎と美咲もすでに来ていた。
「みんな、来てたんだ!」
真琴は嬉しそうに笑顔を見せた。
千鶴の祖父が、みんなの前に立った。穏やかな表情の中に、長年の経験が滲み出ている。
「さあ、みなさん。今日は鷹野屋の歴史と和菓子作りの秘密をお話ししましょう」
祖父の案内で、まず店の奥にある小さな資料室に入った。そこには、江戸時代から続く鷹野屋の歴史が詰まっていた。
「わあ、これ、すごく古い道具だね」
真琴が目を輝かせて言うと、祖父は優しく微笑んだ。
「そうじゃ。これは明治時代から使っている羊羹を切る道具じゃ」
次に、製造室へと案内された。清潔で整然とした空間に、真琴たちは息を呑んだ。
「ここで、毎日和菓子を作っているのよ」
千鶴の母が説明する。大きな釜や、細かな細工を施す道具たちが並んでいる。
「これは何に使うんですか?」
弦一郎が静かに尋ねた。
「それは、練り切りを作る型じゃよ。季節ごとに変えていくんじゃ」
祖父が丁寧に説明してくれる。
美咲は製造室の隅にあるスケッチブックに目を留めた。
「あの、これは……」
「ああ、それは新しい和菓子のデザインを描くためのものよ」
千鶴の母が答えた。美咲の目が輝いた。
「すごい……」
最後に、みんなで和菓子作りを体験することになった。祖父の指導の下、真琴たちは真剣な表情で和菓子を作り始める。
「こうやって、優しく包むんだよ」
千鶴が真琴にコツを教えてくれる。
「あ、そっか。ありがとう、ちづるちゃん」
弦一郎は黙々と作業を進め、時折美咲にもアドバイスをしている。美咲も、少しずつ自信を持って作業を進めていった。
出来上がった和菓子を見て、みんなが笑顔になる。
「わあ、きれい!」
真琴が感激の声を上げた。
「本当に。みんな上手にできたわね」
千鶴の母が褒めてくれる。
和菓子を味わいながら、祖父が静かに語り始めた。
「和菓子作りは、季節を表現する芸術じゃ。自然の美しさと、人の心を和ませる優しさを、一つの菓子に込めるんじゃよ」
真琴はその言葉に深く頷いた。
帰り際、千鶴が真琴たちに声をかけた。
「ねえ、みんな。夏休みに、一緒に新しい和菓子のアイデアを考えない?」
その提案に、みんなが目を輝かせた。
「いいね!」
「面白そうだ」
「私も……参加したい」
家に帰った真琴は、母の美里に今日のことを熱心に話した。
「へえ、素敵な体験だったのね」
「うん! ママ、私ね、こうやって伝統を守りながら新しいものを作っていくの、すごいなって思ったの」
美里は優しく真琴の頭を撫でた。
「そうね。伝統を受け継ぎながら、自分たちの色を加えていく。それは大切なことよ」
その夜、真琴はベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。和菓子屋の歴史、匠の技、そして新しい挑戦への期待。すべてが心地よい疲れとともに、体に染み渡っていく。
窓の外では、満月が優しく輝いていた。真琴の心も、その月のように、伝統の深みと新しい光を宿しているようだった。




